第21輪「満作」
——プライドを傷つける?
バーボンを舐めながらヴィンセント様は胡乱な声で問う。私は同じように甘いカクテルを傾け首肯した。
「ガストン様はプライドの高いお方よ」
「貴族は大抵そうだな」
「黙って聞いてちょうだい。ガストン様は夜会の度に私を部屋へ招こうとするの。そこを利用するのよ」
「下心見え見えでキモイな」
今にも吐きそうと言わんばかりに顔を歪める彼の手は、バーボンの瓶を掲げている。高い位置から注がれるそれは氷を押しのけ、グラスと共に音色を奏でた。
「んで部屋に行ってどうするんだ? 撲殺?」
「殺してどうするのよ。襲われかけたところを、ヴィンセント様に助けていただきたいの」
「そんなことでいいのか?」
「ええ、必要なのは彼より地位の高い〝目撃者〟。王子は最適だと思わない?」
「そんなことで上手くいくかな」
「上手くいかせるのよ。その後は私とホールで踊って貰うから覚悟しておきなさい」
「ええ!? 俺、ダンスは……」
「苦手なフリでしょ?」
「よくご存じで……」
「それでも構わないわ。欲しいのは既成事実。私と貴方が一緒にいても不審がられない理由だもの。周りに邂逅を見せつけられれば、それでいいのよ」
「分かった。その後は通い妻か。悪くない」
つまり今回の作戦はガストン様を怒らせることにある。
猫を被らなくていいとあらば独壇場だ。プライドの高い者同士、沸点は分かり切っている。
「そんなことはありません!」
「そう。でも私は貴方に興味ないの。
プレイボーイだと聞いたから、少しは楽しませてくださるかと思ったのに……本気だなんてがっかりだわ」
自らの頬に手を添え溜息を吐く。呆れた表情を浮かべれば、彼の表情が赤黒く染まっていくのが分かった。
「この女……!?」
両肩を押さえ付けられ視界が反転する。目の前を占拠するのは彼の怒れる表情。
あまりにも作戦通りにコトが進むものだから、ほくそ笑みそうになった。
「やめてくださる?」
「随分、冷静なんだな」
「御自分がなさっていることを、よく考えてみたら?」
「また得意の〝お父様〟か?」
「そうね。私と婚姻を結びたいなら、こういうことは得策じゃないと分かるんじゃなくて?」
「もういいんだよ! 一度、女を抱いてみたかっただけなんだからな!」
「そうだと思っていたわ」
「ああ、だから……」
衣服の裂ける音が聞こえた。目を瞠りながら恐る恐る視線を下ろす。
胸元ははだけ、今日の為に認めたドレスは、彼の手によってボロボロになっていた。




