王宮住まいのメイド達
「……今日もお疲れさまでした」
「「「お疲れさまでした」」」
「今日で今月十二回目になる舞踏会も皆の努力で無事終わる事が出来ました。ソレをお祝いして舞踏会で出た残り物の料理を皆で食べましょう」
「「「はーい」」」
ここは城から少し離れたメイド達が暮らしている館の一室。そこには四人の若い娘達が舞踏会で残った料理の処理をしている。
「うわ! お酒まであるの!?」
「うん。ソレ開けた奴だから好きな様に飲んで、料理長が言っていたわ」
「こんな高いワインのを残すなんて……コレだから貴族は嫌いなのよ」
「そう言うアンタも貴族じゃん」
「止めてよ。貴族って言ってもウチは貧乏男爵家だし。……でも、カレンの所と比べれば私の方がまだマシか」
「そうね、ウチは孤児院だしこのご時世、今いる子供達のご飯すらままならない時もあるから、私がしっかりしないと……料理半分貰って良い? 明日の早朝、弟達が来るの」
「まだまだあるからじゃんじゃん取りなさい。ホールに果物とか保存できる食事がまだまだあるから、貰えるだけ貰っときな」
生まれも育ちも年齢すら違う。だけど同室で同じ仕事場で彼女達は友情を育んでいだ。
「だけど毎回毎回こんなに残すのはどうかと思うんだけど」
「農村じゃあ、種イモすら食料にしているって言うのに、どこからこんなのが手に入るのやら」
「それが他国から輸入しているんだって」
「はあ~? ウチは去年の冷害と嵐のせいで、作物やら蚕の餌の桑が全滅したっていうのに。まさか借金しているんじゃあないでしょうね?」
「流石に宰相様がそんな事させないと思うけど……」
メイドの仕事は苦労が多いが不満がない。しかし、私生活は増税・徴兵等で不満が多い。街中では国の隠密が目を光らせているが、流石に王宮内には目を光らせてはいないだろう。メイド達は好き勝手話す。
「もうこれ以上増税は勘弁して欲しいわ。このままだとドレスやら宝石やら売る羽目になるし」
「シンシアは貧乏とは言え、男爵家の筈でしょ? それでも苦しいの?」
「利益を上げているのは一部の貴族だけよ。ソレ以外はなんやかんやで税を納める額が増えて正直ヤバイ。貴族の中で身売りが出るかもしれない」
「ウソでしょ!? 妾の子とかじゃあなくて?」
「最初に出されるのは多分その子達だけど、その内本妻の子も……まあ、売られた方が幸せなのかもしれないかもね」
「フローレン様の事?」
この中で最年長のエリスがキセル煙草を吸いながらため息を零す。
「思えばフローレン様の婚約破棄から、この国は駄目になったのよね……先代の陛下夫婦が亡くなり、碌な引き継ぎをしないまま王太子が王になってしまった辺りから先行きが不安だと思っていたけど」
「その隙に独立しているから、フローレン様はやり手よ。いや、フローレンス様が今の名前か」
「あ、それをやったのはフローレン様が働いていた女将よ。『フローレンス』も元々はその人の名前だったとか」
「あーあ。フローレン様が王妃だったらなー」
「今の王妃様は……悪い人ではないのだけど」
王女付きであるレディアがワインを飲みながら愚痴る。
「ミスリア様は悪い人ではないわよ。逆にしっかりと王妃としての務めを果たそうとしているのよ。ただ……ちょっと頭が足りない所があるだけで」
「結婚前、複数の男の人とお付き合いしていたのでしょ? 騎士団長様とか宰相様とか副神官長様とか」
「うえ、フローレンス様を断罪したメンバーじゃん。今でも関係あるの?」
「流石に肉体関係は結んではいないわよ。団長様は結婚しているし、副神官様はお仕事で神殿に籠りっきりだし。陛下自身あんまり王妃様を人前に出されないのよ」
「……ねえ。王妃様と王様。どちらが悪いと決めるなら誰だと思う?」
カレンの質問に他の三人は声を揃えて言う。
「「「王様」」」
「……やっぱり王様なの?」
「そりゃあね。さっきも言った通り悪い人ではないの。税を湯水の様に使っている訳ではないし。宝石もドレスもあんまり高いのは買わないし、買う回数も少ない。てか、あのお方は無駄使いしないのよ」
「えっ!? じゃあ何で……」
「陛下が色々王妃様に貢ぐのよ。どれ程王妃様が断っても陛下がどんどんプレゼントして……王妃様がその度に要らない物を売っているけど、追いつけないのが現状よ」
「それに何人かの研究者を集めて何かの研究をやっているみたいなんだけど、それに一番お金を入れ込んでいるのよ。何の情報もないから他の部署からは不満の声が多くって。酷い所は経費を削減された所もあるみたい」
「ああ。だから団長様の怒鳴り声が毎日聞こえる訳ね」
一番の勢力である騎士団の長が代表となって王に抗議をするのは自然の流れだ。王と団長は学園時代の仲間であったから余計に国王を咎める事が出来た。
しかし、どんなに騎士団長が説明を求めても、新しく作られた部署が何の目的で作られた事やその研究の内容、果てに予算の使い道などの説明を国王は頑として言わなかった。
これにより団長と国王との仲が悪化の一途を遂げている。……いや、フローレンの件から二人の絆にヒビが入っていたのかも知れない。
「……結局、一番悪いのは王様って事?」
「二番目に悪いのは宰相様ね。てか、実の妹を娼婦に堕とすのは酷過ぎる」
「あの人も何考えているのか分かんないよね……」
亡き父の後を継いだ宰相は国王の政策に苦言の一つも言わず、好き勝手している。外交ではかなり実力を発揮しているのか、難民等の他国の不満を抑えているがそれもいつまで持つか。
「……どうなるのかしらね。この国」
国を守る騎士団の団長は国王と険悪。助言を与えるべき宰相は国王を好き勝手させている。神殿は王家とは関わりを持たないから論外(しかも副神官だから碌に権力もない)。国王は暗君そのもの。
先行きの見えない未来に一抹の不安も感じながらも、彼女達は明日も王宮で働く。全ては自分達の大切なモノの為に働くのだ。
上記は王宮で働いていたエリスの日記を元に私が想像を働かせた会話である。
日記から分かる様に意外にも王宮内ではミスリアの評判はそこまで悪くはなかった。
エリスの同室であるレディアの言う通り、ミスリアは大した贅沢もせず、執務も真面目に行っていた記録もある。逆に高価過ぎるドレスや宝石類なのはミスリアを夫にプレゼントされる度に、溜息を吐いて嫌がったと、ミスリア付きの別のメイドの手紙にも書かれてあるので、彼女が庶民達に考えられている贅沢好きの王妃様の姿は間違いである事が分かる。
因みに国王がこの時何を作ろうとしていたかと言うと、別のページで詳しく書いているので省略する。