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リジューナ・アルカード ③

私を捨てたその足で各店舗の支店長を集め、私が横領した事とソレを理由に離婚して解雇した事。その罪を発覚した功労者であるピリカルドを妻として迎え、私の後釜に納めると宣言した。

だが、事はそう二人の思惑通りにいかない。


何せ私自身が横領の調査をしていたし、私以外にも調査に協力していたのは人間には支店長の何人かいる。それに私が彼と一緒に馬車に乗って行く姿を見た者もいた。


誰もが気付いたのだ。二人が共謀して私を始末したと。


本当なら騎士団や警備隊にでも言えば良かったのだが、私が死んだ証拠もないし、(何せヨシワラは山を四つ越えなくてはいけない)後日私の元へ辿り着いた従業員が言っていた事だが、何度も調査願いだしても門前払いをされたらしい。


だからと言ってそのまま何もしなかった訳ではない。

私の想像以上に私を慕ってくれた従業員達が沢山いて、元夫達の仕打ちに腹を立てて集団辞職をした。その中には支店長や各部署で重宝している者もいたので元夫はさぞ慌てただろう。給料を上げ、待遇を良くすると言っても彼等は頑として縦に首を振ってはくれなかった。

当然だ。妻である私に対してあんな事をするのだから、他人である従業員(自分)達はどんな目にあうか分かったものじゃない。命欲しさに退職した従業員だっていた筈だ。


こうしてかなりの数の従業員達が辞めた後の商会は、もう目にも耐えない悲惨な状態だった。元夫達は何とか新しい従業員を採用しようとかなり給料高めにしたようだが、それでも一人前に働けるのは長い時間掛かる。

問題はそれだけではない。ピリカルドが私の予想以上にやらかした。

何せ横領の真犯人で、しかも会長公認だから好き放題やらかした。お金だけではなく、商品であるドレスや化粧品にまで手を付け、少しずつ赤字や欠品が増える様になった。

挙句に彼女の独断で取引先を選び、異常と思う位贔屓するから段々と取引を中止する所も出た。そもそも私の様に小さい頃から経済の勉強をしていた訳ではない商売人の素人が、会長の次に偉い立場になってはいけないのに、恋は人を此処まで馬鹿にするものだろうが?

そのせいでお客様の方から「商品の品質が下った」「従業員の態度が悪い」と苦情が殺到した。











「自分勝手な商売の素人に商売を任させれば、こうなる位予想出来たでしょう? どうして愛人として傍に置くだけにしなかったの? ……で、恥知らずに私の前に現れたのは何かしら?」

「……オリジンから商会の権利買ったのだろう」

「ええ、そうよ。あの商会は私の両親と貴方の両親が築き上げたモノを簡単に無くさせたくなかったからよ。それにオリジン達から土下座されたらね――」










私がヨシワラの生活に慣れた時だった。

オリジンは父の代からの従業員で数少ない商会に残っている古参人でもあった。あの日オリジンは辞めたのを含めた数人の従業員を引き連れて私の元へ現れた。どことなく草臥れた様子だった。


「お元気そうで……ヨシワラに移住した従業員から貴女の生存を聞いた時、どれ程ミシュラ様に感謝した事か」

「用件は? 私に会うだけならここまで大勢で会う事はないでしょう?」

「……リジー様。どうか我等の商会の会長となって下さい」

予想通りの、しかしオリジンの性格上絶対に言わない筈の言葉を吐いた。


「……オリジン。悪い言い方だけど、女性が長として働くのはあまり好ましくない人間でしょう貴方は?」

「はい。女性の権力者は時に碌でもない男のやっかみに遭います。女性は男性と比べれば力が弱い。何かあったら被害は商会にまで及ぶ。だから私はリジー様を旦那様の後を継ぐ事に反対したんです」

フローレンス様の様な活躍する女性が多いけど、未だ男尊女卑な風潮があるのは事実。でもまあ、オリジンの言い分は分からなくないし、私が秘書として働いた時は良き理解者だったから気にはしなかった。


「そんな貴方が自分の信念を曲げてまで頼むなんて。――どこまで悪化したの?」

私の言葉に顔を俯き、オリジンと古参の従業員達はぽつりぽつりと話し始めた。


オリジンの話はこうだ。

あんまりにも事業が悪化するから元夫は他の商会と合併して借金を解消しようと言う、とんでもない提案を上げたのだ。

無論オリジン達幹部達は大反対したが、ピリカルドが賛成したのを免罪符に話を進めた。しかし少なくない借金を持っていた現在の商会と合併する物好きはいなかった。私の目から見てもあの商会は特別な技術も商品も特になく、ただ品質の良い商品と従業員が特徴の老舗店だった。そんな旨味のない商会と合併したい所はそうないだろう。


そんな中、とある店が合併に名乗りを上げた。


「ジュロール? 確かシャレーン国の王室御用達の店だった筈?」

「そうです。その店から合併の提案が出て来たのです」

「確かジュロールの社長は王妃様が下町時代に付き合っていたと言われているよね?」

「それだけではありません」

オリジンは顔を顰めた。


「後で知ったのですが、ピリカルドが貴族入りする前の王妃様と家がお隣同士で、しかも姉の様に慕っていた人物だったのです。ジュロールが名乗り上げたのはピリカルドがジュロールの社長に紹介したからだと思われます」

……だから王妃様はあんなビッチになった訳ね。


「ジュロールからどんな条件を出されたの?」

オリジン達がここまで追い込まれるなんて、どんな悪条件を出されたのかしら?

「ここに条件の一部・・が書いた紙があります」

そうして机の上に出された紙を見たのだが……


「前から商会にいた従業員は全員解雇? 後釜はジュロール側の従業員が入る?! しかもウチの方からジュロールに売上金を渡すって、……売上の六十パーセント!? ほとんどじゃあない! 何ですって!? 経営者をジュロールの関係者に権利の全てに渡すなら払わなくても良いですって!!??

これじゃあ合併じゃなく、事実上の吸収じゃない! しかもこれが一部って他は一体どんな事を出されたのよ! あの馬鹿この条件に合意したの!?」

「……この条件をジュロールから出される前にピリカルドと旅行に行って貰っています」

恐らくオリジンの差し金か。責任者がいない間に私に接触したと。


「お嬢様」

結婚以来久しく呼ばれていなかったその呼び方を呼んだと思ったら、ソファに座っていたオリジンが黙ってその場に立っていた数人の従業員が突然床に座ったと思うと、一斉に土下座し始めたのだ。


「ちょ! 止めて頂戴オリジン!!」

「いいえやめません。お嬢様がお辛い目にあっている時に助けに行かず、あまつさえこの様な無理難題を言う人間にはこの様な格好が相応しいのです。本来ならばお会いする事さえ奇跡なのに……」

「仕方がないわよ。下手に行動起こしてクビにされたら家族と一緒に路頭に迷う。そうなったら私は一番に悲しいわ」

「ですがお嬢様いない間あの男、ズエルの愚行を諫めきれなかった責があります。私達がもう少し諫めていれば、旦那様方が築き上げていた商会の信頼をあんな風に溝に捨てる様な行いをさせなかったのです」


オリジン達の目元が光っている。亡くなった両親達より年を行った老人達に此処までさせるあの馬鹿に怒りと、こうなる前に自分に出来る事があったのではないかと言う後悔の二つの感情がせめぎ合っていた。

そして決心する。


「分かりました。貴方達の商会を買い取りましょう」


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