序章 森の中で
気付くと俺は始めの場所にいた。
少し離れた場所の木が折れていることから、さっきのことは本当だったんだろう。
「…街はどこだろう。」
なんとなくポケットを探ってみると小さな地図と謎の紙切れが入ってた。何か書いてあるな。
“これが町に行くための地図な!あと、文字と言葉は理解できるようにしといたぞ!”
…なんて気のきく神様なのだろう。
さて、
「このまま町に向かうか?それともレベルを上げとくか?」
今の俺はこの森で生き残れる程度のレベルだそうだ。けど、この森がこの世界でどの程度の森かは分からない。
今の俺のレベルは25だ。30くらいまで上げといたほうが切りもいいし上げとくか?
まあレベルが高くて悪い事はないだろうし食料もある。…そういえば金は貰ってないな。
マジックバックがあるんだし適当なモンスターでも狩れば、売ってお金になるかもしれない。
「よし、そうと決まれば魔法の練習がてらモンスターを狩ってみるか!」
♢
早速モンスターを見つけた。
大きな図体に豚の顔。そう、俺が見つけたのは…
「オーク?…本物のオークだ!」
オークは俺を見つけるとこちらに向かって走ってきた。手には棍棒らしき物を持っている。
よし!いっちょやるか!
「…あ!魔法がどう発動すんのか分かんない!」
そうこうしてるうちにオークは近いてくる。
「確かなんか言えばいいんだ!えっと…とりあえずこれだ!アイスメイク“シールド”」
俺が某有名漫画の魔法をとっさに唱えると、目の前に氷の壁が出現した。
「おお!でた!とりあえず詠唱は、~メイクにしとこう!」
俺がそんな事を言ってる間も、オークは氷の壁をなんども殴っている。
しかし、多少の傷は付いているがまだ壊れそうにない。
「よし!シールドは結構強いな!次は…雷いってみるか。…サンダーメイク“ランス!”」
すると雷の槍が多数出現し、オークに向かって飛んでいく。
雷の槍はそのままオークへぶつか…ることなく氷の壁に当たる。
しかもそのせいで壁にヒビが入り、オークに破られてしまう。
「やっべ!えっと…ファイアーメイク!“鬼火”!」
俺の周りに多数の火の玉が浮かび上がるとそれが全てオークに向かって飛んでいく。
しかし、全身を焼かれながらもオークはまだ生きている。
「これで終わりだ!ウィンドメイク“鎌鼬”!」
透明の刃がオークを切り刻み、絶命させる。
目の前には見るも無惨な死体が転がっていた。
「ぅ、以外とグロいな…それよりホントに自由なんだな、造形魔法って。鎌鼬や鬼火って言っても発動するのか。」
ちなみに鎌鼬も鬼火も日本に伝わる妖怪の1種だ。 …形だけなら生物も作れそうだな。
そんな思わぬ収穫に、俺がウハウハしていた時だった。
「…あれ?またオークがいる。あそこにも…あれもオークか!?なんかめっちゃ多くない?」
俺のそんな声に反応気がついたのか、オークが一斉にこちらを向いて…走り出した!!
「まっまじかァァ!!!」
オークは…群れで行動するのか!?
「うっ、ウインドメイク“鎌鼬”!!!」
「「「ぐぎゃぁぁぁ!」」」
バダバタバタ、ボタボタボタ…
「…"」
しかし、オークは弱かった。
ちなみにこの戦闘で、レベルが1つ上がりました!
♢
そんなこんなで日が暮れた。
あのあともひたすらモンスターを狩りまくり、レベルは28まで上がった。
数時間狩りまくっても3つしか上がらなかったのは相手が弱かったからか?
俺はできるかぎり弱そうなモンスターばっかを狩ったため、あまり上がらなかったのかもしれない。
「とりあえず寝る準備するか。ウッドメイク…あれ?柵って英語でなんて言うんだ?やべ、俺英語苦手だったからな…ウッドメイク“柵”」
結局日本語だったが問題無く柵が張り巡らされていく。
安全の為には作っといた方が良いよね!
俺は神様から貰った食料(乾パンみたいな物)を食べながら今日一日あった事を思い出す。
…突然異世界の森に飛ばされ、そこでモンスターに襲われ、殺され、そしたら次は神様の部屋に飛ばされ、謝られ、けどチートは貰えない。だけど代わりに魔法とレベルを少しばかり優遇してもらい、そのあとはひたすらモンスター狩り。
「一日にしてはハードすぎだよな…」
最後にそう言ってから寝っ転がり、俺は眠りに落ちた…
♢
「…ん。なんだ?」
俺は何かの物音で目を覚ました。俺が今いる場所は真っ暗なため自分の事は良く見えないが、少し先の方に明かりが見え、声が聞こえてくる。
俺は、とりあえず音をたてないように身をかがめて様子を見る。
「そうだ。造形で望遠鏡でも作るか…」
俺は小さな声で氷の造形を行い、即席の望遠鏡を作る。
望遠鏡で見てみると、何やら8人程の男が焚き火をしていた。詳しくは分からないが酒のような物も飲んでいる。
…モンスターは平気なのか?
そう思ってじっと見てみるが、モンスターが近寄る事は無かった。…夜は寝ているのかもな。
しかし俺にはそんな事よりももっと気になることがあった。それは…
「あいつら…冒険者…じゃ無くないか?」
俺の勘違いかもしれないが、どう考えてもあいつらの持っている物が高そうな物ばかりなのだ。
まるで商人が運んでいるような高級そうな容れ物が大量にある。
かといって商人かって言うとそうでも無い気がする。
だって商人が、こんな即席望遠鏡でも分かるくらいの、血の付いた服を着るはずがないだろう。
元々も安そうだし。
けど、服に比べて武器だけはなかなか高価そうである。まるで盗んだかのような…
「…まさか盗賊…か?」
盗賊…異世界あるあるの1つで、商人や冒険者を襲い略奪行為を行う者。
基本的に女と酒が好きで、捕まえた女を欲望の限りに犯すことから、オークの人間版みたいな存在である。
そんな俺の疑惑は、すぐに確信に変わる。
盗賊の一人が手をしばられ、目隠しをされた女を連れてきたのだ。
ここからじゃ良く分からないが、魔法使い風の格好から、冒険者なのかもしれない。
女の子はここからでも分かるぐらい怯えていて、そんな女の子を見ながら男が口々に何かを言っている。
そして遂に男が女の子を押し倒そうと…
「サンダーメイク“ランス”!」
気ずいた時には、俺は魔法を放っていた。
真っ暗な森を雷の槍が奔る。
盗賊の一人がこの攻撃に気づいた時には、既にすぐそばまで魔法は迫っていた。
ズダァァン!
俺の魔法が着弾した途端、俺は飛び出す。
真っ暗な中で突然の光だ。
例え倒せてなくても目眩ましにはなっただろう。
俺の予想通り多くの盗賊が目を押さえていて、何やら喚いている。
ただ、魔法が直撃した男は倒れていた。
「ファイアーメイク“鬼火”!アイスメイク“ソード”!」
俺は、自分の周りに鬼火を浮かべ、手には氷の剣を出す。
何故かは分からないが、自分で作った火や氷は熱くも冷たくもない。
こっちはもっと謎だが、神様は俺にある程度の剣の腕前をくれたらしい。モンスター狩りの時に気づいたのだが、なんか剣がうまく使えて、出した剣に神様からのメッセージがあったのだ。
“PS,ある程度の剣の腕前も付けといた。サービスだぞ!”ってね。
…そんな事はどうでもいい。とりあえず女の子を助けて…
俺は盗賊に向かって鬼火を放つ。
盗賊は突然の出来事に混乱しているのか、慌てふためいている。
「おい!大丈夫か?」
俺は目に巻かれた布を取りながら訪ねる。
彼女はかなりの怪我をしていて、そこらじゅう痣や切り傷だらけだ。
「…誰…ですか?」
「通りすがりの冒険者で名前はハズキ。君は?」
「私はハルです。一応冒険者で、クエスト中に盗賊と鉢合わせてしまい…」
「そこまででいい。とりあえず逃げるぞ!」
俺はそのまま彼女をおんぶし、そのまま走りだそうと…
「…ガキが…調子に乗るのはここまでだ。」
「良くもやってくれたな…」
「えぇー…まじか。復帰早すぎ。」
既に盗賊の内、約半数…4人程が復活していた。
「…ハル、こいつらの強さは?」
「私がレベル21ですが…全員私より強かったです。そこまで圧倒的な差ではなかったですが…」
つまり相手のレベルは25くらいか?
俺のレベルが28で、ハルを背負ってのハンデ戦。…少しキツイかな?
俺は考える。
そして考えをまとめると、前に一歩出た。
「お前らこそ、こんな事してただで済むと思ってんのか?とりあえずお前らはぶっ倒させて貰うぞ?この盗賊野郎が!」
「あぁ?てめえ盗賊舐めんなよ?お前なんかブチ殺して、オークの餌にしてやる!」
俺は右手を盗賊の方へ突き出し…
「アースメイク…」
俺が詠唱を始めると、盗賊達は軽く警戒したように後ろによって下がる。
…好都合だ。
「“ウォール”!!」
俺は目の前に巨大な壁を作り、そしてすぐに回れ右して走りだした。
「「「「「え?」」」」」
そんな盗賊のとぼけた声を聞きながら、俺はハルを背負い街に向かって走りだした!




