16.
おれは世界中のみんなを愛してる。
ほんとうだ、神様に誓ってもいい。
おれはみんなを愛してる、おまえたちみんなを!
――ウィリアム・スタログ
ストーリー・マンはラスタファリアンだった。ラスタファリアンというのは、おれたちの先祖が見捨てた地球という星の、さらにその先祖が見捨てたアフリカという大陸のエチオピアという帝国の皇帝ハイレ・セラシエを神の化身と崇める連中のことをいう。そういう連中が神は甦ると叫んだり、行進したり、マリファナをふかしたりすることをラスタファリ運動という。あるいはもっと縮めてラスタ。ストーリー・マンのめちゃくちゃなしゃべりからつなげた限り、こうだ――ラスタちゅうんは信じるんちゃうで生きるを言うんよ。ハイレ・セラシエぇ甦るんはラスタのあいだじゃチンポコの毛も生えてないガキでも知ってるんよう。ハイレ・セラシエはおれンじいさんのじいさんのじいさんたちが見捨てた地球ゥ元に戻して、おれら呼び戻してくれるんよ。これ、マジでラスタな話な。
おれたちは分隊専属のコミュニストを失い、分隊専属のラスタファリアンを得た。大昔の奇妙な偶然だが、ラスタたちの尊敬を一身に集めた皇帝ハイレ・セラシエはクーデターを起こされ、コミュニストに銃殺された。
おれたちはまあ最低でも小学校を出ているから、最低限の歴史を知っている。政府が躍起になって教えたのは星を食いつぶしてはいけない、食いつぶすなら移住先の星が見つかってからにしろ、というものだった。地球がどんなふうに滅んだかは、三歳児でも暗唱できた。昔、おれたちの先祖は地球を食いつぶしていたが、地球以外に住める星がなかったので、絶滅が起こらないよう計画的に食いつぶしていた。ところが、地球西暦で二〇五〇年だかそこらの気が遠くなるような昔、隕石が落ちた。落ちたのはメキシコのバハ・カリフォルニアにあるサンタ・フアナという小さな村でサンタ・フアナは一夜にして巨大なクレーターに変化して、住民は家畜とともに消し飛んだ。巨大隕石がぶつかったことで、ご先祖たちの隕石パニックが始まった。ノストラダムスだの遊星からの物体Xだののありがたくない影響を受けたご先祖たちはその隕石に人類を滅ぼすエイリアンとか疫病とかがくっついていたり、あるいは隕石衝突の衝撃で地軸が歪んで自転が狂い、また氷河期がやってくるとか、想像豊かにビビりまくった。だが、何も起こらないとご先祖たちは科学的興味で隕石を調べ始め、そして、隕石は一〇〇パーセント、新種の鉱石から出来ていたことがわかった。そいつはとんでもないエネルギーを持っていて、これを何かに利用できないかと目論んだご先祖たちは隕石をいじくりまわして、ついにワープホールを完成させた。そして、今のおれたちがドンパチをしているこの星を見つけた。おれたちのご先祖さまは地球同様に住める星があると分かると大規模な移住を始め、そして、地球を無計画に食いつぶし始めた。おれたちのご先祖は地球のケツを血が出るまでホった。熱帯雨林が消え、南極が消え、陸地が消え、あらゆる有用な地下資源が消えたころにはもう移住は完全に済んでいた。
ワープホールをつくった奇跡の物質は隕石が落ちた村にちなんで〈ファナジウム〉と名づけられた。人類は第二の星で地球食いつぶしのリバイバルを始めた。第一回目よりもずっと速いペースで。言うまでもないことだが、人類はもう一度ファナジウムを欲しがった。これさえあれば、というよりこれを独占できれば、そいつは第三の星の絶対的支配者になれるという誇大妄想が脹らみ、ありもしないファナジウムをめぐって、ドンパチだの経済制裁だのを始めた。連邦でもいろいろなところにファナジウムがあると噂されたもんだ。エブロ、ロスキントン、ニュー・カヴール、タワー=ロドフ、ミロ=ハロフ州の鉱山、ウルメゾ。あのナウクだって、一時期はファナジウム景気に沸いたことがあったらしい。まあ、どれもスカを引いたわけだが。
人類は今のところ、第二の星を計画的に食いつぶしている。次に引っ越せる星が見つかっていないからだ。
政府がガキどもに教えたい教訓はつまりこうだ――星に対して、何をしてもいい。ファナジウムが手元にあるなら。




