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1日1短編

一回目(タイトル:冬の木)

作者: ゆっちゃん

人気のない学校のほとんど人が寄り付かないところに小さな桜の木が佇んでいる。建物の影にひっそりとその身を隠している。裸になってから幾日か経ち、冷たい雨や雪をその一身で受けとめている。

いつか訪れるであろう暖かな季節を夢見て今を耐えている。たとえ、どんなに惨めで人知れず散る命となろうとも。次の春は花を咲かせ命を紡ごう、夏は虫に耐え、秋はいずれ来る寒さに備え、冬はまた寒さに耐え次の春を待つ。

これまでずっとこうしてきた。これからもきっと同じように生きていくのだろう。昔は、たくさんの子供たちの笑顔に囲まれていた。蝉や鳥の命のゆりかごになっていた。葉を散らせば綺麗にしてもらえた。寒くないように暖かなムシロを着せてくれた。しかし、最近は建物の影だけが私を囲むようになった。私が成長するよりも先にまわりの建物は成長していく。以前より、日を受けられなくなったため、より成長が遅くなってしまった。しかし、建物はその成長をよりはやめていく。

前の春に比べて花がたくさん咲かなくなってしまった。虫や病気で葉や幹がボロボロになってしまった。根も張りにくくなってしまった。次の春はまだ来ないのか、と考えることが多くなった。

この頃は、何も感じられなくなってしまった。自分はいまどうなっているのだろう、そんな思いも薄れていく。ただ、人の出入りが増えた気がした。大きな地響きも増えたように思う。もう、自分には関係ないが。最後に感じたのは、崩れる校舎からでたどこか懐かしいかおりのある埃だった。


暖かさが体を優しくつつんでいる。体が軽く感じる。窮屈な根が少し痛みを感じさせる。かたん、かたん、と一定のリズムが体に刻まれていく。風が強いのか、ごうごうとうなり声をあげている。しかし、体にはほとんど風が当たらない。奇妙な体験をしたあと、振動と風が無くなっていく。人の気配がある。私をどこかに連れていく。

暖かな日射しが体を温める。新しい土に根が歓喜する。見知らぬ土地、見慣れぬ景色だが、見知ったかおりがする。気がつけばたくさんの笑顔に囲まれている。私もたくさんの花を携え、笑顔に負けじと花を咲かせている。これまでと同じように、ではなくこれまで以上に生を謳歌していくのだろう。私の春はもう来ていたのだ。

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