フローレン・メイリス・シフォンズ
フローレンスの本名は『フローレン・メイリス・シフォンズ』と言う。
ほとんどの人間は知っていると思うが、元はシャレーンの前宰相であったシフォンズ公爵の一人娘であったが、兄や元婚約者の策略によって娼婦になってしまったのだ。
しかし、フローレンはそんな逆境にも負けず、彼女が働く事になった娼館の女将――初代フローレンスの協力の元、店を大きくさせ、ついに国としてシャレーンから独立する事に成功した。
ここで疑問を持っている方がいるだろう。『何故シャレーンはヨシワラの独立を認めたのか?』
シャレーンとしては領土が減るし、手綱を握れば自国の利益になる筈なのに何故手放したのか?
答えは『時期が悪かった』。勿論シャレーン側の。
ヨシワラの独立を宣言する時、先代国王夫婦が崩御してその息子が後を継いたときだった。
優秀だった宰相も亡くなり、優秀な人間は皆、シャレーンから出て行った。何とか残った人間で引き継ぎをしていた時に初代フローレンスは独立の宣言書を送った。
ソレを受け取ったのはまだ城に働いて日も浅い見習いの文官で、普段は雑用をしていた人間がどの書類がどれ位重要なのか分かるとは思えない。だから、色んな書類の中に入れた。
王も自分の名前をただ書くという単調な作業に段々と頭を無心になっていくのも無理もない。いちいち書類を全部見たら日が暮れてしまう。だから業務的にサインを書き続けた。それは独立の宣言書も同じ様に。
ソレが発覚すると直ぐに撤回しようとしたが、初代は直ぐに他国にその宣言を広めた。シャレーンが独立を認めざるを得ない状況にまでヨシワラの地位を広めた。
フローレンはそんな手腕を振るう初代を尊敬し、初代が亡くなる時にその名前である『フローレンス』を引き継いだのは有名な話である。
ん~やっぱり若い子はいいわ。
どうやらアインベルちゃんは前世は男の子だったみたいで、何回かはノリノリでやってたんだけど、途中でダウンして主導権私が握っちゃった。
シャワーを浴びて(どうやらこの世界は入浴文化が出来ている)汗を流し、素っ裸で部屋を戻ると。
「またそんな恰好で。裸で部屋を出るかないでくださいとあれ程……ああ、髪もろくに乾かさないで」
「はいはい。今やる所だったのよ」
ニーノがタオルを持って何時もの様に呆れながら待っていた。
「アインベルちゃんは?」
「リジューナさんの手によって身体を洗って別の部屋に休ませて、明日ご家族にお返しします。……可哀想に性癖が歪んだでしょうね」
ニーノに髪を乾かして貰いながら私はゆっくりとしていた。
「私のせいじゃあないわよ。アインベルちゃんの元々の素質が」
「素質があったとしても、ソレを酷くしたのは間違いなく貴女のせいですよ」
ニーノに叱られて思わず「ぶーっ」と頬を膨らませる。ニーノがすかさず「いい年してそれはないですよ」と突っ込まれた。
「シャーロットとアンジェ達の様子はどうなの?」
「アンジェ様は農民や娼婦、男娼達の子供達と仲良くしてます。彼女を通して仲良くしている子供達が沢山いますね。このままいけば職業の隔たりもなく親しく成る人達が多いかもしれませんね」
「あの子は天性の人たらしだからね。極悪顔の人間でも思わず笑顔になっちゃうし、ロードも『アレは将来大物になるわ』て、太鼓判押しているし」
だけど君主としては不適合だ。あの子の生まれた村の人間は温和な性格の人間が多い。優しさだけでは国を治める事が出来ない。
その分シャーロットは君主としての非情な判断もできるし、帝王学も彼女の方が優秀だ。彼女こそ次期『フローレンス』の名を引き継ぐにはふさわしい。
「シャーロット様は子飼いのランファの協力の元、各国の上層部の情報を集めていますね。将来の為にもそう言ったのは必要ですね」
「あの子は『情報』を武器にしたいみたいからね。ところでランファ君との仲はどうなっているの?」
「……知っていたんのですか?」
「仮にも私は親よ? 娘の好きな人位把握してるわよ」
「……ランファ殿はただの子供の戯言だと思っていますが、シャーロット様は本気出して落としに行っています」
「何せ私の娘だしね。私の教育とあの子の才を合わせればとんでもない女になるわ」
そう言うとフ私ははケタケタと笑いだした。ニーノは『可哀想に』と改めてランファに同情した。
「所でニーノは本当に良いの?」
「何が?」
「私とのエッチ」
「またソレですか?」
私はビッチなので自分の使用人・付き人には必ず一回は性行為をする。しかしニーノは一度も私と寝ていないのだ。
「一回お話していると思いますが、私の国は宦官と言う制度があってその時に男性器を切断したんです」
「別に男は男性器だけ気持ちなれる器官がないわけじゃあないのよ。前立腺って知ってる?」
「お断りします。尻は排泄以外のモノを入れたくはありませんので。……さあ、乾かし終わりましたよ」
乾き終えた私は欠伸を一つ付くと化粧台から立ちあがった。
「明日の予定は?」
「午前は何時も通りに執務をしていただき、午後の初めにはロード様が街の報告に一度訪問します。夕方にはアンドリア様とお会いになります。それ以外の時間はフローレンス様のお好きに」
「分かったわ。ところでシャレーンの様子は?」
「変化はありませんね。何時も通りに湯水の如くお金を使い続けるせいで庶民達の生活は苦しくなるばかり。最近では街の小さな酒場で男達が集会していると報告が何件も」
「その中で将来有望な人間がいたら、その人物に支援を。その前にどんな奴が報告してね」
「了解しました」
「それじゃあ私は寝るから何時も通りに起こしてね」
「おやすみなさいませ。我が君」
ニーノが恭しく腰を折って見送ると私は寝室へと戻った。