最高の時
出逢いを、メリーはきっと運命だったのだと喩えた。
恥ずかしくて僕はそれを肯定した事はなかったけれども、ここまで数奇な巡り合わせや非日常を引き寄せ続けていると、あながち間違いではないのでは。なんて、最近は思い始めていた。
たった一年……。いや、もう少しで二年になる僕らの相棒関係は、生きた年数で換算すればほんの十分の一。数字にすれば、あまりにも短い。だが、時間だけでは語れない物があることを、僕は確かに感じていた。
自分がもっとも輝いていた時。鮮烈に生きていた時というものは、どんな形であれ誰もが何度か経験するという。一分や二分という短い時間か。あるいはその瞬間から輝かしい日々が続いていくのか。
その規模や長さもまた、人それぞれ。その最高の時というものは、人生のいかなるものにも勝るのだ。とは、小学生……確かそう、卒業式の後に、僕が聞いた父さんの持論である。
当時斜に構えていた僕は、それに対して確かある小説家の言葉を引用した記憶がある。
「〝枯れない花はないが、咲かない花はある。世の中は決定的に不公平だ〟」
可愛くない子どもだなぁと、思い出す度に自分でも思う。どうして父さんがその最高の時の話を持ち出したのか。実はしっかりと覚えてはいない。ただ、そんな捻くれた解答を返していたあたり、多分何かがあってやさぐれていたんだと思う。嫌なことに蓋をする辺りは、僕も子どもだった。だけれども、その純粋さ故か。心に響いたからこそ、その後の会話をしっかりと覚えていたのかもしれない。
「そうかぁ。そういう見方も出来るよなぁ。辰は……凄いなぁ」
バカにした訳ではない。純粋に感心したような声色に、僕は毒気を抜かれたのだ。
「咲かない花があっても、辰みたいに気づいてくれる人はいるんだね。なら、その花も幸せだ」
「……気づいて救いになるとは限らないよ」
「何の気ないものが救いになることもあるんだよ。パパは辰がそうやって考えてくれるのが嬉しいし、救いだよ?」
「……お気楽思考。てか、父さん。話が迷子」
「最初に哲学的なこと言いだしたのは辰だろ~?」
父さんはそう言いながら、カラカラ笑い、その大きな手を僕の頭に置く。ゴツゴツしたそれは、家族を守る男の手だった。
「辰。今はわからなくていいよ。でも、覚えておきなさい。誰もが最高の時がある。それは人によって違うし、理解できない時があるのも当然なんだ。だけど、人の最高の時を笑うこと。これだけは、やってはいけないよ。夢や生き方に貴賤はないんだからね」
「笑ってはない。わからなかっただけ」
「それならいいんだ。わからないなら、これからわかればいい。辰が夢中になれるのを見つけていこう。大好きになれるものを探そう。それの為に全力を出せる男になってくれたら……パパは嬉しいよ」
オカルトという、全力になれて、大好きなものは既に見つけていたのだけど、それは口に出さなかった。理解できないのも当然。それを僕はずいぶん前に学んでいた。それを思い出した時、僕は不意に心が軽くなった。
その後確か、僕は父さんの最高の時を聞いたのだ。それに対する答えは……。
「え? パパ? そんなの決まってるさ」
辰とララ。そしてママと一緒にいる今だよ。
「……ララちゃん日記。何かパパがクサイこと言い始めました。きもーい」
直後、ララのダメ出しを食らってショボンとしていた父さん。だけど、どうしてか。僕はその姿がとてもかっこよく見えたのだけ、今でも覚えてて……。
「…………ああ、やっぱりダメだ。何があったか思い出せないや」
思い出を回想してから現実に戻る。結局、僕がどうしてやさぐれていたのかだけ謎だった。
卒業式で、多分何かがあったのだ。
まぁ、覚えてない辺り些細な事だったのだろう。思考を割くべきものは、しっかりと前にいた。
静かに佇むメリーを見る。
彼女と出会った事を思い出していたら、随分と昔の出来事も引っ張り出してしまった。
だが、それは決して無関係な訳でもない。こうして何の気なしに思い出したものは、僕の心を決めさせ、落ち着かせるのに一役買っていた。
夢中になれるもの。大好きなもの。それは見つけた。間違いなく全力を出せる。だが、それに目を向けるのとは同時に、僕は〝咲かない花〟の存在にも気づかざるを得なかった。
「……何から話そうか」
冷静になればなるほど、メリーに話したいことや成したいことが、まだまだたくさんあるんだと気がついた。
相棒がいなくなるかもしれない恐怖が強くなれば強くなるほど、それらはどんどん溢れてくる。だから、今は心に従うことにしよう。
偽メリーが、また現れるまで。今日が終わればあと一日。
これ以上メリーから何が奪われてしまうのか。
本当に僕の考えは正しいのか。それらの答えがもうすぐ出ようとしている。その前に……。ちょっとした独り言だ。
「何もかも、わかったんだ。全てに恐らくは。が付くけれど……外れてはいないはず」
偽メリーの正体や目的も。
コウトが現れた理由も。僕に何をさせたいのかも。
どうやって二人はここに来たのか。
平行世界の僕らが、高い確率で死亡している理由等。
繋げて妄想を膨らませれば、色々なものが見えてくる。その上で、僕が感じた事は……。
「君を助けるために、ただ手探りだった。偽メリーの正体を暴く。そうすれば彼女は弱体化して……。多分僕でも追い払えるだろう。怪奇であるならば、消滅させたりだって。その、つもりだったんだ。でも……」
それが僕の手で出来るのか。やらなきゃやられる。ならば躊躇うな。そう思う。実際向かってくる相手がいたならば、僕だってそうするだろう。だが……。
「偽メリーも……メリーなんだ」
偽とつけるのも、今やただ区別の為。真実を知った僕は、彼女をただ消してしまうのは、筆舌に尽くしがたい苦しみが伴うのに気がついた。今、偽メリーが抱いている気持ちを推測しているからこそ尚更に。
だから……。
「バカだと笑ってくれていい。僕はね。彼女を止めたい。狂気に蝕まれてるなら、その狂気を取り除いてあげたい。彼女を……救いたい」
多分コウトが考えているのも。同じだから。
その行為は、偽メリーとってはただ消されるよりも残酷だろう。けど、それを彼女に自覚させた上で、彼女自ら時間を進めてもらわねば……。〝報われなかった人達〟の涙は何処へいくのか。
「偽メリーを説得する。彼女を正気に戻して……目的を諦めさせる。そうすれば……」
きっとまた、僕らの日常が。世間一般からは少し逸脱した。だけど、かけがえのない最高の時が戻って来る。
「そう、したら……」
今はもはや僕を認識できない相棒を見る。
ただ、僕が傍にいるのを信じてそこに在るだけとなったメリーは、彼女だけの沈黙があまり居心地がよくないのか、少しソワソワしていた。
「…………っ」
予行練習? いや、それこそただのヘタレだ。決意表明? 今したばかりだろう。そもそも僕が言いたいのは、メリーがしっかりと僕を認識していなければ意味がない。
けど……。
そっと、柔らかな亜麻色の髪に手を伸ばす。触れる手前で、手が固まってしまう。
今までなら何の気なしに触れていた距離が、今は縮められない。
魅力的な女の子だと思っていた。
気が合うし、一緒にいて安心するし。何より……楽しい。
彼女と時間を共有するとき。僕は他の誰といる時よりも、自然になれる。
相棒だった。それはきっと、未来永劫変わらない。ただ……。下世話な話になるが、一人の男としても彼女の傍に在りたいと思う自分に、僕はこの短い七日間で気がついてしまった。
失ってから、あるいは失いかけてから、ようやく大切さを実感するなど愚鈍な証拠。だが、隠しようもないその想いは、僕の中で色々と迷走して……。僕は動けなくなっていた。
頬が焼けるように熱い。だって思い返せば思い返すほどに、僕らは端から見たらとんでもない行動を、サラリと無自覚に繰り返していたのだから。
普通にベッドで一緒に寝て。
クリスマス、お互いの誕生日、ハロウィンに年末。その他イベント……そこで殆ど行動をにする。
泊まり掛けで旅行もして。
結構ボディタッチ多めというか、パーソナルスペースが近過ぎてもいた。
「辰とメリーって……ホント何なの。いやもう……何なの!?」
いつかに半分涙目の半分キレ気味に僕を睨んでいた綾の言葉が、無駄に深く僕に突き刺さる。彼女は僕を鈍感という。自分の気持ちに気づかぬまま、メリーにあんなことやこんなことをしていたと考えれば……。こんなにも素晴らしく、僕に当てはまる言葉が他にあろうか。
一応言い訳をさせてもらうと、誰かに恋した経験なんてかつての初恋の一度きり。
以来そんな感情にならないままここまできて。恋よりオカルトを追うのが楽しくて、こんなにも拗れたのだと思う。
他にも関係を壊したくないだとか。もしかしたら、少しメリーを神聖視していた節もあったかも。
それくらい、彼女との相棒関係は、僕にとって大切だったのだ。
「……メリー、死なないで」
喉がカラカラに乾く。かすれた声がもたらしたのは、願いだった。
「死なないで。僕も、負けないから。ちゃんと君の意識が戻ったら、伝えるから。だから……死なないで。まだ、一緒にいたいんだ。君と行きたい所が。見たい世界がいっぱいあるんだ」
身体が震える。唇を噛み締めて、涙が流れぬよう上を向く。
気づいた想いが胸を満たす。僕の言葉に、メリーから返事などない。気持ちも言葉も、今は伝わらない。けど、それでも僕は、これを口にする以上、後には引けなくなった。
譲れないものが出来たのだ。その自覚は本物で。だからもう二度と、偽メリーの前には屈しない。
覚悟はもう、決まっていた。
「……好きだよ、メリー。君を愛してるんだ」
次はちゃんと、君にこの声が届きますように。
繋いだ手を握りしめ、僕は声なき慟哭を必死に押し殺した。
※
その夜。僕とメリーはいつものように一緒のベッドで身を寄せ合っていた。そこからしばらくして。不意に今まで黙っていたメリーが、口を開いた。
『気が、狂いそうだわ……』
「多分君ほどではないけど、僕もだよ」
感覚が全てないとは、何も得られないということ。圧倒的な孤独が、今メリーを蝕んでいるのは間違いないだろう。
『きっともう、ベッドの上かしら? もうすぐ、日付は変わる? 分からないことだらけよ』
「もう、休んでる。日付変更まで……。あと、十五分くらいだよ」
『いるの? もう寝ちゃった? ああ、ダメ。また質問ばかり』
「構わないってば」
『じゃあ、メリーさんジョークを一つ。少し位なら、いやらしいことしても許すわ。あ、もしかして真っ最中? 私、どんなことされてるの?』
「メリーさんブラックジョークやめい」
噛み合うようで噛み合わぬ言葉が飛び交う。置き時計の秒針が進む音が、凄く嫌だった。
『実はね。自分の声すら分からないの。声を出してる意識はあるんだけど……。あは、これじゃ本当にお人形ね』
「……っ」
彼女を抱き締める腕に、知らず知らずのうちに力が入る。
細さも暖かさも、今は分からない。あるのはただ、切なさだけだった。
『……次は、声。かしら。それとも意識? いいえ。寧ろ私は今、貴方の前にいるの?』
「いる、よ……! 君はここにいる! 間違いないよ……」
『寂しいわ……感覚はなくても、心が寒いの。貴方の声が聞きたい。顔が見たいわ。……それだけなのに』
やめてくれ。顔を曇らせないで。
叫びそうになるのを懸命に堪えた僕は、そのままメリーと顔を合わせようとして……。恐怖に戦慄した。
彼女の身体が、更に薄くなり。今や靄か霞といっても過言ではないくらい、弱々しくなっていたのだ。
「……っ、ぐ……」
『…………眠くなってきたわ。……こんなの、始めて』
幽霊は眠らない。ならば、それが意味するのは……。
『……死ぬ、のかな。それとも、意識が戻るの?』
後者だと、信じたい。いや、もう信じるしかない。メリーを偽メリーとの戦いにはつれていけない。
ここからは、別れてそれぞれの戦いになるだろう。
言葉は相変わらず通じない。もう、時間もない。
「メ、リ……」
『好きな言葉があるの。貴方のお母さんや、ララちゃん。あと、綾が使ってた言葉よ』
「え……?」
思わずメリーを見る。目線が合わぬまま、メリーの独白は続いていく。
『〝おやすみ。また明日ね〟……何の気ない言葉よね。けど、挨拶のあとに、また明日ねって付くだけで、何だかとっても暖かい気持ちになれたの。家族って感じがして』
いつかに実家に帰った時の事だろう。
関わった怪奇の真実は重く。だが、それ以外の日常では、メリーがいつになく楽しそうだったあの一時。随分と昔の事みたいに感じた。
『私も、使っていい? 明日起きる保証はなくても。きっといつか……起きて、優しい貴方の元に行くから』
「……うん。……うん、待ってる」
顔が酷いことになっていた。泣かぬようくしゃくしゃにしている。とてもではないがメリーに見せられたものではない。『待ってるって、貴方なら言ってくれるわよね?』そう彼女は囁いて。儚げに微笑んだ。
『私、メリーさん。今……いいえ。いつだって貴方の傍に。心にいるの。……おやすみ、辰。明日も大好きよ』
それが最後だった。
海の泡か。溶けたアイスクリームのように、メリーは静かに、僕の前から姿を消した。時計は真夜中の十二時。僕は魔法が解かれても尚、何もない場所を抱き締め続けていた。
明日が来た。後は……。
※
最後の一日は、全てを準備に費やした。
「……私の助力を得たい、と?」
「無茶は承知です。深雪さんがそれをするメリットなんて全くない。だからこれは……個人的お願いです」
僕がそういえば、その人はお気に入りのロッキングチェアをギシリと揺らし、僕を黙って見つめている。
翡翠みたいな碧色の瞳に柔らかな色が浮かんだ時、彼女は静かに立ち上がった。
『何か、見返りが欲しいですねぇ……』
声色と、纏う雰囲気が一変する。獲物に忍び寄る獣を思わせる動きで、深雪さんが静かに歩み寄ってくる。僕はそれに怯まず、彼女をじっと見据えた。ここで飲まれる訳にはいかないのだ。
「僕が出来ることなら」
『何でも?』
「何でもは無理です。僕が五体不満足になるとか、結果的に傷つく方法なら……僕は他を当たるしかない。二人とも無事。が、最低で最高の条件ですから」
『…………メリーちゃんが怒るからかしら?』
「彼女、本気で怒ると物凄く可愛くて怖いんですよ?」
『いや、辰ちゃん。それ意味わかんない。意味わかんないから』
呆れたように肩を竦めながら、深雪さんは静かに元の位置に戻る。いつものお茶目なお姉さんの雰囲気が戻ったのを感じて、僕はホッと胸を撫で下ろした。
「じゃあ、そうねぇ……条件は後で適当にふっかけるとして……今はまず前払いに、物語を要求します」
「いつもの、ですね」
僕らが体験した怪奇譚を聞くこと。それが深雪さんの楽しみでもあり、僕に知恵を貸すときの対価なのだ。
「じゃあ、そうですね……。昔の話ですが、時速百キロで走る……」
「あ、違う違う。そういうのじゃないです」
「え?」
僕がポカンとした顔になれば、深雪さんは悪戯っぽく笑い。
「メリーちゃんが激怒した話。私聞きたいなぁ……?」
「……怪奇欠片も関係ないですよ?」
「でも、物語ですよね?」
「………わかりました。あれは、メリーが並んでまで買ってきて楽しみにしてたバウムクーヘンを、僕が盛大に床へぶちまけてしまったのが、そもそもの始まりで……」
と、そんな具合に深雪さんから協力を取り付け。
『新幹線、乗りました。どこで待ち合わせしますか?』
「降りたら連絡お願い。迎えに行くよ」
今回の騒動に決着をつける、切り札を用意して。
『おや。今日はお一人かい? いつかみたいに嫁さんとケンカでもしたかい?』
「いや、そういう……訳でもないというか。うーむ。てか、嫁さんじゃないです」
『照れるな。照れるな。注文は?』
「……豚骨醤油ラーメンで。あと、もう一つ。折り入って頼みが」
『あいよ~。……頼み? なんだい?』
実はすっかり常連になった。いつもは二人で行く、狸のラーメン屋にて英気を養い。一応の保険をかける。
そして……。
「……まさか、取り出す日が来るとはなぁ」
引き出しの奥深くに隠していた、それを引っ張り出す。
勿論、まともな方法で運用する気はない。これはあくまでも確認だ。
ゆっくりと、それに施されていた封印を解く。
現れた黒い獣の手に、僕は恐る恐る声をかけた。
「……魔子」
呼び掛けに対して変化は、すぐに訪れた。
『……〝待っていたよ〟シン・タキザワ。呼んでくれるのを、ずっとね』
悪魔が再び。僕の前に舞い降りた。
※
最後の夜。僕はメリーが入院している場所……。から少し近い公園に佇んでいた。
二人が何処から現れるか分からない。山など張れる筈もないのだが、ちょっとした技法を試してみて。その結果を信じてそこにいた。
これで日付が変わって何も起きなければ病院へ行く。
後手には回っていない。既に病院にも手を打った。流石の偽メリーでも、簡単にはいかないはず。
一分一秒が長く感じて、僕は身を震わせるようにして息を吐いた。白い靄が漂い消える。その時――。目の前の世界がグニャリと歪み始めた。
来たらしい。
ズルリと。地面にまず落ちたのはコウトだった。スーツは見る影もなくボロボロで、牛の被り物も少し破けている。
荒い呼吸を隠さずに彼は僕を見て。
『そう、か……間に合ったんだね』
安堵したようにそう呟いて。そのまま力なく地面に突っ伏した。介抱してあげたいのは山々だが、今は一ミリ足りとも気が抜けなかった。
ズルリ。ズルリと音を立てて。そこに彼女は現れた。
黒い喪服を思わせるドレスを着込み。偽メリーが夜の路地に姿を現した。
『……こんばんは。私、メリーさん。今から病院に行くの……』
さようなら。
そう言って、彼女は急速に姿を透明にし、その場から立ち去ろうとする。だが……それを黙って僕が見ている訳もなく。
「悪いけど、通せない」
しっかりと、透明な彼女を掴みとる。そこから彼女の姿が再び出現した。
まさか見破られるとは思わなかったのか。偽メリーは驚いて身を捩り、僕の手を振り払う。
『…………おかしいわね? どうして触れるの。というか、よくここがわかったわね』
「〝男子三日会わざれば刮目して見よ〟ってね。七日も会わなかったんだ。君みたいに透明にはなれなくても……探して掴む位は出来るさ」
触れられぬ苦しみは、嫌というほど味わった。
認識しようと四六時中必死にもなった。お陰で今なら、偽メリーだって見つけられる。
『……それ』
「あ。わかるかい? 君の反応を見れば、君も作ってくれたのかな?」
いつもは首にぶら下げている、いつかにメリーがプレゼントしてくれたアミュレット。それが鎖ごと僕の手に巻き付けられ、振り子のように揺れていた。相棒と手を繋いでいる時のように、勇気がわいてくる……。だけではない。メリーに縁あるそれは、僕に力を貸してくれたのだ。
ちょっとした、占い擬き……すなわち『ダウジング』の応用だ。
水脈や失せ物探しに使われる技術と、僕の干渉を掛け合わせた、ハリボテなオカルト技。それによって彼女とコウトが現れる場所を見つけられたという訳である。
……九割くらいは勘みたいなものですよねそれ。と、深雪さんに罵倒されはしたけども。
偽メリーを見据える。動かないで。その意思表示を示しながら、僕は頷いた。
「話を……聞いてもらう」
『……私が何なのか。分かったとでもいうの?』
「ああ、その通りだよ」
『止めようって訳? 出来るかしら?』
「やらなきゃいけない。でなければ君も救われない」
僕の言葉に、偽メリーは怪訝な顔を見せる。そんな顔が出来るのも、今のうちだ。
「……〝ここのメリー〟も〝他のメリーも〟これ以上奪わせない。君は元いた世界に還って貰う」
たとえ都市伝説のメリーさんでも、ここから後ろには行かせない。僕の傍や背後に立っていい女性は、一人だけなのだ。




