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第1章 とある街の片隅で

ぽかぽかと暖かい日光。それを、俺は全身に浴びながら寝転がっていた。


季節は花。つまりは春だ。俺がこの世界に来てちょうど1年くらいだろう。

確か、来て最初の一週間はとても大変だった。うん。童貞を卒業したのも、その最初の一週間だったな。それから、グランヒルデが反乱したり、俺が吸血鬼になったり、ハルやカエデと出会ったり………

考えてみれば、これはとんでもない一週間だな。

しかしそんな一週間も、もう1年も前のことだ。今はこんなにもゆったりと生活出来てる。彼女も出来た。


「それに、可愛い妹も出来たしな……」


「…なんですか?こっちを見て。一応言っておきますけど、私はあなたの妹じゃありませんからね?」


「おっと。心の声が漏れてしまっていたか。危ない危ない。」


「その声も聞こえてますし、何が危ないんですか…」


さっきから、俺に少々辛辣な突っ込みをしているのは、俺の可愛い妹のカエデだ。今は俺と一緒に庭で日向ぼっこ中である。芝の上に寝っ転がり、ただただぽけ~としてるだけであるが。

ちなみにハルは、俺の横で睡眠中だ。俺の服をちょこっとだけ握ってるのがより可愛さを増している。

…うん。やばい超可愛い。天使だ。


「…兄さんはいつまでたってもハル姉とラブラブですね。たまには喧嘩でもしたらどうです?」


「アホか。もし、俺とハルが本気で喧嘩したらどうなるか分かるか?少なくとも、この街は滅びるぞ?」


「…いくら見た目がこんなでも、一応は吸血鬼とリッチーですもんね…」


正確には半だけどな?


俺はそう心で突っ込みつつ、またまたぽけ~とする。


そんな俺の両隣には二人の美少女。


うん。俺、充実してるわ。


「…言っておきますけど、私は兄さんに恋愛感情持ってませんからね?あっても、家族に対する親愛みたいな物ですから。」


「…確かに俺はハル一筋の男だが、目の前で堂々と美少女に好きじゃないって言われるのはキツいな。…まあ、家族って思われてるならいっか!」


そう言って俺は思いっきりカエデを抱きしめた。


「にっ兄さん!?ハル姉がいますよ!?」


「これはそういう意味じゃないから大丈夫。…それより、お前、以前よか育ってないか?このペースだと、すぐにハルに追いつきそうだな。」


「…兄さん。それ、ハル姉に聞かれたら本気でまずいですよ?世界が凍ります。」


軽く抱きしめたら後、俺はカエデを離した。

いや~俺も成長したな!いくら妹みたいなものとはいえ、美少女に軽い気持ちで抱きつけるようになるなんてな!


…あれ?そーいえばカエデって今ちょうど思春期に入り始めた頃か?もうそろ反抗期でも始まるのだろうか…


俺は急に心配になってくる。


俺にとっては、ハルもカエデも同じくらい大事な存在なのだ。

もし、「兄さん。…いえ、ハズキさん。もうそろそろウザイです。あなたのことが嫌いです。」なんて言われたら、俺はもう生きてく気力が無くなってしまうだろう。もしかしたら、世界を滅ぼしてしまうかもしれない。


「…兄さん?いきなりどうしたんです?なんだか顔色が悪いですよ?」


「いや。大した事じゃない。まああれだ。もしカエデに反抗期が来て、俺の事を嫌いって言ったら、俺はこの世界を滅ぼす可能性があるってだけの話だ。気にしなくていい。」


「いやいやいや!流石にそれは気にしますよ!?私の気持ちや言動1つで世界の終わりを告げる可能性って………あれ?兄さん。それってかなりのシスコンじゃないですか?正直気持ち悪いです。」


「……ハル。ごめんな?ちょっと俺世界最奥のダンジョンに篭ってくるわ。なあに。サクッと攻略した後魔王をぶっ倒しに行って、その後この世界を根本から作り変えるとする。少しの間お別れだ。さて、とりあえずダンジョンに行く…」


「兄さん!?それ本気で言って…あ、目がガチだ!?兄さん落ち着いて!!もし兄さんがどっか行っちゃったら、私がハル姉に殺される可能性が…」


「…ごめんな?カエデ。こんなにも気持ち悪い兄さんで。大丈夫。俺はこの世界を作りかえてから帰ってくるから…」


ちなみに、今兄さんからはとてつもない量の魔力が漏れている。こんな魔力を発することが出来るのは、魔王クラスのものか、最古竜くらいのものだろう。うん。本気でまずい。


「何言ってるんですか!?世界を作り変えるって…あ、今回も目がガチだ。ごめん兄さん!大好き!兄さんのこと大好きだから!」


私がそう言うと、兄さんから漏れ出していた魔力が急速に引っ込んでいく。目も、先程までは魔導人形(マジックドール)のようだったが、それが急速に色を帯び始めた。…一瞬だけ、オッドアイなのに同じ色になってたよ…


兄さんは座り込んだまま、立ってる私を上目遣いで見てくる。


「…大好き?」


「はい!大好きですよ!」


「俺のこと嫌い?」


「全然!!むしろ大好きです!」


私の渾身の説得の末、この世界の崩壊は防がれた。いやはや、危ない危ない。新しい魔王が誕生するかもしれなかった。


カエデはほっと息を吐き、発展途上の胸を撫で下ろしたのだった。


追記


こんな騒動の中、ハルは起きることなくぐっすり眠ってたことを追記する。



心ゆくまで日向ぼっこを楽しんだ俺達は、現在、夕飯の支度中だ。

俺がメインである肉を焼き、ハルがサラダを作っている。カエデは休憩中だ。なんだか疲れたらしい。…日向ぼっこしていただけなのに、何が疲れたんだろう?


「おお~いい匂い。流石ハズキ!ちなみに、今日の料理の名前は?」


「名前?そんな大層なものじゃないよ。ただのチキンのソテーだ。」


「…ただのチキンのソテーなのに、なんでこんなにも私と違うのだろう?」


ハルが思案しているうちに、俺は盛り付けを終える。まあ、盛り付けが得意じゃない俺のセンスだから、見た目はお世辞にも良いとは言えない。


「カエデ~ご飯出来たよ~」


「ふぁ~い。」


ソファーからのそりと起き上がったカエデがこちらに来て、イスに座る。するとすぐにハルがテーブルの上に料理を運んでいき、あっという間に綺麗な食卓ができた。…もし、イン〇タがあったら、間違い無く映えそうだな。


「では。いただきます。」


「「いただきます。」」


俺の号令とともに食事が始まった。ちなみに、この、いただきますは俺が恒例化させたのではなく、元々あった。なんだか、この世界は日本の影響をかなり受けている気がする。ラーメンあったし。


…やはり俺以外にも転移者や、転生者などがいるんだろうな。


まぁそんな事はどうでもいい。今は食事だ。


俺はソテーを一口食べる。


…美味い。やはり俺も進化してるな。一年前より全然美味しくなってる。

そんな自画自賛をしている俺だが、ホントに美味しいのだから文句は無いだろう。いや、これがマジで美味いんだよ。日本で店出せる自信あるもん。

その証拠に…ほら!


「むむむ。どうしてこんなに美味しいの?私が同じように作っても、こんなに美味しくないのに…」


「まぁしょうがないですよ。兄さんの料理は、素直に尊敬に値しますからね。戦闘以外で、数少ない兄さんの得意分野ですから。」


「まぁそうだね。その他の家事は既に私の方が得意だし。」


「…もっと素直に褒めることは出来ないのか?」


「褒めましたよ?美味しいって。」


「私も言ったじゃん!美味しいって!」


「…そうか!!」


美味しいか。うん!そうだよな!俺の料理だもんな!

やっぱり、素直に美味しいって言われるのが一番嬉しいんだな!





夕飯を食べ終わった俺達は、各自で風呂に入り、各々寝室に入っていく。

と言っても、俺とハルは同じ寝室なので、カエデだけが別なのだが。


ちなみに、まだこの家に引越してくるまでは、3人で仲良く寝ていた。いや、正確には、深夜になるとカエデがうなされるから、俺達が見守っていただけなのだが。

…そのせいか、夜の営みは中々する機会がなかった。もっと言えば、お互いがあまりそういった事に興味が無くなってきたのだ。


基本的に、生物が発情するのは子孫を残すためである。しかし、俺達はそんなに急いで子孫を残す必要が無い。寿命クソ長いし。

そういった事のせいなのか知らないが、この1年でムラムラしたのはホントに数える程しかない。最後にやったのなんて、多分2ヶ月以上も前だしな。


…なんだか倦怠期の夫婦みたいだが、そんな事はないぞ。


「…ハズキ。」


「なに?」


そんなくだらない事を考えてたらハルが話しかけてきた。なんだろう?


「もう一年だね。私達が出会ってから。」


「…そーいえばそうだな。細かい日付は覚えてないけど、多分このくらいだったと思う。」


「森で盗賊から助けてくれたんだよね~」


「そうそう。転移初日だった。あの時はびっくりしたよ。こんなテンプレがあるなんて!ってね。」


「私を助けた理由なんて、「そこにフラグがあったから」なんて言ってね。」


「そんな事も言ったなぁ~」


あの時は、我ながら凄い事をしたと思う。転移初日に超絶可愛い美少女を盗賊から助けるって…ねぇ。


「実はねぇ?私、一目惚れだったんだよ?ハズキに。」


「奇遇だな。俺もだ。」


「あの夜は緊張したな~」


「へ?ハル緊張してたの!?なんか凄い普通に寝てた気が…」


「まあね。そりゃあ…あったばかりの人と寝るなんて、緊張するし。」


「そりゃそうか。」


「それで、次の日に酔った勢いで卒業…と。」


「酔った勢いゆうな。誘って来たのはお前からだからな?」


「そうだっけぇ~?強引に押し倒された気


「童貞にそんなに事が出来ると思うか!?」


「ははは。出来る訳ないか。」


会話が途切れる。


けど、別に気まずい空気は流れない。だって、俺達にとって、この無言の時間さえ、愛おしいのだから。


「…ハズキ。」


「…ん?」


「大好きだよ?」


「…あぁ。俺もだ。」


その日。俺達は2ヶ月ぶりに抱き合った。




ハズキが異世界に飛ばされてから約1年。


とある街の片隅で 今 ハズキの夢見た異世界ライフは …実現していた。






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