第1章 問題児
金属のぶつかり合う軽快な音が響く。
場所はギルドの訓練所。その一角を使って、とてつもない戦いが行われていた。
短剣を持つ、軽装の少女と、日本刀のような武器を使うローブを着た少年が、周りから見れば目に追えない速さで戦っている。…まあ、それは俺とカエデなんだけどね?
カエデはしょっちゅう俺に奇襲をかけてくるのだが、今回は正々堂々と戦いたいと言ってきたのだ。それで、俺達はギルドの訓練所の1角を借りて戦っている。
Lv50ちょいの人間と、Lv100越えの吸血鬼とじゃ、まともな戦いにはならないのだが、俺が全力で手を抜けばなんとかなる。
そーいえば、既に俺はグランヒルデを軽く倒せるくらい強いって、前どっかで言ったよな?それじゃあ、どうして俺がこんなにも強くなったのかを、カエデの相手ついでに教えてやるよ。
まず、俺はグランヒルデの眷属になったよな?基本的に眷属は、作った本人より強くなるんだ。大体1.2倍くらい。これが、まず大前提な?
次に、俺は神の血を飲んだ。これによって、俺はグランヒルデの1.5~8倍くらいの強さになった。
………これだけで、俺は当時世界最強と呼ばれていたグランヒルデより強くなったわけだ。…さらに、俺にはもっと凄いことがある。
…そう。当時の俺のレベルは40ちょい。まだまだ伸びしろがあるのだ。グランヒルデは、100越えであの強さだった。それに対して、俺は40ちょいでグランヒルデより強い力を持っている。…じゃあ、レベルをグランヒルデくらいまで上げたらどうなるの?
結果がこれだ。強さの次元が変わる。吸血鬼の眷属という元々のハイスペックに、神の血。さらにレベルアップと、とてつもない超強化を経て、俺はこんなにも強くなってしまった。ちなみに、もし今俺が本気を出したら、一瞬でカエデを殺せるんだ。しかも、その一瞬の間に10回以上。チートだろ?
さて、目の前に意識を戻すと、マジな顔をしたカエデが連撃を放って来ていた。それを俺は余裕の表情で捌き、その剣撃を上回る速さで返す。一瞬で武器の形状と、属性を変えてだ。
形状は短剣。属性を風。一番速さが高い状態だ。
「…くっ」
カエデの口から苦悶の声が漏れる。これでも、カエデが対処できるギリギリ速さにしてるんだから、俺は優しいだろ?
…さて、少し本気出してみようかな。
「カエデ~魔法使っていい?」
「こっ、この状態でさらに魔法ですか!?」
「大丈夫。剣撃はやめてあげるよ。その代わり、俺の魔法を全て捌いてみて。」
「…マジですか。」
そこまで聞くと、俺はカエデから距離を取る。カエデはすぐに距離を詰めてくるが、別に問題ない。
「さて、いくか。カエデ~頑張ってね?」
「あぁ~!本気でやる気だ!」
カエデの表情が恐怖に支配されるがそんなの知らん。
「喰らえ!«隕石»!!」
隕石を造形した。といっても形を似せただけで、空で限界まで凝縮した土に炎を纏わせただけだ。複合造形という技術で、1度に何属性も合成して造形出来るのだ。ちなみに、詠唱はもうしない。…いつまでもパクる訳にはいかないだろ?
「マジですか!?ここでこれ使いますか!?」
「別にへーきだろ??まあ、ギリギリカエデでも対処出来る威力だ。まぁ頑張れ!」
そこまで言うと、俺は隕石をカエデに向かって放つ。
質量にそって落下していく隕石の威力は筋金入りだ。まぁカエデならギリギリ死なない程度の威力にはしたが。
さぁ、どうする?
「あぁ、もうやるしかないですね…«縮地»」
カエデが一瞬で移動し、隕石の落下地点からズレる。そのズレた場所には、多様な属性の槍を降らした。それをカエデは躱したり、短剣で撃ち落としたりしながら、なんとか俺に近ずいてくる。
「ほら、次はこれ!«クリエイトアースゴーレム»!」
土で出来たゴーレムが、3体現れる。1体1体が、以前盗賊をぶちのめした時の数倍は強い。
「«首狩り»!!」
それをカエデは、即死技を使って一瞬で無力化していく。
…流石は暗殺者。あのゴーレムを一撃で倒してくるか…
「そんじゃあ次は…」
「まだあるんですか!?」
「«銃火器»!!」
「無視!?」
俺は造形した様々な属性の火器を自分の周りに浮かべる。イメージは…艦〇れの武器が宙に浮かんでる感じ?…いや、どっちかって言うと、フェアリー〇イルの、エ〇ザみたいな感じか?あの剣が、全て銃火器に変わったみたいなもの…うん。これだ。
まあ、俺の周りには多種多様な火器が浮かんでいるとでも思ってくれ。
これなら、手加減しやすいから戦いやすいしな。
「それじゃ…斉射!!」
「ちょっ、それは流石に無理…」
俺の号令と共に、轟音が鳴り響く。カエデが何やら言っていた気もするが、きっと気のせいだろう。
普通の人ならあっという間に蜂の巣になりそうな銃撃がカエデを襲う。
「きゃぁァァァ!!」
「ほらほらほら~頑張れ~」
カエデは必死になって銃撃を捌く。まあ、この量の銃撃を捌くだけでもカエデは凄いのだが、そんな事を考えられない速さの銃撃がカエデを襲い続ける。
しかし、流石にこの量の弾丸を捌くのには限界がある。
カエデの体にも、所々に傷が出来てきた。…そろそろお終いかな。
「カエデ~そろそろギブか~?」
「…ギブです。」
その言葉を聞いた瞬間、俺は攻撃を辞める。
カエデはあちこちから血を流しているが、深い傷はほとんどない。まあ、俺が加減してやったからなのだが。
カエデは、銃撃が止んだ瞬間に地面に倒れ込んだ。傷が原因というより、緊張が解けたって感じだが。
そんなカエデに俺は目線を合わせてしゃがみ、一言。
「まだまだだな。」
「…しょうがないですよ。なんかもう、考えるのが馬鹿らしくなるくらいの実力差があるんですから。」
「ははは。まあ、カエデも強くなってるよ。眷属化したばかりの俺相手なら、5秒くらい戦える。」
「…それ褒めてるんですか?それとも、兄さんは強いって事を自慢していんですか?」
「両方だ。それより、早く帰ろうぜ?早くしないと面倒なことに…」
「あぁぁぁ!なんじゃこりゃぁぁぁ」
俺がそこまで言った時に、その面倒な事を起こす女がやってきた。
その女は、訓練所を軽く見回し、俺に気ずくと速攻で近ずいて来た。うん。縮地までは行かないけど、かなり速いな。
「ハズキさん!あなたは訓練所を何回壊せば気が済むんですか!これでもう4回目ですよ!?」
「あぁ~。ごめんごめん。ちょっとカエデの相手をしてたら熱くなってきちゃって」
「熱くなるのはいいんですよ!ただ、どうやったら、訓練所の地面が穴だらけになるんですか!?一応コンクリートですよ!?しかも、対魔法用の!そうそう壊れる事は無いんですが!?」
「しょうがないだろ?隕石を落としたんだから。」
「隕石?…まさかメテオを使ったんですか?」
「そのまさかだな。」
「なんでですかー!!なんで…なんで、あんな超範囲特大魔法を使うんですか!?あれって、確か前にオーガの群れを吹き飛ばした魔法ですよね!?あれをなんで個人に使っちゃうんですか!?」
「気分だな。」
「気分で訓練所を壊すなぁぁぁ!」
そう言って俺に掴みかかってくるのは、このギルドの受付嬢のユナだ。
年齢は14歳でカエデの1つ上。(今年で15)
このギルドでは、主に俺やハルが起こした問題事を解決するのがユナである。理由は知らん。
ハル(ギリC)や、カエデ(CよりのB)よりも慎ましい胸をしている(ギリB)。一応冒険者としても活動しており、レベルは25。若者の中ではかなりの有望株なのだが、本人は戦闘があまり好きではないため、受付嬢になったらしい。
そんな事はどうでもいいな。
「ごめんって。それで、修理費はいくらだ?」
「え?多分300万くらい」
「分かった。そんじゃあ、今から家に帰るから一緒に来いよ。そこでお金を渡すから。」
「あ、うん。分かった…って、えぇ!?私が取り行くの!?ハズキさんが持ってくればいいじゃないですか!」
「面倒だから。」
「そんな理由!?…ねぇカエデ~!!カエデからも何か言ってよ~。この人、なんかもう私の手に負えないよ~」
「私がどうにか出来るなら、とっくにどうにかしてますよ…諦めて、一緒に行きましょ?きっと兄さんが美味しいご飯を作ってくれますから。」
「カエデ?俺は作るなんて言ってないぞ?」
「…それならいいかも。ハズキさん料理上手だし。」
「おい、だから作るなんて…」
「…兄さん。早く帰ってご飯作りましょう。悪いのは兄さんなんですから。」
「そうですよ。元々は、訓練所を壊さなければ良かっただけの話ですから。」
「…はい。」
✿
「…美味い!!」
「当たり前だろ?俺が作ったんだから。」
「兄さんは、なんでそんな事を言うんですか…」
俺が作ったのは、ただのチキン南蛮だ。元々これを作ろうと思ってて、人数が増えても、肉を増やせばいいだけだからこれを作った。
こだわりはタルタルソースだ。これは、日本にいる時からのこだわりなのだが、タルタルだけは自分で作らないと嫌なのだ。その為、このタルタルには、かなり自信がある。
「…それで、ハズキは今回何を壊したの?」
「ん?あぁ。訓練所の地面だけだよ。軽く穴が空いたくらい。」
「…?それだけ?」
「うん。それだけ。」
「なら大した事ないね。」
「…それがただの地面なら、大したことないんですけどね。」
ユナがそんなことをボソリと言ったが、それに気ずいたのは、困った笑顔をしたカエデだけだった。
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ユナの設定 (もっ文字数合わせじゃないからな!)
ユナ Lv25 誕生日 11月11日
種族 人間
職業 軽戦士 受付嬢
二つ名 無し
説明
ディモルフォセカのギルドの受付嬢。ハズキやハルが起こした問題事を解決するのが、この人である。
長めの金髪をポニーテールにしている。
とても慎ましい胸の持ち主。けど、身長は低くない。
かなりの苦労人タイプで、しょっちゅう街中を走り回っている。
またまた、作者が思いつきで付け加えたキャラ。けど、別にそんなに気に入ってはいない。たま~に出るくらいかな笑




