8.
集落にとどまった三日間で大隊が八割方集まったが、大隊長は見つからない。うちの大隊長はしようのねえ畜生で、生きてるだけでも申し訳ねえような老いぼれだった。この馬鹿が勲章欲しさに部下を三百人殺したという話は大隊はおろか師団じゅうに知れ渡った話だ。もし、おれたち相手にそんな命令を出したら、死ぬのはあのおいぼれだ、とおれたちは口々に言い合っていた。
そのうち軍医と衛生兵がぞろぞろやってきて、ここを野戦病院にするから、全員出て行けとほざき出した。大尉が三人、少佐の徽章をつけた軍医を相手にここで部隊を再集結させるよう師団司令部から命令をもらっていると言ったが、師団司令部は軍医にすぐ野戦病院を設営するように命令を出していた。
軍隊じゃ階級がものをいう。大尉が三人と少佐が一人なら、少佐が勝つのが常道だ。おれたちは部落を囲う土壁の外に転がって、大隊の残りがやってくるのを待っていた。そのあいだ、トラックが次々と負傷兵を運んできた。そのほとんどは二十歳かそれより一歳下くらいのガキばかりで腕がなかったり、脚がなかったり、体じゅう包帯でぐるぐる巻きにされていたりしていた。
はるか彼方にある廃墟群では光がピカッと光ってから、だいぶ遅れて、ずうん、と腹に響く砲の音がやってくる。そして、半殺しになった兵士たちが運ばれてきた。野戦病院は間もなくいっぱいになり、情け容赦ないトリアージが始まった。ライフル弾を腹に三発食らったやつが比較的軽傷であると見なされて、地べたに転がされ、放置されていた。医者も看護卒も足りず、薬も清潔な包帯ももうじきなくなりそうだった。それに反比例して負傷者の数が増えていった。トラックがこれでもかとばかりに負傷者を満載して野戦病院にやってくる。トラックは負傷者を降ろすだけ降ろして、また戦場へとんぼ返りしていく。
おれたちはこんなこたぁ、どうってことはねえ、と冷静なフリをしていたが、内心はクソを漏らすほど脅えていた。おれたちが何度もジョークのネタにしていた南部戦線の消耗戦争がこの砂漠にもやってきたのだ。何が薄気味悪いって、切断された手足が手押し車いっぱいになって運ばれて、外に掘られた穴のなかへ落とされていくのが怖い。切断された手足は死体そのものよりも不気味で不吉だった。
だが、恐怖のバージンはあっという間に過ぎ去る。おれたちはいつまで経っても、前線へ向かう様子がないので、ぴいぴい泣きながら運び込まれる兵隊にも切り落とされた手足の山にも動じなくなり、そのうち、担架で運ばれる兵隊をざっと見て、そいつが死ぬか生きるか、もう使い物にならないか否かを当てっこするようになった。それは人間として最低の遊戯だが、他人は大怪我しているのに、自分たちは五体満足でいられると、不死身にでもなったようにはしゃがずにはいられなくなる。
「あのガキは駄目だな。太腿の骨をやられてる。一瞬でも麻酔が切れたら、痛みでショック死するぜ」
「あの曹長はもつな。やっこさんは腹に貫通銃創だが、たぶんピストルで撃たれたんだろ? 一月もしないうちに戦場にとんぼ返りだよ」
「おい、見ろ。あいつ、手を撃たれてる。馬鹿な野郎だな。てめえでてめえの手を撃ったのが、バレバレだ。撃つなら手と銃のあいだにパンかビスケットを挟まないといけねえ。そうしねえとああやって火薬の焼けクズが火傷になった痕が残る。あの痕を見れば、こいつが戦場から逃げたくて、自分の手を撃ったのはバレバレだ。やっこさん、たぶん銃殺されるな」
「そうしねえと、みんな自分の手を撃っちまうもんなあ」
「うわあ、見ろや、あれ。どうやったら、あんなにばっくり裂けちまうもんかねえ」
おれたちはにわか仕立ての医療評論家になり、ガキどもの負った傷をあれこれ言い合う。自分に弾が飛んでこないもんだから、おれたちはすっかりいい気になっていた。
そうやって一週間くらい経ったころだろう。
終わりは突然やってきた。