第15輪「屈曲花」
「あまり面白い余興には思えなかったのですが」
「相変わらず思ったことを包み隠さないんだな」
ヴィンス様は天蓋付のベッドに寝そべり、僕の言葉を鼻で笑う。それでも、そう思わずにはいられなかった。
今日、エレアノーラ様が宣ったのは理想論でも無ければ、綺麗事でもない。
阿呆なことに手を貸すのは王子らしくないと思った。
それくらい彼女が奏でた言葉は無謀で根拠のない利己的な言葉だ。優秀な頭脳を用いている彼ならば、興味を唆られたとしても手を貸すなんてあり得ないと思った。
「ユアンは思ったより阿呆なんだな」
「申し訳ありません」
「いや、いいんだ。アイツが言ったことは一見そうとしか思えないからな」
「と、申しますと?」
「エレアノーラと噂になった貴公子を覚えているか?」
「アルファン家、ベアール家、シセ家、ディアッラ家……すみません。全ては流石に」
「それだけ分かっていれば十分だ。じゃあ、その家の特色を言ってみろ」
「アルファン家はジュエリー。ベアール家は輸入品。シセ家は慈善活動。ディアッラ家は……」
「金融機関。だがなディアッラ家は捨て駒だ」
「捨て駒?」
「紙幣は、いずれ価値が無くなるからな。国の崩壊後、何に価値を見出すか。それが重要だ。
けれど武器を仕入れるにも〝今は〟金が要る。ジュエリーに目を付けたのは悪くない」
「申し訳ありません。仰ってる意味がよく……」
「そうだろうな。アルファン家を選んだのはジュエリー事業より、宝石関連の方が強いからだろう。貴石は、それだけで戦争に発展させられるほどの資源だ。時価ではあるものの廃れはしない。
勿論、内部崩壊が前提での話だけどね。他国の支援を得る代わりに、此方は〝宝石〟を提供する。紙幣の価値が回復するまでの案としては悪くない。
ベアール家は、その過程を取り纏める云わばパイプ。伝手が無ければどうしようもないからな」
「それでいくとシセ家は何を?」
「フェイクだよ」
フェイク? と胸中で反芻する。答えの分からない僕に王子は勝ち誇ったように笑った。
「民といても怪しまれないだろう? 炊き出しの際、隠れて情報交換も出来る。いい案だ」
「ですが貴族がそれをするものでしょうか?」
「貴族だからさ。男漁りにも飽きて、豪華なものにも飽きた。物珍しいものに目覚めてもおかしくはない。〝変な人〟とは言われるだろうがな。
それでも慈善活動は、その家の功績になり爵位を得られるくらいのものだ。悪女が、そうなったところで不思議には思わないだろう」
「成る程」
「それで、お前は何がそんなに気に入らないんだ?」
「気に入らないことなどございません」
「エレアノーラを毛嫌いしているように見えたが?」
「誤解です」
「お前の考えを言え。命令だ」
「……不審には思われなかったのですか?」
「何故アイツが此処までするか、か?」
「はい。私にはやはりそこが疑問でならないのです。彼女の父親は〝悪の貴族〟我々に〝良い貌〟をしているに過ぎないかもしれません」
「成る程。だがな、それならもっと上手くやると思うんだ。ヴェーン侯爵は話術に長けた人だよ? あんな利己的な主張を彼が許すとは思えないな」
「ですが、それも罠の可能性が……」
「だとしたら俺達に見る目が無かっただけの話だ」
「レジスタンスのメンバーは、そんな風には思わないでしょう。もしも侯爵様の掌で踊らされていたら、どうされるおつもりなのですか?」
「そこはベルの采配次第だろ。俺なら逆に手玉に取ってやるけどな」
「ベルナールにそんなことが出来るとは思えません」
「同意だな。アイツは頭がキレるわけじゃない」
ヴィンス様は寝台から降り立つと、カウチに投げていたヴァイオリンを手に取る。軽やかな音色を奏で始めた為、口を閉ざしていれば「歌え」と言われた。
彼の言う「歌え」は口を開く事への許可である。
「ヴィンス様が指揮を執ればいいかと」
「ユアンは、それを望んでいるのか?」
「いえ」
「ならば何故そんなことを言う?」
此方を見ない彼は激しく弦を弾いている。音楽家も顔負けの情熱的な演奏は淡白な声に似つかわしくない。僕に対して本当に疑問を投げ掛けているかも不明だった。




