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准将のケツの下で原因不明の爆発が起こり、散らばった肉片を集めるのに二個大隊を投入したというニュースが届くとおれたちはいっぱしの兵隊らしく敬礼した。
上官殺しというのはいろいろ手があるが、こんなに巧妙なのは初めてじゃねえかな。こんな素晴らしいアイディアが思いつくなら、髪型をドレッドロックにするのも悪くない。が、おれも歳だから、そんな髪型したら、ハゲになる。ラスタファリアンからはマリファナだけを分けあってもらうことにしておく。
戦線に出ていれば、上官殺しの歴史について詳しくなる。真っ赤な顔したインディアンのじいさんが世界の成り立ちを説明するみたいに、おれたちは大隊規模で上官殺しの歴史を口伝で受け継いでいく。ロストナンバー大隊はいろんな大隊の生き残りの寄せ集めだから、それこそ上官殺しのやり方とその顛末が危険な弾着パターンのように集中している。
一番ありがちなのは上官が寝ているテントに手榴弾を投げ込む。砕片手榴弾を使うのでフラグるという。兵士たちはこの宇宙に手榴弾が発明されたその日からむかつく上官をフラグった。一番いいのは便所でフラグることだ。つまり、上官が架設トイレに入ったら、汲み取りボックスにポイ。クソ野郎は噴き上がるクソとともに死ぬわけだ。
敬礼もよく使う手だ。クソ嫌な上官と前線で出会う。そうしたら、敵のスナイパーが見守ってくださいますようにとマンハント神にお願いをして、思いっきりきれいで非の打ち所のない敬礼をしてやる。スナイパーは上官を優先して撃ち殺すから、敬礼して、こいつが将校だと教えてやる。おれたちはなんちゃってスナイパーのアザレムに敵を撃つなら将校にしろよと常日頃から言っている。
「でも、どうやって見分けるんだよ?」
「向こうの兵隊だって将校にはうんざりしてらあ。お誂え向きの場所におびき出して、さっと敬礼するだろうから、敬礼されたほうを撃てばいい」
「じじいを撃てば、間違いないんじゃねえの?」
「おい、じじいを狙い撃ちにすんな」と、おれ。「アザレム。お前、救い難い馬鹿だな。この戦争はもう三年目も半分を過ぎてんだから、誰が将校かくらい。何となくカンで分かるだろ?」
「わかんねえし、わかる必要もねえよ。どうせ当たんねえんだし」
「こらぁ! しっかりしろぉ! お前、スナイパーだろうが」
「違うな。おれはスナイパーじゃなくて、分隊付きボルトアクション・ライフルマンだ。ただのライフルマン。お分かり?」
「じゃあ、そのスコープ外せ。で、おれにくれ」
「冗談じゃねえ。こんなかっこいいアイテム、手放せるかよ」
そのとき、フィゴットがおれたちの掩蔽壕に入ってきた。
「十八回目の攻勢が始まるぜ」
「なんで、そんなことが分かる?」
「ハーフトラックが集まってる。それも装甲板付き。それでおれたちを乗せて、敵陣を突っ切るつもりだ」
ハーフトラック。きっかけはいつだって、このトラックと戦車の合いの子をフィゴットが見かけるところから始まる。




