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ミスリア・グフーズ

サゲマンの代名詞であるミスリア・グフーズであるが、彼女はけして傾国の女ではない。

色気も美しさもそこまではなかったし、悪女として優し過ぎた。



彼女の出生は少々複雑だ。

彼女の母親はグフーズ伯爵家で働いていた使用人、名はアーニャと言う。両親が不慮の病で亡くなると天涯孤独の身であった彼女は悪質な女衒屋に狙われ、伝手を頼りに伯爵家に就職したのだ。

そこで伯爵夫婦に可愛がれ、その子供達は慕われ、同僚達とは仲良くして充実した毎日を送っていた。

しかし、伯爵がよってアーニャと一夜の過ちを犯し、その末で出来てしまったのがミスリアである。


夫人は夫の行為を許さず、去勢手術をしアーニャに対しては手厚い保護をした。しかしアーニャはソレを断り、屋敷を辞めて下町で娘二人と暮らしていた。

だが、アーニャが流行り病で若くして亡くなった。ミスリアがまだ十歳の出来事であった。


伯爵夫婦は幼い娘に酷く同情して自分達の子供として養子に迎え入れた。夫人は立派な令嬢にしようと厳しい教育を施した。

元々ミスリアは外で元気よく走り、口を大きく開けて笑う様な下町が性に合う子供だった。

そんな子がいきなり貴族の令嬢として生きるのは些か無理があったかもしれない。さぞ大変だっただろう。

王妃の時も貴族として生きるよりも制限が多い。恐らくその話は夫人はキチンと説明した筈だ。


それでも王子の事を愛していたからそんな生活を耐えきったであろう。









「……また陛下はプレゼントを?」

「はい。今度はドレスを……」

「ドレスは一昨日新しいのを貰った筈よ。断ってちょうだい」

「それが『今日の晩餐会に来て欲しい』と……」

「それなら今夜だけ着るから終わった後直ぐに売ってちょうだい。どうせあの人は私の服なんて気にはしないのだから」

侍女は「畏まりました」と言うと部屋から出て行き、ミスリアだけが残った。


……町を走りまわりたいなー。

いや、無理だろうけど。王妃になったら自由な時間は持てない事くらいお義母様が再三言われた事だから分かっている。

ただ偶に。何も考えずに好き勝手走り回りたい衝動に駆られる。確かに王妃として大変な事ばかりだけど国を運営する為には必要なこと位馬鹿な私でも良く分かっているけど。


「国王がソレを理解していなかったら駄目だよね……」

彼の夫である国王は一カ月に何度も舞踏会やら夜会やら開き、私のプレゼントや自分の気に入りの部下に褒美を簡単にやり、後何の利用目的か分からない部署に税金のほとんどを注ぎ込む。お陰でこの国は苦しい状態だ。

しかもよく分からない部署をめぐってエジルと大喧嘩している。エジルは騎士団長で団員達に慕われているから彼に何があったら本当にこの国は終わりなのに。


リッジ―は神殿に篭って会う事はないけど、手紙のやり取りは今でもやっている。世間の噂も神殿にも入って来ているのか心配しているみたいだが、私は王妃だから大丈夫だと返信している。


ウィブリス先輩は一体何をしているだろうか。

宰相であるウィブリス先輩ならあの人を止める事が可能なのに。止める所か自分も好き勝手に動いてまったくあの人の行動には無関心だ。


「ウィブリス先輩怨んでいるのかな……」

先輩には私と同い年の妹さんがいた。その人が私の虐めの主犯者でその罪で貴族から娼婦に堕ちた人。

私のせいで人生を狂わしてしまった事に対して罪悪感を持っているが、どこか他人事のように思える私がいる。


学園生活時代にただの友人だった夫は王太子。対する私はただの伯爵令嬢。そのせいで私は辛いイジメを受けていた。

物を隠されたり汚されたりするのは軽い方、時には上から花瓶を落とされたり、階段から突き落とされそうになった時もあった。

ひやっとした時は何度かあったけど命の危機を感じたのは、手紙型魔法爆弾を受け取った時。

あの時はあの人がとっさに外に放り出したから助かったけど、もしいなかったらと思うと……

流石のあの人も怒って犯人を友人達で探し、主犯格であるフローレン様に辿り着いた。

私は断罪の時、王子の部屋で待機していたから直接対決する事はなかった。私を殺そうとした人と直接会う事を止めた事に関して後悔はしていないけど、理由位聞いとけば良かったとは思っている。









「ミスリアいるか?」

はっと正気に戻った。

「……ゼイル」

いつの間にか夫であるゼイルが私の部屋に入って来た。

「仕事はどうしたの? まさかまたサボったの?」

「いや。ミスリアから叱られたからもうしないよ。今は時間が空いたから顔を見に来ただけ」

一時期仕事の時も私の元に来るから仕事が滞り、末端の家来から泣きながら抗議の声を上げてきたから『仕事をキチンと終わらせる気がないのなら、私は離宮に篭ります』と脅したらしぶしぶ仕事をする様になった。

「ゼイル貴方は何をしようとしているの? このままだとその内革命が起きるわ。起らなくても難民問題に怒った他国から戦争を起こされるわ。せめて新しい部署の活動内容を皆に公表すれば少しはマシに成る筈よ」

「大丈夫だよ。もう少しでアレ・・が完成するんだ。そうすれば全ての問題は解決する」

だから『アレ』について詳しく説明して欲しいと言っているのよ!


「なあミスリア。全て終わったら旅行に行こう。南の国には美しい湖があるんだ。きっと君も気にいるよ」

王様が簡単に旅行は出来ない筈だろうけど……取りあえず適当に答え様。変に口答えしてヘソ曲げたらメンドクサイし。

「ええ。楽しみにしているわ」

ちゃんと怒ってやれないのが私の悪い所でしょうね。





活動報告に書いてあった通りにミスリアはヒロインに転生してきたお花畑な転生者ではありません。

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