「主人公」
「では、この子の学校案内を...」
これは。
学校案内中にトラブルが起こってそれを解決し、イチャイチャ出来る例のアレではなかろうか。
だとしたらここは目立っていない僕が選ばれるのが定石---
「佐藤くん、お願いできるかしら?」
違った。さっきまでの僕の気持ちを返せ。周りの男子も同様の反応をしていた。おぉ、同志よ。
この時僕の中に、少しだけ悔しいという感情が芽生えていた。恐らく他の男子も同様だろう。おぉ、同志よ。
「ええ、もちろん。」
そんな何の得にもならない考察を繰り広げていると、例の転校生を迎えにその人物が立ちあがる。
その人物は、礼儀正しく担任の川島先生の指示を了承して、例の転校生の前に立つ。
佐藤翔。さとうしょうと読む人が大半だろうが、かけると読む。明らかに顔が整っており、それでいて運動能力もずば抜けている。その上その能力を自慢することはなく、謙遜する能力もしっかり携えている。
僕はこの人物がどうしても好きになれない。理由を問われるならば、ただ一つ。
主人公の素質を明らかに持っているからだ。
主人公をどうしても好きになれない性質でもあるのか、僕は明らかな主人公を好きになれない。
「じゃあ行こうか、マリ」
「あっ、ありがとうございます!」
佐藤が手を出して手を繋ぐようマリをエスコートする。
少し、頬を赤らめながらマリは手を繋いだ。
この時、周りは「いきなりニューカップル誕生かぁ?」「まだ分からんぞ、俺がマリを独占するかもしれないしな」「馬鹿、お前には渡さねえっての」「あの娘、なかなか可愛いわね?フフフ...」など、同志諸君の発言から明らかな伏線のような言葉まで、いろいろな言葉が飛び交っていた。
しかし、その中に、今回だけは紛れることがどうしてもできなかった。
何故か、無性に、悔しかったから。
何故か、悔しいという感情が、高まっていた。なんだか、好きなものを持っていかれた時の感情に似ていて---
「あれ?---」
僕は、生まれて初めて、平凡な日常を自分から壊そうとしている事に気が付いた。
それは---。
「正気かよ、僕は---」
僕は、モブの分際なんだぞ---
そう言いかけた時、心の中にある強い感情に気が付いた。
(やっぱりひまわり、みたいだな)
後ろ姿を見つめながら、再び、心の中でそう言い放つ。
この時、僕の中で一つの目標が明確に生まれた。
思えば、この目標にどれだけ振り回されて、泣いたことか---
その話はもう少し段階を踏んでから話すとしよう。
僕の目標、それは---
「あの子の、マリの物語の、主人公になりたい」
ボソッと呟いた。今度こそ、誰にも聞こえない声で。
この時、僕の人生が歪み始めたのは、言うまでもない---
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