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渡リ烏のオカルト日誌  作者: 黒木京也
サキュバスは聖夜に惑う
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サキュバスは聖夜に惑う《後編》

 深雪さん曰く、地下室にいた少女は、人間と〝サキュバス〟のハーフと〝ドライアド〟との間に生まれた存在なんだとか。

 サキュバスとは淫魔や夢魔とも呼ばれる悪魔の一種で人間の男性を誘惑し、精を吸い取ってしまうという。

 対してドライアドは木の妖精であり、文献によってはニンフと同一視される存在なんだとか。色々な諸説はあるが、その中にはこれまた人間を男性を惑わせ、虜にして食べてしまう。なんて話もある。

 そんな存在がこの世にいるの? とは今更だ。

 そして、肝心の混血少女はというと。

 遺伝的な問題なのか、自力で歩く事は不可能。ただ、問題は彼女の撒き散らす花粉にある。

 それには強い惚れ薬に近い効果があり……。吸い込んだ者は、意中の相手に対して、熱烈なアプローチをしてしまうらしい。

 因みに一応、メリーでも抵抗出来る筈なのだが、運が悪いことに花粉が他ならぬ僕を経由してしまったこと。そして更にはメリーが付けている御守りの効力が弱まっていたことも災いして……。話は冒頭に戻るという訳だ。


「今日の辰は……いけずだわ」

「メリィイ……お願いだ。早く正気に戻ってぇ……!」


 ちゅ。ちゅぴ。という湿った音と、理由が異なる男女の荒い息遣いが部屋に響き渡る。

 あれから、深雪さんから花粉自体は全部メリーを狂わすのに使われた。そうお墨付きが貰えて。一先ず僕らは部屋に帰る事を許された。


「多分二日。いえ、辰ちゃんが頑張って干渉を続ければ、明日の朝くらいですかね。それで正気に戻るはずよ。あ・と・は……裏技になるけどサキュバスだし、手っ取り早く一発か二発ヤッちゃえば解決よ! 恋人だし何の問題も……」

「深雪さん、春まで禁酒で」

「酷い!?」


 そんな会話を経て、昨夜は帰宅。

 そこから今に至るまで。僕は眠れぬ誘惑に身を苛まれる事となった。

 部屋に着くなり「暑いから薄着に着替えるわね」と言い出して、気がつけばミニスカサンタになっていて。

 そのままじりじりと距離を詰めてくるわ。ベッドに押し倒されるわ。くっつかれるわ。色んなとこにキスの雨が降らされるわ。

 引き剥がすにもあまり強い力で押さえ付けるのは躊躇われるものだから、正直もうギブアップ寸前だった。

  ただでさえ、彼女はセクシーなのだ。こんなの反則だと叫びたくなったのは一回や二回ではない。


「……耐えろ……耐えるんだ僕。大丈夫だ。お付き合いする前を思い出せ。普通に一緒に寝たり、朝起きたらおっぱいに顔が埋まってたり。温泉で裸見ちゃったことだって……綺麗だったなぁ」

『シン・タキザワ。自爆してる自爆してる』


 大丈夫か君? と、いう魔子の呆れたような声が、ベッドの横から響く。

 彼女こそ、僕の理性が瓦解しないために暗夜空洞から一時的に連れてきた、最後の砦だった。

「お願いします僕らを二人きりにしないで!」と、深雪さんに泣きついた結果である。因みに当の本人は商談があって今お店から離れられないらしい。酷い話だ。


『……てかさ。恋人なんだろう? 店主も言ってたけどもう受け入れて、行けるとこまで行っちゃえば?』


 そう言う魔子からは、さっきから帰りたいオーラが吹き出していた。この状況下であんまりすぎる提案に、僕はからくり人形のようにギギギ……。と、悪魔の方を見る。

 悪魔は……まるで僕の不幸は蜜の味とでも言うかのように笑っていた。


『添え膳ナントカだよ。君だって男だ。悪い気はしていないんだろう?』

「……否定は、しないさ。けど――」


 三大欲求は人並みに持ち合わせていると自負している。

 メリーを全て僕のものにしたいかと聞かれたら。間違いなくイエスと答えるだろう。でも……。それでも……。


「今の正気じゃない彼女を、僕は受け入れる訳にはいかないんだ」


 キスをせがむ口を、手で覆うようにして押し止める。宝石みたいな青紫色の瞳が哀しげに潤み、僕の心もまた、針を何本も突き立てられたかのように痛み始める。

 誘惑も辛いけど、こうして泣かれそうになる方が僕にはもっと苦しかった。


『それは、彼女がクリスマスを楽しみにしてたから? あるいは、初めてのセックスに幻想でも抱いてるとか? なら、気を大きくしたり、変な期待はしないことだ』


 どちらも経験ないなら、上手く行く方が稀だよ? なんて、いかにも生々しい話をし始めた俗っぽい悪魔。僕はそれに対してゆっくりと首を横に振った。


「違うよ。ただ、これは僕自身の問題なんだ」

『……君の?』

「そう。僕の」


 ゴム帯みたいな尻尾が左右に揺れる。『聞かせて』と、魔子の顔が喜悦で綻ぶのを横目に、僕は歯を食い縛る。

 いつの間にか、上着がはだけられていた。一応何回か抵抗はした。けれどもメリーはそんな僕の手を巧みにかわし、上からボタンを一個、二個、三個……。とうとう全部外してしまう。


「……ん、素敵よ」

「……それは、っ……光栄だね」


 うっとりした顔でメリーは僕のお腹に指を這わせる。それはやがてゆっくりと上に向かい、丁度心臓や血管が通る位置をたおやかになぞりながら、僕の熱を探っていく。

 ほんのりと呼吸が乱れたのは、隠し切れなかった。するとメリーは小悪魔めいた微笑を浮かべながら、今度は舌で指の通り道を追うようになぞり始めた。


「ぐ……っ」

「ね、どこが好き?」

「……教えない、よ……!」

「なら、探すわ。あなたの弱いとこ」


 時折、理性をかなぐり捨てたかのような強い吸引を交えながら、メリーは僕の肌に赤い花を咲かせていく。湿った肌は外気に触れて、ひんやりとしていた。そこにメリーの暖かな体温が押し当てられ、奇妙な焦燥を僕に与えていく。

 今すぐにでも、メリーを抱き締めてしまいたかった。身体中の柔らかいとこにむしゃぶりつきたい欲求が、まるで炎のように僕を舐め回す。

 けど、頭にある想いは、それをやったらおしまいだと叫び続けていた。

 受け入れてしまったら……僕は多分、自分自身を許せないだろうから。


「……メリーは過去に一度。いや、平行世界的には何度も、狂っているんだ」


 偽メリーやコウトの顔が浮かぶ。それは、ほんの二週間程前に解決したばかりの怪奇の話だ。


「色んな時を越えて沢山傷つけて、傷ついたんだ。彼女にとって〝狂って、理性や自分を失う〟なんて事態は、軽々しく考えていいものじゃない……!」


 このまま恋人であることを盾に、理性なき彼女の言い分を叶えたら。正気に戻った彼女は、きっと悲しむだろう。

 自分であって自分じゃない存在を僕が抱き寄せた事実に。そして、そうさせてしまった自分自身のことで。

それはまさに、メリー本人は勿論、偽メリーやコウトに対する冒涜だ。


 未だに首に巻かれている黒い蔦に触れる。白い部分はあと半分ほどだった。


「僕らは、どちらも幸せなままで一緒に歩むって決めたんだ。片方がおかしくなったなら、もう片方が頑張る。それが僕達だ……!」


 もう何度目かになる干渉を繰り返す。右手は酷使し過ぎて、既に感覚がない。素手で氷山を削り続けているような気分だった。

 それでも、全く効かない訳ではない。

 だから……!


「ねぇ、辰。凄いこと教えてあげようか?」


 その時だ。不意に僕への攻撃を緩めたメリーが、ゆっくりと僕に馬乗りになり、優しく囁いた。

 白い手が僕の頬を一撫でして。赤いスカートと上着に指をかける。


「このサンタ服の下ね……。ベビードールなの」


 鼻血が出た僕を、誰が責められようか。

 恋人が大胆になった上に、ミニスカサンタ何て殺戮兵器を身に纏っている二段構えかと思いきや、まだ変身を残していたという三段構え。

 正直、ゴールしちゃダメかなぁとほんの少し思ってしまったのは確かで……。

 そこで不意に、枕元に何かが着地する気配を感じた。  

 ずんぐりしたミンクみたいな黒い身体は……。


「魔、子……?」

『グッドタイミングだ。シン・タキザワ。ちょっとだけ貰うよ』


 僕が目を白黒させていると、魔子の尻尾が素早く動き、僕の鼻血をぬぐい去る。魔子はそれを、まるで水飴を舐めるかのように口に入れた。


『出血サービスと悪魔の恩返しって奴だ。あたしが手助けしてやる。君はこのサキュバスの特性を奪うことだけ考えてろ』


 嘲るように魔子は笑う。そのまま、長めの尻尾をメリーの首に巻き付けた。


「待ってくれ! 酷いことは……!」

『しないから安心しろ! いつかの偽物を送り返した時と同じだ。あたしの力を、一時的に君が借り受ける。それで――いける!』


 苦し気にもがくメリーの手が、魔子の尻尾に爪を立てる。それを見た時、僕は内心で「ごめん!」と呟きながら反射的にメリーの首に手をかけた。

 頭がまともに回っていないのを自覚しながら、僕はただ、彼女が元に戻るのを願い、渾身の念を込めて、諸悪の根元に干渉する。


「どうして……? 辰……!」


 哀しげなアメジストが、僕を射ぬく。僅かに生まれかけた躊躇いを必死に押さえ付けながら、僕は歯を砕けんばかりに食い縛りながら、ゆっくりと頭を振った。


「……君が大好きだからだよ。ミニスカサンタも。ベビードールも。本物の君に着て欲しい」


 魔子が助勢に入ってから、首輪が今までにない勢いで震えだし、遂には悲鳴を上げるかように軋み始める。それに呼応するかのようにメリーが纏う妖しい空気が収束していき……。


『幕引きだ、幸せ者な女め。アンコールは二人きりの時にするんだな』


 やがて、パキン。と飴細工が砕ける音がして。直後、メリーは糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


「――っ、メリー!」


 慌てて彼女を助け起こせば、僅かに上下する胸と微かな呼吸の気配が感じられる。

 眠っているだけ。その筈だ。 

 黒い茨の首輪は粉々に砕けている。後は灰色の種子を思わせる固形物がベッドに転がるのみだった。


「……これは?」

『残骸か。あるいは、サキュバスの力を持った何かか。……まぁ、店主に持ってけば喜ぶだろうさ』


 こいつで更に貸しを押し付けるのも悪くないな。

 そう呟きながら、魔子は種らしきものを口にくわえた。

 

「…………もしかして最初から、解決法わかってたの?」

『まさか。あっさりどうこう出来るなら、あの店で解決している』


 誇るといい。これは君の勝利だよ。

 そう言って、魔子は何処と無く嬉しそうに尻尾を回す。


『君が必死に花粉の力を半分ほど削って。そこに流した苦悩の鼻血。……バカな要素だと笑うなよ? 悪魔からしたら、極上の甘露だったんだ』

「……僕がナイフとかで最初に血を流してればよかったんじゃないかな?」

『わかってない。君はわかってないよシン・タキザワ。悪魔を舐めるなよ? 最近は安易に血を流せばOKと思ってる素人が多くて困る。そんなリスクの欠片もない血なんて美味しいもんか。もっと苦悶しろよ』


 そう言って鼻を鳴らしながら、魔子はとてとてと部屋の窓に向かっていく。そのまま「エイヤ!」と奇妙な掛け声をあげると、まるで訓練された猫のように後ろ足で立ち上がり、窓の鍵を押し上げた。


『あー働いた。じゃあシン・タキザワ。あたしは帰るよ。後は若い二人でごゆっくり~』

「ちょ、待って――!」


 冬の外気が部屋を冷やす中で、魔子はひらりとベランダに出て。そのまま僕の制止に耳を貸さずに、悪魔は夜の帳へと消えていく。

 残された僕は、ぼんやりとしままま、暗い夜空を見上げていることしか出来なかった。


「んっ……」


 寒くなったのだろうか。眠り姫となったメリーが身をよじり、温もりを求めるように僕にすがりつく。やがて、可愛らしい瞼がゆっくりと開かれて。


「……あ」

「……おはよう、メリー」


 多分いつもの何倍も疲れた声が出ていたと思う。事実僕は心身共にフラフラだった。

 それでも、彼女にはそれを悟られまいとしたのだが。


「変な強がりは止めて。…………迷惑、かけたわね」

「あ、意識はあったの?」

「いいえ。たった今、フラッシュバックみたいに思い出したの。ええっと……。その」


 珍しく羞恥に顔を赤く染めながら、メリーは目を泳がせる。

 その時だ。何故だかいつものメリーに戻ったことが嬉しくて。僕は……少しだけ泣きそうになり。堪らなくなった。


「……抱き締めちゃ、ダメかい?」

「……いいの? こんなすぐに正気を失うような女で」

「君がそうなったの、僕にも原因があるらしい。……ある意味で、彼氏冥利に尽きると言えるかもね」

「……貴方は、いつだって、私を救っちゃうのね」


 無言のまま。少しだけ下唇を噛み締めたメリーが僕の腕の中に飛び込んでくる。柔っこい肢体を引き寄せて、フワフワした亜麻色の髪に顔を埋めれば、愛しきハチミツの香りが僕を幸せにしてくれた。


「……というか、聞いてもいい? 何でミニスカサンタやベビードールがあるのさ」

「……聞かないで。ちょっとだけ迷走したのよ。サンタは、貴方が喜んでくれるかなって」

「ベビードールは?」

「聞かないで言ってるでしょうが。……バカな話よ。万が一貴方が辛抱堪らなくなったら、もっとメロメロに出来るかしら……なんて」


 多分着る勇気はまだなかったでしょうけど。と、自嘲するようにメリーは笑い。僕の後頭部を静かに撫でた。


「……狂ってたとはいえ、言葉にしたのは全部本心よ」

「……今それ言わないでよ」

「言うなら今かなって。怖かったのもあるけど、嬉しかったのよ? 私の為に貴方は必死に頑張ってくれたから」


 そんなの当たり前だよ。と、僕が呟くと、メリーは何故かちょっとだけ呻くような声を出し、そのままゆっくりと僕に目を合わせる。

 僕は……その瞳から視線をそらせなかった。


「ねぇ……」

「ストップ。メリー、僕は……」

「ダメよ。聞いて。私ばかり貴方に愛されてるって実感するの……不公平だと思わない? だから……」


 今度は私が、どれだけ貴方を愛してるか示したいの。

 メリーはそう囁いて、ゆっくりと顔を近づけてくる。

 それを見た瞬間、色んなものが暴発した。

 気がつけば僕らは再び強く抱き締め合い、そのまま邪魔するものは何もないのをいいことに、火傷しそうなくらいに熱い口づけが始まった。

 いつも以上に余裕などない、互いの体温を交わし、奪い合うようなキスは、彼女がサキュバスと化していた時とは比べ物にならない威力で僕を虜にして行く。

 

「待って、メリー……! これ以上は本当にダメに……」

「……いやよ。足りないわ。いつもみたいに……ね?」


 もっとキスして。と、唇をこちらに突き出してくるメリー。

 何というか。……さっきまで頑張ってたお前は何処へ行ったと言われかねないけど。もう、無理だった。

 もう一度、優しく口を触れ合わせ、僕らは至近距離で見つめう。鼓動が一つになる位に肌と肌を合わせたまま、僕らはゆっくりとベッドに沈んでいく。


「メリー……」

「……来て。ダメになっていいから。……私もダメにして」





 ※



 これ以上は語るのは憚れる。

 結局、お互いダメになるなんてレベルは越えていた。とだけ追記しておこう。



 ※




 微睡みから現実に帰還すると、片側半身が動かなかった。

 既に日は高くなっているらしく、カーテンの隙間越しに陽光が射してきている。

 その下では一糸纏わぬ姿のメリーがこちらに抱き着くような形で、すぅすぅと寝息を立てていた。動かないもとい動けない原因は、無意識に抱き枕を所望した彼女にあるらしかった。

 思わず笑みが浮かんでしまうのは、愛おしさだとか、色々な感情がごちゃ混ぜになっているからだろうか。

「あっ……んぅ……」

 殆ど無意識で空いた手で亜麻色の髪を撫でれば、メリーはくすぐったそうに身を屈めた。

 押し付けられている二つの膨らみが、僕の胸板でふにゅふにゅと形を変える。

 まだ半分くらい眠りの世界にいる彼女にはそれが適度な塩梅の刺激になったのだろうか。悩ましげに手足を僕に絡ませながら、メリーはゆっくりと寝惚け眼を開く。


「おはよう、メリー」

「…………おはよ。……昨晩みたいに、シェリーって呼んでくれないの?」


 とろんとした表情で僕を見上げて、メリーは幸せそうに笑う。その口から出た、からかうような言葉は彼女の頬を軽くつついて受け流した。……あれは、ちょっと感極まったというか。暴走してしまったというか……。


「改めて思い出したら恥ずかしくなるからやめてくれない?」

「あら、どうして? 嬉しかったのに。あんなに情熱的に名前を呼ばれたの、初めてよ?」


 何も言えずに顔をそらせば、茶化すように鎖骨を甘噛みされ、僕の身体が思わず跳ね上がる。

 お返しとばかりに彼女の小さな耳元に悪戯をすれば、メリーはフルリと身体を震わせて、逃れるように僕にしがみついた。


「……っ、ダメ。それダメだわ」

「うん、そうだね。僕も、こんなに可愛い君は独り占めしたい……。かな」


 本当の名前を簡単に知られちゃうのは惜しい。何となく、そう思ってしまったのは……。きっと僕には珍しい、独占欲という奴なのかもしれない。


「朝ごはん……ほぼブランチかな。今日は僕が作るよ」

「……キッチン、行っちゃうの?」

「……もう少しゴロゴロしてようか」


 堕落というなかれ。気遣いのつもりが、ちょっとズレていた。だからこれはその反省だ。

 寂しげな表情を瞬時に作ってみせた大女優は、僕の再采配に満足したらしい。そのまま、マシュマロみたいに柔らかい女神ボディが僕に重ねられ。暫しの間、二人で幸せな何もない時間に酔いしれる。


「……そうだわ。そういえば、まだ言ってなかったわね」


 そこでふと、メリーが何かを思い出したかのように頷いて。こっち向いてと言うようにかりかりと僕の首もとを軽く引っ掻いた。

 何事だい? と、僕がそちらに顔を向ければ、メリーは顔をはにかませて。


「メリークリスマス。辰」


 ……すっかり忘れていたのは、僕だけの秘密である。



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