女の秘密
おとなしくて、礼儀正しくて、でも、ボーッとしていてノロマ。穏やかだけど、愛想がなくて、つまらない。
他人からの私のイメージって、こんな感じだろうか。
いつでも人に気を遣って、言葉選びも慎重に。失礼なことは、言わないように…。
言葉を慎重に慎重に選ぶから、話し方もノロマ。相手が苛立つくらいのゆっくりテンポ。ただただ当たり障りのない会話を続けて…。
「君、おとなしいね。何か、想像と違った。」
…ほら、やっぱり。おとなしいって。
30代半ばのサラリーマンは、安心したように笑っていた。私もつられて笑ってみせるけれど、その笑顔はおそらく引きつっていた。
「…よく言われます。人見知り、ですし。」
「へえ。でも、こういう取引何度かしてるんでしょう?意外だね。」
「まあ、何度か…。」
「でも、綺麗な子で安心したよ。」
「いいえ……。」
サラリーマンは、眼鏡をかけた一見地味で真面目そうな男であった。中肉中背で、少し白髪が生えている。
落ち着いているかのように思えたが、じっと観察すると、男の細い目の中の黒目は左へ右へとチラチラ動き、興奮と緊張を抑えることができない様子が感じられた。
本当は、気持ち悪くてたまらない。
こんな男と二人で歩いて…何やってるんだろう…。
それでも、プライドを捨てて、感情を押し殺す。
大丈夫。渡すだけ…。すぐに終わる。
この人も、きっと悪い人ではないはず…。
男の左手薬指には、指輪が輝いていた。彼は既婚者のようであった。光る指輪が目に映る度、顔が熱くなり、汗が出た。
罪悪感……いいえ、この男への嫌悪感だろうか。
私の視線に気づいたのか、男は気まずそうに話を続けた。
「あ、僕実は結婚してるんだけど…なんていうか、妻のことを愛していても、今は恋人というよりかは家族って感じであまり、もう性的に興奮できなくて……。」
罪悪感なんて、私が感じる必要はないのかもしれない。
私はこの男を愛していないどころか、今日が初対面で、心の底から軽蔑している。私も、軽蔑されるべき人間であるはずなのに、自らのことは棚に上げ、この男への嫌悪感を膨らませていった。
兎に角、彼が既婚者であるか否か等関係ないのだ。
私が希望された物を売る。そして彼がそれを買う。 ただの売買取引だ ー
「ここのトイレで脱いできますね。」
寄ったのは、近くのコンビニ。
男は嬉しそうに頷いた。