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インターミッション2~雨天の回想~

 それは、とある休日の一幕だった。

 生憎の雨により、サークル活動は休止。やることもないなぁと思っていたら、こんな雨なのにメリーが部屋を訪ねてきた。


「今日は、何もないんじゃなかったっけ?」

「そうなんだけどね。考えてみたら私も予定無くて……」


 とっても暇なのよ。だから来ちゃった。

 そう言って舌を出すメリー。もし僕がいなかったらどうするのさ。なんて思いつつも、考えてみたら自分は雨の日に理由もなく外出するほどアクティブな人間でない事に気がついた。その辺も読んだ上での行動だったのだろう。


「まぁ、上がりなよ。タオル貸すから」

「ありがと……そんな濡れてないわよ? 精々腕とか髪とか」

「念のためさ。女の子が身体冷やすのよくない」


 ともかく彼女を招き入れる。

 一人暮らしの大学生故に、部屋自体はシンプルな1DK。玄関入ってすぐに階段があり、昇りきれば正面やや右側にトイレ。完全に右に行けば簡易カーテンを付けた小さい脱衣スペースと、お風呂に続く扉。突き当たりに洗濯機があり、それを覆うように洗剤や柔軟剤。バスタオル等を置く為の鉄製のラックが立てられている。

 僕はそこからフェイスタオルを引っ張り出し、彼女に手渡すと、そのまま今度は左側に。冷蔵庫に対面する形に位置するキッチンを通り過ぎて扉を開ければ、リビングに到着した。


 窓を背にしたソファーとローテーブルがまず正面から目につき、左側の壁には奥から順番にソファー横の姿見、デスク、大きめな本棚と続く。反対に右側には備え付けのクローゼットと下に収納スペースを備えたベッドが置かれている。最後にテレビは入り口側の壁。入ってすぐ左にある。丁度正面のソファーに座りながら観る形だ。

 リビング間取りは八.三畳。家賃は五万。それが、僕の住む部屋、サブウェイ201号室だ。


 少し湿った肌や髪をタオルで拭うメリーにソファーへ座るよう促し、僕はキッチンに戻り、手早くお湯を沸かす。

 戸棚を開け、少しカラフルな二対のマグカップを取り出すと、そのままリビングにとんぼ返り。来客のメリーは使ったタオルを丁寧に畳ながらも、まじまじとローテーブルの上……。僕が広げていたファイルノートを眺めていた。


「お嬢さん。コーヒー、紅茶、レモネード。どれがいい?」

「作ってくれるの? ……レモネードがいいわ」

「了解。君のほど美味しく出来るかは分からないけど、お湯沸くまで待ってて」


 そのまま手を差し出せば、メリーはいいの? と、こちらを見る。気にしなくていいとこちらが笑うと、彼女は「ありがと」と小さく呟いて、使ったタオルを此方に手渡した。

 それを風呂場近くの脱衣籠に放り込んで再びリビングに戻れば、メリーはさっきとはうって代わり、ゆったりとソファーに腰かけて。我が物顔で楽しそうに、さっき見ていたファイルのページを捲っていた。

 一瞬で自宅にいるかのような寛ぎっぷりを発揮する我が相棒だが、特に悪い気はしない。こうしてお互いの部屋を行き来したのは、一回や二回ではない。二人とも大学生で、一人暮らし。色々な意味で自由なもので、今更な話でもある。


「……懐かしいわね」

「でも実は、そこまで昔の話でもないんだよなぁ」


 パラパラという雨音の中で、僕らはそんな言葉を交わす。メリーが持っているファイルノート。茶色い革製のしっかりとした作りで、見た目がアンティーク調の書物にも見えるそれには、僕とメリーが関わった様々な案件が、僕の主観やらを交えて簡単に記録されている。

 いうなれば活動日誌。

 因みにメリーも色違いのファイルで同じようなものを作っていて、度々二人で見比べては、あーでもない。こーでもないといった議論に花を咲かせたり。懐かしい思い出に浸ってほっこりし、危うげな綱渡りを思いだし、身震いするのは、よくあることだ。


「いつのを読んでるんだい?」

「貴方が見ていたとこより、少し前よ。D校舎の秘密は衝撃的だったけど、やっぱり個人的に感慨深いのはこの事件かしら」


 此方にファイルの見開きが向けられる。かなり最初の方のページだった。


「……ああ、これまた、ヒヤヒヤする事件だったね」


 ヒヤヒヤしなかった活動の方が少ないのだが、この事件は特に。メリーと組んで暫く経ち、色々と思うところがあったころの話だった。

 僕の脳裏に、いつかの情景が目に浮かぶ。

 忘れもしない。あれは大学生として最初のゴールデンウィークを終えた直後。この世に存在しない駅にて、僕らとある怪異の間に生まれた、刹那の邂逅だった。


 関わった時間自体が短く。事が収束したのも結構あっさり目。だけれども、それは強いインパクトと、少なくない衝撃や色々な気付きを僕らにもたらした。


 渡リ烏倶楽部が正式に発足した、記念すべき怪奇譚だ。

 

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