リジューナ・アルカード ②
ある日元夫に誘われて二人でピクニックに行こうと誘われた。場所が私達の亡き両親と一緒に遊びに行った思い出の場所だから私は油断した。
馬車に揺られている間、あの人から紅茶を渡されてソレを飲んだ所までは覚えている。
気が付くと私はどこかの森の深い場所に一人放置されていた。
『ああ――私はあの人に捨てられたのね』……この時ばかりは自分の頭の回転の良さを怨んだ。
兎も角日の高い内に森を脱出しないと夜になれば盗賊や野犬が出てきたら一貫の終わりだ。急いで立ち上がろうとした時だった。
三匹の涎を垂らした野犬が現れたのは。
この場でやっと自分が犯した罪の大きさに気付いたのか、元夫は顔を真っ青にしてガダガタと震えだした。
……子供でも分かる事なのに、今気づいた訳? 私は一瞬怒りで怒鳴り散らしたくなったが、大きく息を吸って何とか堪える。
「本当にあの時は死を覚悟したわ。偶然その道をよく通る女衒屋さんが来なければ私は野犬共に喰い殺されていたわ」
――やれやれ。ピクニックするには、ここは危ないですぜお嬢さん
小汚い狸の様にまん丸に太った初老の男が颯爽と現れたかと思うと、襲われそうだった私を助け、その場にあった木の棒で薙ぎ払い、野犬達を追い返してくれた。助かったと安心した心と自分は彼に捨てられたと改めて思った瞬間、涙が止まらなくなった。
――お、お嬢さん? どうしたんですかい? さあさあ泣くのは止めて。あっしは女と子供が泣く姿が苦手なんですよ
泣きながらその男にこれまでの事を全て話した。見知らぬ人に自分の事を話す事は普段の私ならありえないが、その時はもうどうなっても良いとほとんど自暴自棄になっていた。
なのに見知らぬ女衒屋は真摯に私の話を聞いてくれて、本気で怒り、私を心配してくれた。
――酷い話だ。お嬢さんアンタは何一つも悪い事はしていませんぜ。悪いのはお嬢さんの旦那だ。いや、元旦那と言った方が良いな。家に戻っても恐らくもう一度お嬢さんを殺すだろう
――いっそあっしの贔屓先の娼館に身を寄せますかい? 娼婦ではなくて経理を欲しがっていて秘書をやっていたお嬢さんならきっとやっていける
――しかもその娼館にはお嬢さんと境遇が似ている子がいるから絶対に仲良くなれますぜ
「それにしても汚い姿になって。昔の貴方は身なりには人一倍気にしていたのに」
「……それは本気で言っているのか?」
「嫌味に決まっているでしょう」
何せ私がいない後の商会の話はとっくの昔に知っている。




