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ロストナンバーズ ~どっこいおれたちゃ生きている~  作者: 実茂 譲
0+3ヶ月+1年2ヶ月.王城
18/23

18.

 生きた敵というのを見る機会は実に少ない。捕虜たちはおれたちと同じしみったれた兵隊だった。ただ自分の頭の上でクソを垂れるやつらの名前が連邦なのか帝国なのかという違いに過ぎない。〈凄惨なる手榴弾キャンペーン・パート2〉のおかげで敵の半分を吹き飛ばすことができた。〈凄惨なる手榴弾キャンペーン〉には付き物だが、部屋じゅうに血だの肉片だの脳みそだのが派手に飛び散った。まあ、いい。おれが掃除するわけでもねえし。

 おれと〈教授〉は統計を取った。裁判所に籠っていたのは案の定、中隊よりももっと少ない半個小隊で七人だけだった。そして、そのうち四人が手榴弾で死に、残った三人が降伏した。おれたちに配られた手榴弾の合計は二九二個だ。そのうち、使用したのは二一七個。敵一人を殺すのに五四・二五個の手榴弾を使った計算だ。

 フン、誰が戦争はエコロジーだと言った? 残念でした!

 捕虜相手に寛大な処遇をすることは勝者の尊厳をくすぐられる。おれたちは互いの健闘を称えあうスポーツ選手みたいに捕虜たちの肩を叩いてやったり、チョコレート・バーをくれてやったりした。もちろん、こいつらを捕虜にする途中で味方が大勢死んだとなると、こうした態度は取り難いが、まあ、今は寛大モードでいられるので、勝利の余韻に浸ることにする。たった七人の敵を全滅させただけでも、勝利には違いない。

 九一大隊の連中に混じって休憩。二百人以上の兵隊が自動車道路沿いの歩道に道に腰を下ろした。後ろには宇宙旅行をモチーフにしたモーテルがあって、宇宙船の形をした部屋が馬の蹄鉄型に並んでいた。おれたちはその蹄鉄の出口を塞ぐようにして座っていた。モーテルの部屋はどれもめちゃくちゃに壊されていたが、一つだけ無事に残った部屋があった。その部屋の前にはジープが停まっていた。それが通信部隊の准将のものだということは分かっていた。准将が運転手を連れて、外に現れ、ジープに乗り込んだ。エンジンをかけていたが、腰を下ろした連中は誰一人動くつもりがない。

「こりゃ一悶着起こるぜ」

「そんなの大学出てなくても分からぁ」

 准将のジープが蹄鉄の出口にやってきて、運転手がクラクションを鳴らした。だが、兵隊たちは動かなかった。

「どけ、貴様ら!」

 准将が横柄に言った。こいつはどこにでもいる典型的な職業軍人だった。白髪を短く刈り込んで、本人が威厳があると勘違いした表情をしているが、おれにはケツの穴にクソが詰まって機嫌が悪いようにしか見えない。こいつは戦争が始まる前から軍人であったことがとても偉いことだと勘違いしている馬鹿だ。馬鹿だから、何もないときに好き好んで軍人になるってのにな。死んじまったオレンと同じだ。だが、オレンはおれたちの側にいた。こいつは違う。

 兵隊たちは立ち上がったが、その場を退くかわりにふりむいて、准将を挑戦的な目で睨みつけた。こりゃ上官殺しが起きる。おれのカンはそう言っている。事実、兵士たちの数人が銃に沿わせた指を動かして、銃のセーフティ・レバーをホールドとフルオートのあいだでせわしなくカチカチ往復させていた。

 上官殺しを見るのは初めてではないが、将官クラスが殺られるのは初めてなので、おれたちはわくわくして、そいつを見守った。

 九十一大隊の兵隊どもが安全装置をカチャカチャいじるのをやめ、フルオートにしたままで突っ立った。この混沌としたドラグナ・シティでおれたちはどこまで許されているのか。その限界を確かめるわけだが、おれたちは初めて売春宿に足を踏み込んだみたいにドキドキしていた。

 そのとき、ジープの後ろの影からひょこっとストーリー・マンが現れ、准将と兵士たちのあいだに割って入った。

兄弟ブラッダ! 行かせてやっちめえよう! マジ、こんなこと、関わりあいになるなんてなんちゅうこた、ラブが足りねえんじゃねえのけ?」

 その後、ストーリー・マンは兵士たちの一人に耳打ちした。ストーリー・マンの言葉はひどい訛りがあって、分かりにくいので、耳打ちされた兵士は五回もききなおした。そして、五回目で意味をつかむとニヤリと笑って、他の兵士たちにも道を開けるように言った。准将は階級章の勝利を信じて、おれたちに思い切り土埃をひっかけてから、後方のコンバット・センターのほうへと走っていった。

 おれたちはお楽しみを取り上げられて失望しながら、ストーリー・マンのまわりを取り囲んで、タネあかしを求めた。

「どうやって、あいつらを納得させた?」

「ラブ・アンド・ピースなんよ」

「うそこけ。ほんとは何をした?」

「あのソーゼツな手榴弾配りでもらった手榴弾にレインボーなテープを巻いたやつ、あったろ? あれをガソリンタンクに入れたんよ」

 創意工夫にあふれた、それも最後はハッピーエンド間違いなしの物語ストーリー

 つまり、こういうことだ。安物のビニールテープだけで安全レバーを止めている手榴弾が准将のケツの下――ジープのガソリンタンクに入っている。そして、ガソリンの腐食作用によってテープがボロボロになって、安全レバーが外れると――ドカン!

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