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半端な紅 演劇台本

作者: アコヤ貝

登場人物 寛治、大学二年生。

      紅里 大学三年生。

舞台   寛治の部屋。大学生のワンルーム。ソファは椅子で表現。

時間   午前1時


開幕

照明がつく。客席から紅里が歩いてくる。舞台階段を歩いたところ(玄関をイメージ)

で立ち止まる。寛治、部屋でくつろいでいる。


紅 「かーんじくーん!終電また逃しちゃったあ!とーめーてー」


寛治、気づいて居留守。


紅 「居るのはわかってるんだぞー!とーめーて!お願い!」


寛治、居留守を続ける。


紅 「無視を決め込むつもりですかあ?それならこっちにも考えがあるぞお」


紅里、童謡を歌いだす。寛治、あわててドアを開ける


寛 「部長!近所迷惑です」


紅里、部屋に入り込む。


紅 「おっじゃましまーす!!」

寛 「あーまたやっちまった……(小声)」

紅 「いやーごめんねえ、飲んでたらこんな時間になっちゃって」


紅里、ソファに腰を下ろしバッグを投げ捨てる


寛 「すっげー顔真っ赤ですね……どこで飲んできたんですか?」

紅 「横浜!」

寛 「どうせサークルの馬鹿どもに付き合わされて飲んでたんでしょ?その人たちはどうしたんですか?」

紅 「皆帰っちゃったあ」

寛 「帰っちゃったじゃないですよ。部長、俺前も言いましたよね。うちを当てにして終電すぎても飲むなって。どうしても飲みたいならならタクシー代用意しろって」

紅 「だってお金ないんだもーん」

寛 「もーんじゃないですよ……てかね、いつも言ってますけどね、いい加減そういう時は俺ん家じゃなくて彼氏の家に泊まってくださいって。彼氏さん横浜住みですよね?」

紅 「 ……締切近いから邪魔したくない。なんか、初めて文芸誌に乗るってめちゃめちゃ張り切ってたし……」

寛 「俺の邪魔はしていいと?」

紅 「私の存在は邪魔?」

寛 「……今日だけですからね」

紅 「わーい!寛治君好き!愛してる!」


寛治、固まっている。紅里、ソファでくつろいでいる。


寛 「本当に安い愛ですね。あんまりやってると副部長に言いつけますよ。副部長どう思うだろうなあ。部長がこんなに後輩に迷惑かけてるって知ったら、どう思うだろうなあ」

紅 「えー酷いよー。そしたら寛治君に連れ込まれて襲われたって叫んでやーるー」

寛 「信じそうだからこええんだよなそれ……てか、部長いつも女性陣に言ってるじゃないですか。どんなに仲良くても男の家に上がりこむな。男は皆狼なんだぞって。それ言ってるあんたが」


紅里、寛治が話している途中で立ち上がり、言い切る前に近寄る。


紅 「狼になる気、あるの?」

寛 「……早く寝てください。俺もう寝るんで。」

紅 「あ、じゃあお風呂貸してよ!」

寛 「急に来た人に入れる風呂はありません。どうせ着替えもないんでしょう?」

紅 「もう用意しちゃってよう」

寛 「だからもう来ないでくださいって言ってるでしょうが」

紅 「えー、けち!」


寛 「始発には出てってくださいね。俺ちょっとコンビニに買い物があるんで、その間に布団敷いて寝ててくださいね。もう場所知ってるでしょ?」

紅 「えー、一緒に行くよ」

寛 「やめてください。ここの周り知り合いいっぱい住んでるんですよ。見つかったら噂になるに決まってるじゃないですか」

紅 「いいんじゃない?噂になっちゃって」

寛 「彼氏さんはいいんですか?」

紅 「……寛治君の馬鹿。察してよ」



寛 「はあ……もうわかりましたよ。わかってますよ聞きますよ。彼氏となんかあったんですか?」

紅 「……ありがとう」

寛 「座ったらどうですか」


紅里、ソファに座る。寛治、地べたに座る


紅 「こっち座りなよ」

寛 「気にしないでください」

紅 「来てよ。冷たいでしょ」

寛 「……わかりましたよ」


寛治、紅里の隣に座る


紅 「私の彼氏さ、小説家なんだ」

寛 「知ってますよ」

紅 「このサークルで知り合った二つ上の人でね」

寛 「俺らが入部した時に引退したんですよね」

紅 「そうそう。最初小説なんて書くとは思わなくてびっくりしたけど、いつも本気で一生懸命で、だんだん尊敬するようになったの」

寛 「で、向こうも満更でもなかったから、付き合い始めたんですよね」

紅 「もう、茶々入れないでよ……彼の夢が叶うなら何でもしたいと思ったし、私なんか小説の次でいいって思ってた。でもね、私彼のこと舐めてたみたい。彼はね、頭おかしいくらい小説に本気だった」

寛 「……」

紅 「今度の文芸誌に彼が出す小説はね、従順な妻が夫に裏切られて嫉妬に狂う話なの」

寛 「どぎついですねえ」

紅 「その妻、きっとモデル私よ」

寛 「そうなんですか」

紅 「彼いつもそう。少しでも小説として面白いと思ったものは何でもネタにして書く。彼は小説として世界を表現するのが大好きで、世界すべてがそのためにあるの。きっとああいうのを天才っていうのよね。彼にとって書くことが一番で、後全部同じなの。私……二番目にもなれなかった。結構多いのよ、彼の作品に出てくる私がモデルのヒロイン。良い女も汚い女もよ……結構傷つくんだけどねえ。彼にとって私も、小説を書くためのネタなのよ」


 間 


紅 「いつだってそうよ、ご飯食べる時も、デートに行く時も、泊まった時も、そういうこと、するときも、表現したい世界があるか、そればかり考えてる。そんな目で私を見てる……私自身はどうだっていいのよ」


 寛治、しばらくして立ち上がる


寛 「そりゃ大変なことで。部長、もう寝ましょう。布団敷きますよ。俺ソファで寝るんで」

紅 「えー、もう?」

寛 「俺もあなたも明日は大学です。部長明日一限からですよね。俺もなんです」

紅 「えー……じゃあ、一緒に寝る?」

寛 「何言ってんですか。布団小さいんだから一人しか入れませんよ」

紅 「わかってるんでしょ?」


 紅里、立ち上がって寛治の両頬を両手で強く挟む。寛治、冷たい顔


寛 「何するんですか。やめてください」

紅 「もう疲れちゃった。何がヒロインよ、勝手に私の性格思い込んでるだけでちっともこっち見てくれない……もう嫌よ、あんな人……」


 間

紅 「寛治君のほっぺはあったかいねえ……」


 間


紅 「寛治君……優しくして……」


 紅里、寛治にキスしようとする。寛治、片手で遮る。


寛 「そのあんな人が好きなんでしょ?」


 間


寛 「ヒロインだのなんだの言って、自分を見てくれない。そんな男が好きなんでしょ?」


 寛治、手を放す


紅 「違うもん……」


寛 「俺に優しくされるより、あんな人の傍にいる方がいいんですよね?」


 寛治、座りなおす。紅里、その場に崩れ落ちる


紅 「違うもん。あんな人嫌い。嫌い。大嫌い!大っ嫌い!」


 照明徐々に落とす


紅(声のみ) 「あんな人嫌いだもん!!」


暗転。紅里、ソファで寝ている。寛治、缶ビールを持ってきて近寄る。一気飲みした後、缶を床に投げ捨てる。泥酔状態。


寛 「はあ、やあっと寝てくれた……今月でこれ何回目だっけ?」


 寛治、紅里のバッグを探り、手土産のお菓子を手に取る


寛 「本当にいつもうっかり終電逃す割には丁寧なことで」


 お菓子を適当なところに置く


寛 「ほんとにさあ、なんで俺なわけ?勘弁してくれよ。つかあんたに手を出したって知られたら俺もうサークル行けねえよ」


 寛治、紅里の隣に座る。


寛 「あんたは確かにヒロインだよ!日頃真面目なくせに、恋愛となると不器用で、そんな自分に酔っぱらって、こんなことして……俺を巻き込むんじゃねえよ」


 寛治、紅里の両頬を包む。


寛 「俺は物語のキャラになんかなれねえよ。毎日普通に過ごして、普通に生きたいんだよ。なのになんで……彼氏好きならそれでいいじゃねえかよ……つか彼氏もあんたのこと大好きじゃん。ずーとあんたのこと見てるからそんな書けるんだろ分かれよバーカ!」


 寛治、紅里の両肩を抱き寄せる。


寛 「まったくよう。酔っぱらった設定で来るなら、本当に酒飲んでから来いよな……ほっぺたすげえ冷たいんだよ(悲しげに)……紅里……」


 寛治、さらに抱き寄せる。


 FO(フェードアウト)。 閉幕


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