表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

空想浪漫魔法研究部、略して「クソケン」 ~廃部の危機~

空想浪漫魔法研究部、略して「クソケン」

~廃部の危機~


「静粛に!」


薄暗い部室に似合な無機質な声が周囲に響く。副部長のアリサ・スカーレットだ。


「新学期が始まり、心身新たに光り輝く未来に向けて歩みだしたい今日この頃ですが、」


そこで、アリサは間を置き、息を吸い込んだ。そして爆弾を落とす。


「この部、空想浪漫魔法研究部が廃部の危機に陥りました。」


「なんでですか!?」


「急すぎませんか?」


部員から質問が飛ぶ。


「学校の資金難で予算の確保が困難になったのよ。人員の少ない部、実績の少ない部は予算削減の為に廃部にするらしいわ。」


「でも僕らの部は実績があるじゃないですか。」

部員の一人が抗議する。確かに、空想浪漫魔法研究部は数々の実績を出してきた。学内部活対抗魔法技大会では大魔法の部ぶっちぎりの優勝であったし、魔法文化祭でも盛況を博した。


「予算を食い過ぎなのよ。予算に見合うだけの実績ではないって思われたのね。」


空想浪漫魔法研究部は実績は華々しいものだが、普段の活動に問題がある。


魔法を暴走させ、施設を破壊すること数十回、学校中の性別を逆転させてしまったり、一度は学校ごと名も知らぬ島にテレポートさせてしまったことがあったのだ。


その騒ぎを収めるのに、学校がどれほどの労力とお金を費やしたか。


教員たちにしてみればこんなに厄介な部活はないのである。この機に潰してしまえと考える教員がいてもおかしくないほどだ。空想浪漫魔法研究部は正しく、問題児集団なのであった。


アリサ副部長の後に黒髪を七三分けにした黒髪の真面目そうな男が立ちあがり、部員達の方を向き口を開いた。


「歴史と伝統ある我が空想浪漫魔法研究部、略して『クソケン』を我々の代でつぶすわけにはいかん!第三十五代目部長シチ・サンパウロの名のもとに、」


シチは腕を部員達に向けて宣言する。


「ジ・ハードを決行する!」


「「うおおおおおーーー!」」


部員たちは沸いた。


ジ・ハード、それは代々空想浪漫魔法研究部員たちがどうしても結果を出したい時に起用される作戦だ。初代部長が考案し、それ以来ジ・ハードが決行され、失敗した研究や作戦はないという。代々部員は先輩からジ・ハード時のエピソードを語られ密かに憧れていたのだ。


「俺の代で部が潰れたらOB達が怖いからな・・・。」

呟かれた部長の本音は沸き立つ部員たちの声に押しつぶされ、聞いていたのはアリスだけであった。



「ホムンクルスを作ろう!美少女にして俺の嫁にするんだ!」


「それよりも賢者の石を作ろうぜ!この前、人間の魂を使わなくても作れる可能性が示唆された論文があっただろ。」


「でもあれ、動物の命を代用すんだろ。素材集めが難航するだろ。」


倫理観の欠けた会話が交わされている。


ジ・ハードは何としても成功させたい時に行われる作戦である。普段は別々の研究を個々に行っているのを、全員を一つの研究に費やすのだ。そして目的の為なら何をしても良いと許可を出すに等しい一つの免罪符でもある。


クソケン部員はマッドな人間が多く、部費を自身の研究費に充ててもらうために、多少とはいえ、周囲に迷惑が掛からないよう、気を遣ってきたのである。


それが解除された彼らは枷を外された猛獣に等しい。


現在部室では、如何にして廃部を免れるかの会議をしている。

誰もが認める研究を完成させればいいという結論にはいたったのだが、では何を研究するのかという問題になったのだ。


学校へのアピールだ。極力インパクトがあるものが望ましい。


それがわかっているからか、それとも、純粋な興味からか、禁忌に触れた研究提案が多いのが困りものだ。


「倫理的に学生が行うにふさわしくないと思われるものは避けてください。却って廃部の原因になりかねません。」


魂を扱う研究や人造生命の研究はさまざまな規制がなされている。学生が扱う研究としては不適格であろう。


だが、そこは問題児集団のクソケン。禁じられているものほど面白い。彼らはどんなに禁じられていようと、パンドラの匣を開け、禁断の果実を食すのだ。


禁忌に触れても咎められない方法を考える。


「人工知能搭載の有機魔導人形・・・。」


部長のシチ・サンパウロが呟いた。


一瞬部室が静まり返った。

ほどなくして、


「なるほど、知能の部分を機械に代用させることで、あくまで人形であると、ホムンクルスではないといいはるのですな。」


「機械に自我を与えるのはいかがですかな?未だ発明されておりますまい。」


「なるほどおもしろい。」


「さすが部長だ。」


「然り然り。」

こうしてクソケンは人工知能搭載の有機魔導人形、通称、『擬人クルス』を作成することとなった。


発表するのは学園祭だ。この学園の学園祭の展示は毎年ハイレベルなものが多く、下手な学会よりも研究内容が充実していることがある。従って、知名度も高く、世間の目にもとどまりやすい。


クソケン部員達の聖戦が今始まる。



数日後、クソケンは活気づいていた。もちろん擬人クルス製造の為だ。皆ノリノリで作業を進めている。


トライアンドエラーの繰り返しであるが、それが面白い。今までなかったモノを創ることに興奮する人種の集団なのだ。最高にエキサイトしている。


「おい誰だ!ベース用生肉を腐らせた奴!腐乱ケンシュタイン作ってんじゃねえんだぞ!」

「許されざる暴挙だな!」

「おい俺の将来の嫁候補の肉体だぞ!丁重に扱え!」

「なるほど。擬人クルスを嫁に…。恐ろしい発想だ。しかし、俺達が嫁をもらうにはこの手しか!」

「待て!コイツには自我を芽生えさせるのだろう?自我など芽生えたうえで俺達と本当に結婚してくれるのか!?」

「疑人クルスにすら拒絶されるとか!この先生きていける気がしないぞ!おい、どうすんだ!」


一見研究と関係のない雑談であるが、このような会話から部員達はインスピレーションとモチベーションを得ているのである。特にこの話題は空想浪漫魔法研究部にとって至上命題とすら言えるものであった。

曰く。

「嫁とか最高に空想で浪漫だろ。」

モテない男子部員が学園内で最も多い部でもあるのだ、クソケンは。


紛糾する議題に救世主の声がする。

「落ち着け皆の衆!そんなもの、美醜感覚をお前らの都合のいいようにプログラミングすれば解決だ。」

部長シチ・サンパウロであった。


「なるほど、さすが部長!天才か!」

「伊達に七三スタイルしていない…。」

「然り然り。」


議題は無事に決着したかと思われたが、

「人工知能のプログラミングできる人なんていましたか?」


副部長の一声により、先ほどの雑談とはまた違った衝撃が部に走ったのであった。


結論から言えば、プログラミングできる人間は部にはいなかった。

魔法陣を描くことが出来る人材は豊富にいる。しかし、魔法陣を描く技術と機械の内側に回路を組んで、立体的に意味を成す魔法工学のプログラミングは全くの別物であるのだ。


今までは、魔法陣で代用できる研究しかしてこなかった。これはあえて避けていたわけではなく、やりたいと思ったことにたまたまプログラミングの技術が必要なかったのだ。全て魔法陣で代用できてしまっていた。故にこの問題が顕在化してこなかったのだ。


しかし、今回は人間の体程度の大きさにまとめるのだ。

魔法陣はおおよそなんでもできる万能ツールであるが、場所を食うという欠点がある。今回のようにスペースに限りがある場合は不適切だ。


ならば疑人クルスの研究をやめ、別の研究をすればいい。そういう意見もある。

しかしすでに疑似ンクルスの素体は6割がた出来ており、何より部員が皆やる気になっているのだ。やめるわけにはいかない。

「仕方ない。プログラミングができる人間をスカウトしてくるか。」

シチが渋々であることが明らかな様子で言う。

「誰か一緒にスカウトに…。」

シチが協力者を募ろうと部員達を振り返りながら発言しようとすると、


「ワタクシは疑人クルスの素体の培養で忙しいでござる。それにクソケン外部の人間と会話したくないでござる。」

「できないの間違いだろ。」

「一緒でござる。」

「俺も半年くらい外部の人間と接してないわ。」

「お前らまだ教室行けてるだけいいだろ。俺なんてクソケン登校だぞ。」

「何それ?」

「保健室登校ってあるだろ?あれのクソケン版。」

「なにそれうらやま!」

「ふぅ~。社会復帰出来る気しねぇ~。」

「然り然り。」



一様にコミュ障アピールしてきた。

クソケンにはコミュ障も多い。そうでない人間も多いが、決して好きなわけではない。それに今は楽しい研究の最中なのだ。皆面倒なスカウトなどより研究をしていたいのだ。


「わかったよ。お前らには頼まん。薄情者共め。アリサ手伝ってくれ。」

「わかりました。」

部長があきらめたようにため息をつき、副部長に協力を頼む。


「スカウトするの女子にしろよ。もう男いらね。」

「清楚なお嬢様キボンヌ。」

「ビッチだろ常考。清楚なお嬢様が俺達のことなんて相手にする訳ないだろ。」

「そうだそうだ。現実見ろカス。」

「拙者は大和撫子!」

「分類とかなんでもいいよ。女であれば!暑苦しい男はもうこりごりだ!」

「然り然り。」


面倒が去ったと見れば、好き勝手なことばかりを叫ぶクソケン部員達。

蔑むことなかれ、彼らは欲望に忠実なだけなのだ。


「やっぱりお前ら最低だよ…。」

疲れたようにシチは言い、スカウトの為、アリサと共に部室を出た。

後方から、


「誰が最低じゃ!大体部長が提案したんだからもっと早く気付けよ!」

「俺らのせいすんな!」

「どうせ副部長とイチャイチャ研究してて気づかなかったんだろ!」

「死ねカス!」

「異端者があああ!」

「滅べ滅べ!」

「然り!然り!」

怨嗟の声が聞こえてきたが、それはいつもの事だった。



部室からでて、シチとアリサは図書館に来ていた。


スカウトするにもまずはプログラミングに精通する人材を探さなければならない。

この学園は、入学するために論文を提出し、テストで論文を書き、進級するためにも、さらには卒業するためにまで論文を書く。


その論文の内容はピンキリではあるが、中には非常に優秀なものもあり、それらは図書館に所蔵されている。

シチとアリサはプログラミングに秀でた者を探すため、ひとまず、図書館で論文を読み漁ることにしたのだ。


「なかなか見つかりませんね。」

数時間してからアリサが呟いた。

「妙な研究が多すぎて優秀かどうかの判断も出来ん。魔法工学科プログラミング専攻は変人揃いか!?」

自分の事は棚に上げ、シチが叫んだがすぐ後に、

「ん?『人工知能と自我の可能性』?ドンピシャだ!いると思ったんだ!研究者ならば気になる部門だ!内容はどれどれ…。素晴らしい!優秀だ!この人物をスカウトするぞアリサ!」

さらに大声で叫んだ。


「図書館で騒ぐんじゃないよ!」

司書の先生にげんこつを落とされたが、それでもシチの笑顔は曇らなかった。


「先生に伺ったところ、あの論文の筆者、リリィ・オックスフォードはこの学園の二年生ですが、学校にはほとんど来ていないようですね。」


職員室へと赴き、教師から生徒の個人情報を聞き出してきたアリサは続ける。


「病気をお持ちのようで、あまり登校できていないようです。部活には所属していません。人付き合いを好む性格ではないようで、入部してもらえるかはわかりませんが、いかがいたしますか?」


「ん?オックスフォード…?まあいい。とりあえず、会いに行ってみるか。住所は聞いてきたのだろう?」


「現在は入院しているようです。病院と病室を伺ってきました。」


「ありがとう。さすがだな。」


シチは優秀な副部長に感謝する。アリサを副部長に任命してよかった。


「いえ、これぐらいは。報酬に部長の使用済みストローをくださいね。」

「待て、そんなものどうするつもりだ。」

「?無論、舐めますが…。」

「そうか…。」


あとはこの妙な性癖さえなければ完璧なのに…。シチは哀しみにくれるが、このくらいの変態性がなければクソケンなどやっていられないのだ。彼女もやはり欲望に忠実なクソケンの一員なのである。


シチとしても知的美人であるアリサに好かれるのはうれしいのだが、アリサの性癖とクソケン部員からの壮絶な嫉妬ゆえ、素直に喜べない。アリサから告白されたわけでもないので彼女からの好意を感じつつも、シチとアリサの関係は複雑だ。

内心アリサとの関係に頭を悩ませつつもそれを表には出さぬまま、彼らはリリィ・スカーレットがいる病院へと向かった。


コンコン

病室をノックする音が響く。


返事はない。

コンコン


もう一度ノックをするがまたしても返事はない。

シチとアリサは諦めて帰る…。


「たのもー!学園三年空想浪漫研究部部長、シチ・サンパウロであ~る!」


帰る訳もなく、バーンと引き戸を開け放ち病室へと侵入した。


「ななな、何よあなた達!」

病室の少女はベッドの上でビクッと体を震わせ、侵入者をキッとにらみつけ叫ぶ。


「だから言ったであろうシチ・サンパウロである!」

「申し遅れました。アリサ・スカーレットです。」

シチは偉そうに両手を腰に添え、言い放ち、アリサは礼儀正しく礼をする。


「そういうこと言ってんじゃないわよ!なんで返事もしてないのに開けてんのよ!ていうか鍵かかってたでしょ!どうやって開けたのよ!」

少女は喚くがシチはこともなげに答える。


「君の両親にはすでに許可をとってあるし、鍵ならアリサ君が開けた。」

「ピッキングは得意ですので。」

「両親の許可がおりたからって許可なく部屋に入るのは非常識よ!それにピピピピッキングは犯罪よ!何よ!得意って!」

少女はかなり興奮しているようで顔を真っ赤にしている。


「大丈夫だ。問題は問題が顕在化するまでは問題ではないように、犯罪もそれが露見するまでは犯罪ではない。つまり君が警察に届け出なければ万事解決なのだよ!」

シチが眼鏡をクイっと指で押し上げつつ、胸を張る。


「今すぐ110番通報するから待ってなさい!」

「ハッハッハ楽しい少女だ!すでに電話線は引っこ抜き済みだ!」

この病室の電話線は入室と同時に引き抜いていたのだ。


「お・ま・え~!」


少女はさらに憤り、ベッドの上で立ち上がった。


「まあまあ落ち着き給えよ。今日は話しあいに来たのだ。ケンカしに来たわけではない。ケンカも楽しいがな!」

「誰のせいよ!それに楽しくないわよ!」

根が素直なのか、少女はその言葉でベッドに座り直した。


「改めて、空想浪漫魔法研究部、略してクソケン部長シチ・サンパウロ!」

「同じく副部長アリサ・スカーレット。」

「リリィ・オックスフォード!君を我が部にスカウトしに来た!君の頭脳を!技術を!我が部にくれ!君が必要だ!」

両腕をバッと広げてシチは熱烈にアピールをする。


リリィを見ると、身を小さくしてプルプルと震えている。

自分の勧誘に感動しちゃったのかな~と暢気にシチは考えていたが、それが勘違いであったとのちに知る。


「お断りだあああああ!」

憤怒の形相で叫ぶリリィ。

当然のように断られ、彼ら二人は病室から蹴りだされた。

少女リリィには何故この男は今までの会話の流れでこのような頼みごとが出来るのかわからない。

「二度と来るなぁあ!」

リリィは魂の雄たけびと共に病室のドアを閉めた。


これが彼ら、彼女らの最悪なファーストコンタクトであった。


「つかみは上々だなアリサ!」

「そうですね。」

訂正、リリィにとって一方的に最悪なファーストコンタクトであった。


当事者による多数決の原理に照らすと、この出会いは良好なものとなってしまうのが世の理不尽なところだ。


いずれにせよ、この日から毎日クソケン部員はリリィの病室を訪れるようになる。


何故、スカウト活動に消極的だったクソケン部員がスカウトに参加するようになったかというと…。


「え?マジ?リリィちゃん可愛いの?」

「病弱美少女キタコレ!」

「研究なんてしてる場合じゃねーな!」

「美少女なんて空想です!キモイ奴にはそれがわからんのです。」

「じゃあお前スカウトいかねぇんだな!」

「はぁ?いくしぃ~超いくしぃ~」

と、こういうわけである。リリィ・オックスフォードは美少女だったのだ。華奢な体躯、艶やかで長い黒髪、物憂げな瞳、少し気が強いところがあるがまぎれもなく彼女は美少女だったのだ。


この情報をシチから聞いた部員達は、コミュ障アピールを翻し、途端に社交的な集団となった。くどいようだが、彼らは欲望にどこまでも忠実なのだ。


いや、「社交的」というには語弊があるかもしれない。何せ部員達はいざリリィを目の前にすると、


「お、お、お初におめ目にかかりましゅっ!」

などと噛み噛みのあいさつが出来ればいい方で、終始俯いて無言を貫くものや、

「きしゃぇえええええええ~!」

と奇声を上げながら病室から逃げ出した者までいる。

ちなみに一番多かったのは、「ほ。ほんまもんの美少女や!め、目が潰れる~。」と目を抑えうずくまる者達だ。


いずれにせよ、とても社交的とはいえず、下手したらリリィに嫌がらせと取られても不思議ではない行いをしていた。


因みにシチもアリサもこの状況を想定して毎回一緒に病室を訪れていたが、一度としてフォローをすることはなかった。

シチに至ってはニヤニヤと部員達の醜態を眺め、嘲笑っていた。スカウトに非協力的だったことへの意趣返しであろうが最低である。


シチとアリサ以外の部員は一日に二人づつ病室を訪れていた。

そして全部員とリリィとの顔合わせが終了した。


「今日で他の部員達との顔合わせが無事終了したわけだが…。」

「どこが無事なのよ。」

リリィはぐったりと答える。もはや、彼らがこの部屋に来ることは諦めている。初めの方はあの手この手で侵入を拒んだものだが、いずれもあっさりと突破されてしまうのだ。

抗うのもばからしい。

しかし、苦言だけはしっかりと伝える。彼女の最後のあがきだ。

頭の中では決して「無事」とはいえない部員達との邂逅の数々が流れている。


「無事だろう?いまだから言うが、俺は何も言わずに君に抱き着こうとする輩が数人は居ると思っていた。」

「そんな危険人物を私の病室に連れてきていたの!?」

シチの驚愕のセリフに一瞬冗談だろうとも思ったが、最近何度も尋ねてきていた部員達の奇行を思い出すとそうとも言えなくなってくる。

「…。冗談に決まっているだろう?」

「ちょっと!何目ぇ逸らしてんのよ!あっやべ!これ言ったら不味い奴だわって顔してんじゃないのよ!」

「気のせいだ。それより我がクソケンの部員になる気になったか?」

「誤魔化すなぁー!」

「落ち着けここは病院だぞ。」

「あんたが言うなー!」

理不尽なシチの物言いにリリィの本日一番の絶叫が響いた。


「気を取り直して、ご存じのとおり今我がクソケンは人工知能搭載の有機魔導人形及びその自我の制作に取り組んでいる。」

「初耳よ。」

またしても「やべっ」という顔をするシチ。

部員達の醜態が楽しすぎて忘れていたのだ。ちなみにフォローしてくれそうな頼れる副部長は悪い笑みを浮かべるシチの表情を網膜に焼き付けようと必死であった。瞬き一つしていない。


シチは誤魔化すように咳払いをしてから口を開く、

「ごほん!とにかくクソケンには人工知能をプログラミングする人材に欠けている。その人材を探そうと図書館の論文貯蔵室をあさっていたらこれが出てきた。」


リリィをスカウトしようと思い立ったきっかけ『人工知能と自我の可能性』の論文を本人に突き付ける。


「素晴らしい内容だった。これこそ我々が求める人材だ!是非わが部に入ってくれ!共に研究に青春をささげよう!」

二度目の勧誘だ。今度こそリリィに入部してもらおうという意欲を感じさせる。

今までのどこか茶化しているような雰囲気はなく、目は真剣だった。


それを察してか、リリィも今までより丁寧に応対する。

一つため息をついてから返事をした。

「無理よ。」

「何故だ。」

シチは即座に問い返す。


「読んだんでしょ、私の論文。なら結論も知ってるわよね?」

「ああ。どうプログラミングしても人工知能に自我を与えることはできなかったのだろう?」

「出来ないから放棄したみたいな言い方やめてよね。ちゃんとできない理由も証明したわ。」


そう彼女の研究は図らずも人工知能に自我を与えることは出来ない事を証明するものであった。


「だからあなたたちの研究の助けにはならないわ。」


「君の言う通り、知っている。知っていてなお君の頭脳が必要だといっているのだ。なるほど確かにプログラミングによる自我の確立は不可能であると証明されただろう。しかし、不可能の証明は人々の英知により何度も覆されてきた。それは君も既知の事実であるはずだ。我々空想浪漫魔法研究部はその無理無茶無謀を覆すことを至上命題としている。事実、我々は何度も不可能を可能にしてきた。しかし、今回は我々の力だけでは難しいと言わざるを得ない。俺達の仲間になれリリィ!リリィだけでは不可能だったかもしれない。クソケンだけでも不可能だ!だが、俺達がそろえば最強だ!」

知らずのうちにリリィを呼び捨てにしてしまっていたが誰もそのことに気付かない。


「覆そう。俺達でリリィの証明した不可能を覆そう。」


「で、でも…。」

シチの熱い言葉にリリィはうろたえる。行動にも言葉にもいままで誠意の欠片もなかった男がこんなに真剣に、語っているのだ。

シチは畳みかける。


「断るのもいいだろう!だが、建前ではなく本心を言え!断られるのなら君の本音を知って納得したいのだ。」

シチはリリィの目を見詰めて決断を迫る。


「本音を言ってもいいの?」

「ああ構わない。」

シチは寛容な態度で先を促す。


するとリリィは目を泳がせ、少しためらうような姿勢を見せた。そして何度か口を開閉したのち、意を決したように、


「……変人の仲間入りは嫌。」

小さな呟きであったが、リリィの偽らざる本音は静かな病室に響いた。


「……。」

数舜の沈黙の後、シチが真っ先に口を開いた。


「却下だ!お前俺の話を聞いてなかったのか!?何であの話の後でそんなこと言えるの?我慢してお前を立ててやったのに!クソケンに不可能なんてないやい!お前がいなくても研究は成功するやい。」

「よく我慢しましたね部長。自信過剰、クソケン大好きの部長がよもやクソケンの力不足を認めるとは。」

リリィのあまりの言い草に幼児退行するシチと、シチの奮闘を称え涙ぐむアリサ。


「認めとらんわ!リリィ・スカーレットに配慮しただけだ!なのに言うに事欠いて我々を変人扱いとは!変人なのは部員達だけだ。俺まで変人であるかのような言い方はやめろ!」

「弁明するのは自身の事だけ…。さすが部長最低です。でもそこがいい。」

にわかに興奮し始めたシチにアリサは顔を赤くする。


「きゃ却下って何よ!あんたが本音を言えって言ったんでしょ!それにあんたが一番の変人よ!何でそこの女は頬を染めるてるの!?」


シチに突っ込み、アリサの言動に慄くリリィ。

勧誘時の真剣さはどこへやら、場はヒートアップするばかりだ。


「フン!どうせ入部するなら、気持ちよく入部させてやろうと思っていたが気が変わったぞ!」

ズビシ!とリリィを指さしながらシチは声を張る!

「この写真を見よ!」

懐の写真を宙にばらまくシチ。

「な、何よこれ…。」

落ちてきた写真を見て愕然とするリリィ。


「はっはっは!恐れおののけ、跪け!これは貴様のご両親から買収もとい、頂いた盗撮写真の数々だ!寝顔から着替え写真まで全て揃っている!入部を断るならこの写真をばらまく!そして俺を変人と宣った事を撤回しろ!」


目的が変わってきたシチであるが、そんなことに構ってる場合ではないのがリリィだ。

まさか両親まで敵に周っていようとは…。いつの間に両親と接触したのか、とも思ったが、考えてみれば初めに彼らを病室へ行く許可を出したのは両親だ。リリィの知らない間に親交を深めていたのかもしれない。札束に頬を叩かれる両親を幻視してしまう。嫌な想像だ。


そればかりかよもや両親に盗撮をされていようとは。しかも着替え写真まで取られているというのだ。それをお金に換えたというのだから…。


知りたくなかった新事実の数々に頭を抱える。


「きょっ脅迫じゃない!」

せめてもの抵抗をするリリィであったが、


「ふははは!なんとでも言え!はじめから貴様に拒否権などなかったのだ!神妙にしてお縄につけ!もとい入部届にサインしろ!」

手を横にバッと伸ばし、実に楽しそうにシチは言う。


シチの言葉に合わせてタイミングよくペンと入部届を渡してくるアリサ。


暫く逡巡していたリリィであったが、

「あんた達覚えてなさいよ。」


逃げ場はないと悟り、恨み言を呟き入部届にサインをした。


「これで君もクソケンの仲間入りというわけだ。」

シチはサインされた入部届を受け取り、晴れやかな顔で言葉を続ける。

「ねえねえ、今どんな気持ち?変人呼ばわりした部に入らされて、今どんな気持ち?」

「性格が悪いですよ部長。」

ニヤニヤとするシチに、窘めるアリサ。

「ぐぬぬぬぬ。」

「ふはははははは!」

リリィの唸り声とシチの高笑いが病室に響く。

弱みを握られ、煽られても何も言い返せないリリィはこの屈辱をいつか必ず晴らすと心に誓うのだった。



「リリィたん!リリィたん!ちゃんとデブ専、ブス専にプログラミングしてよ?俺らの嫁になるんだから。」

「口調は敬語な!ご主人様って呼ばれてえ!」

「メイドロボ!浪漫だよなぁ」

「だがツンデレも捨てがたい。」

「うるぅぅっせぇえええええーー!」

クソケン部員の一方的なリリィへの要望にリリィが巻き舌気味にキレる。


リリィが正式に入部してから数週間。疑人クルスの有機ボディも八割がた完成し、あとは人工知能と神経を繋ぐ作業が残るのみだ。


研究の余裕ができたクソケン部員はその出来た余裕でリリィにちょっかいを出していたのである。美少女リリィと会話が出来る上、疑人クルスの人工知能への要望も出せて一石二鳥な行動だ。


初めは美少女リリィにビビッてまともに会話できないでいたクソケン部員もさすがに慣れてきて、このように研究に関わることでなら普通に会話出来るようになっているのである。


他の部員と違い、仕事がまだまだ残っているリリィにとっては迷惑でしかないわけだが。


「あんたらと違ってやることが山積みなのよ!しかもこれが成功しないと廃部ってどういうことよ!聞いてないわよ!」


そうなのだ。リリィは廃部の危機にあることを知らずに入部した。そして、

「あ、疑人クルスの研究が成功しなかったら廃部だから。頼んだよ。我が部の存亡は君の手腕にかかっている!」

などと、軽い感じで昨日シチにカミングアウトされたのだ。

廃部の責任など感じたくはないし、もし本当に廃部になどなったらシチが未だ所持したままの脅迫材料写真がどう使用されるかわかったものではない。


さらに、疑人クルスボディが八割完成していることもリリィにプレッシャーをかけてくる。魔法や錬金術の技術の結晶たるその人工の肉体は、その分野の門外漢であるリリィから見てもよくできている。この肉体に稚拙なプログラミングをすることは人類の英知への冒涜であるように思われたし、研究者としてリリィはその肉体に見合うだけの頭脳をプログラミングしたいと思ってしまうのだ。


そんなわけでリリィはクソケン部員のちょっかいを受けながらも真面目にプログラミングを行っていた。


「ふむ。精が出るな!リリィ・オックスフォード!」

放課後、日も暮れて、クソケン部員達も大方帰路についた。部室に残っているのはシチとリリィだけだ。

ここ最近はリリィが夜遅くまで残り、シチとアリサに帰宅を促されるのが常だったが、今日、アリサは所用でいなかった。


「もうそんな時間?ちょっと待ってて。今いいとこなの。」

ちらっとシチの方を見てからリリィは答える。


「よかろう。待ってやる。」

「はいはい。ありがとうございます。」


シチの扱いに慣れてきたリリィはおざなりに返事をし、作業を続けた。

数分後。


「待たせたわね。帰るわ。」

リリィは作業が終わったようで片づけを始める。


「気にするな。部室の戸締りは部長の仕事だ。部員の研究のフォローもな。」


そうして二人は部室を出た。


「あれ?アリサさんは?」

今更気付いたようでリリィは尋ねる。

ちなみに比較的常識人に近いアリサの事だけリリィは「さん」付けで呼ぶ。

「所用で今日は部に来ていないぞ。気付かなかったのか?」

「だってプログラミング作業で忙しかったし…。」

ジト目でシチに問われ、少し気まずげに答えるリリィ。


シチはそれを聞いて、少し逡巡した後、

「…君に作業を強いている俺が言うのも変な話だが、その…、病気は大丈夫なのか?」

と尋ねた。さすがにここ最近作業に没頭しすぎだとリリィの体調を心配したのだ。病気の事もあるし、部員の体調を確認しておくことも部長の仕事だろう。


リリィは一瞬キョトんとしてから、

「あんたも人の心配するのね。」

と失礼なことを呟いた。


「ぐっ…。貴様俺がせっかく…。」

顔を心なしか赤くするシチにリリィは気をよくする。


「なになに?心配なの?この美少女リリィちゃんが心配なの?ほら素直に言ってみなさいよあたしが心配だって。」


今までさんざんからかわれてきたのだ。ここで仕返しを試みてもバチは当たらないだろう。


「もっもういい!知らん。」

想像以上にリリィのからかいが効いたようだ。からかうばかりであまりからかわれたことがないのかもしれない。


「悪かったわよ!ちゃんと答えるから。」

ニヤニヤとご機嫌になりながらリリィは弁解する。


「というか、あなた私の病気、私の両親から聞いてないの?」

「君に頼む仕事について話して、君の体が耐えられるか伺っただけだ。病気のことは聞いていいのかわからなかったから聞いていない。」


わかりにくいがシチも彼なりに気を遣っていたのだ。


「ふーん。意外ね。気にせず根掘り葉掘り聞いているものかと思っていたわ。」

心底意外そうにリリィが言うと。

「当然だろう。君の両親に信用されないと君の弱みを握ることが出来なかったのだから。」


「理由が最低ね…。」

胸を張ってシチが答えると、妙に納得しつつ呆れてリリィが答える。


「で、病気の事だが、差し障えなければ教えてくれないか?」

真面目な顔で質問するシチ。


「別に知られて困ることじゃないからいいわよ。」

そしてリリィは自身の病気のことについて話しはじめた。


「私魔欠病なのよ。」

認知度の高い病であるのでシチもその病については知っていた。


「体を動かす魔力が欠乏する病か。なら余計に働き過ぎは良くないだろう。体に障る。」


体は臓器機能を魔力がサポートすることで正常に作動する。魔力が足りないと臓器は疲弊し衰退していく。

指一つ動かすだけでも魔力を消費する為、魔欠病患者は魔力の消費を抑えるために極力行動しないようにすることが常識なのだ。


「大丈夫よ。うちは裕福だから魔力を消費する臓器を魔力効率の良い人工臓器と取り換えることで病の症状を緩和する手術が出来るのよ。入院していたのは移植手術後だったから。もう退院しているわ。平気よ。」


リリィは一息ついて言葉を続ける。


「5歳くらいで発症したんだけどその頃は暇だったわ。遊び道具でも大体の物が起動に魔力が必要でしょう?しかも面白そうなものほど消費魔力が多いから、我儘言って両親を困らせていたわ。だから魔力を極力使わないですむプログラミングをするようになったの。私が回路を作って母に魔力を流してもらっていたわ。父が研究者だからその手の本も手に入りやすかったし、父にも教えてもらえた。」


すこしづつ病の話からリリィの身の上話にシフトしていっていたがシチは何も言わずに聞いている。


「プログラミングが面白くなってきたころに父に言われたのよね。移植手術をしてみないかって。プログラムを組むのにも集中力がいるし、何だかんだ魔力は消費するのよね。指すら動かせなくなる前に魔力消費の良い体に代えようってこと。その当時はなんとも思わなかったんだけどよく考えると怖い話よね。だって、少しづつ自分の体を構成する異物の比率が増えていくのよ。私の体は最終的に頭以外全て人工物になるわ。そうしたら私はホムンクルスやアンドロイドと何が違うんだろうって思った。」


リリィは一息ついてから話を続ける。

彼女の半生は病とともにあったのだ。その病の話をするときに自身の身の上話になるのは仕方のないことなのかもしれない。


「ホムンクルスやアンドロイドと私の違いは自我があるかどうかだと思ったわ。だからあの論文を書いたの。」


あの論文とはシチがリリィをスカウトする決め手となった『人工知能と自我の可能性』の事だろう。


「それでは君は自我の宿った人工知能を作りたかったわけではなく、人工知能に自我が宿らないことを証明することで自身のアイデンティティーを証明したかったのか。なら今の研究は…。」

シチは呟く。


リリィの話からすると自分は人工物とは違うということを証明するために研究をしていたように聞こえる。であるならば、今クソケンで行っている疑人クルスの研究は彼女のアイデンティティーを否定することに繋がってしまうのだろうか。なにせ彼らは最終的には人工知能に自我を芽生えさせることを目標にしているのだ。

そう考えるシチであったが、


「違うわ。」

というリリィの声で思考から引き戻される。


「確かに研究を始めたきっかけはそうよ。自我は人工物には宿らない事を証明したかった。けど研究しているうちに楽しくなってきちゃって、本気で自我を宿らせる方法を探していたわ。それにきっと私は子供を産めないから、子供を作りたかったのかもしれないわね。ほら、自我ある物は生物と言えるのかもしれないでしょう?だからこそ私も悩んでいたわけだし。」


最も魔力の消費が激しいのは脳を抑えて子宮がトップだ。子を宿した時だけの話ではあるが、それゆえに魔欠病患者は子を産むことが困難であるとされている。


「だから今の研究は楽しいし、無理なんてしていないわ。」

少し話が遠回りしてしまったわね。と恥ずかし気にリリィは笑った。


花が咲くような笑顔であった。


「なら安心してこき使えるな!」


初めて見る彼女の笑顔に心なしか頬が熱くなるのを感じたシチは、それを誤魔化すように憎まれ口をたたいた。


「ふんっ。」

シチの憎まれ口にそっぽを向きながらリリィは、

「だから感謝しているわ。」

そう小声で呟いた。


「うん?なんかいったか?」

「なんでもないわ。」

不思議そうな顔をするシチに意味ありげな笑みを浮かべてまたリリィは笑った。




そしてその一週間後、リリィは倒れた。



「部長!どうするんですか?リリィたんがいないと完成しませんよ。」

「学園祭も迫ってきているしな。」

「リリィたんには悪いけど代替要員の補充も考えた方が…。」

「でも、リリィたんそろそろ退院できるんだろう?」


リリィが倒れてからまた一週間が経過した。学園祭は目前だが、まだ肝心の自我持つ人工知能は完成していない。


リリィが倒れたのは疲労による魔欠病の発作が原因だった。久しぶりの発作であった為、症状が重く出たようであったが、命に別状はなく、もうすぐで退院するという連絡も教員越しに入って来ている。


しかし、リリィが倒れ入院したことで研究の進捗がストップしてしまっている。

さらに、研究発表の期日が迫ってきており、皆焦ってきているのだ。


「皆の気持ちはわかるがこの学校で彼女以上に人工知能に精通している人間は少ないし、すでに人工知能の研究も最終段階に入っている。今さら他の人間に代理を頼むと余計に時間が掛かることになる。」

シチは部員の不満をなだめようと言葉を発した。


「くそっ!なんか出来ることはないのかよ!」


部員達の気持ちはそこに集約していた。擬人クルスの肉体はすでに完成しておりすでにやることがなくなっているのだ。


ならばリリィの病室に見舞いに行こうかとも考えたが、何故か面会謝絶となっている。そのことが余計に部員達の不安を煽るのだ。


部員達が不安や愚痴をこぼしていると部室の扉が開きアリサが入ってきた。自然と部員達の視線がアリサに集まる。


表情が陰って見える彼女に嫌な予感を覚えつつ、シチは尋ねた。


「どうしたアリサ?浮かない表情をしているようだが…。」


彼女は一瞬ためらった様子を見せたもののすぐにいつものように毅然とした口調で言った。


「我が部空想浪漫魔法研究部に活動停止命令が下りました。」


「なっ!一体それはどういうことだ!」


あまりの事に咄嗟に聞き返してしまうシチであったがアリサはそれに答えることなく黙ったままだ。シチが落ち着くのを待っているのだろう。


シチはアリサの態度で我に返ったようで考え込み始めた。


「活動停止って何故だ!」

「学園祭に参加できるのか?」

「停止期間は!?」

「学校ファック!マジ不条理!」

「ジーザス!!神は死んだ…。」


シチが思考に耽る間に部員達が疑問と不満をあらわにしていた。


「静粛に。」


アリサの言葉に静まり返る室内。一拍おいてからアリサは話始めた。


「部活動中にリリィさんが倒れたことが問題視されたようです。明日、部長とともに学長室に来るようにと…。それと、」


アリサの深刻な様子に部員全員が息をのむ。


「それを聞きつけたリリィさんから退部届を受け取りました。」



「はぁ、はぁ…。探したぞ、リリィ。」

シチは肩で息をしながら言葉を発する。


あれから退部届をアリサの手からひったくり、慌てて部室を飛び出し、リリィを探した。家や病室にはいないようだったのでやむなく町中を探し回った。そして日も沈むころ、河原で川を見つめ座り込むリリィを見つけたのだ。


「こんな所で何をしている。退院したなら部室へ来い。」

返事を返さないリリィに言葉を続けた、がそれでもなお反応がない。


仕方なくリリィの隣に座り、リリィの言葉を待った。


暫く待つと、リリィは深呼吸を一つした後、やっと口を開いた。


「…ごめんなさい。」

「倒れたことか?退部届のことか?」

「…それももちろんだけど、部活動停止のことよ。」

「……。」


シチが黙り込んでいると、リリィは焦ったように、そして寂しげに言葉を続ける。


「こうなるのはどこかでわかっていたの。でも研究が面白くて、皆も鬱陶しいけど喜んでくれて、止められなかったの。」

リリィは川を見つめながら話す。


感情が高ぶってきたのか声が少し大きくなる。シチは黙って聞いている。


「でもこんなことになっちゃった…。」

部活動停止の事だ。リリィが倒れたことが原因であるのだ。当然責任を感じているのだろう。

罪悪感故か、彼女の口調も少し幼くなっていた。


「皆に迷惑かけて…、顔向けできないよ。私が辞めれば部活動停止も解けるかな?」

リリィは部活動停止の話を聞いてからずっと、どうすれば部活動停止を撤回させることが出来るのかを考えていた。しかし、思考は空回るばかりで、最も可能性が高そうな案が、リリィがクソケンを辞め、無関係という事になれば部活動停止もなくなるのではないかというものであった。


リリィ自身、あまり意味のある行為であるとは思っていない。しかし、自分が頼みこめばなんとかなるのではないかという一縷の望みを捨てることも出来ない。彼女の親は、学校の有力なパトロン、出資者なのだ。一般の生徒よりは優遇されるかもしれない。


彼女は知っているのだ。クソケン部員の努力と情熱を。それを自分のせいで台無しにしてしまうことが恐ろしかった。


「ねえシチ、部活やめて頼み込めば部活動停止は解けるよね…。」

辞めれば部活動停止も解けるのではないかという僅かな可能性に、シチの方を向き震える声で尋ねた。


「…、やめたいのか?」

シチは川面を向いたまま尋ね返す。


「…。やめたくない。やめたくないよ!」


しかしことここに至って初めて彼女は気付いたのだ。

初めは脅され、いやいや入部した部活に居心地の良さを感じていたことを。


「人工知能ももう少しで完成するの!皆の助言で自我も芽生えそうなの!」

仲間と議論することで今までにない発想を得たのだ。それが形になっていく喜びはいつ以来のことだろうか。


「久しぶりに楽しかったの!だから…。」


やめたくないよ、


そう声にならない声でいうのだ。瞳は涙で潤み、声は震えていた。


クソケンを窮地に追いやってなお、リリィはこの部に居続けたかった。部員達に「お前のせいで」と後ろ指を刺されるとしても、しかしそこには確かに一人では到達しえぬ知の高揚があったのだ。

それが忘れられない。


だから、勝手だと、我儘だと思いつつもシチに言うのだ。やめたくないと。


シチは立ち上がりリリィの退部届を取り出し、目の前で破り捨てた。


「なら、やめなければいい。そもそも誰もお前の退部を望んでいない。どうして部を辞める辞めないの話になるのか…。貴様が部を辞め、部活動停止の撤回を泣いて求めても撤回はされまいよ。」


破られた退部届が宙を舞う。


「部活動停止などクソケンの力をもってすればはねのけることなど容易い!貴様はただ人工知能の研究に全力を尽くせ!それが結局は我々を救うのだ。」


そしてシチは芝居がかったしぐさでリリィに手を伸ばし言うのだ。


「退部など許さんぞリリィ!お前は我が部に必要だ!」


リリィはびっくりしたような表情をした後、恐る恐ると言った様子でシチの手を取る。

シチはリリィを引っ張り上げ立たせた。


「部室に戻るぞ。退院したなら研究しろ。」


「退部届破いて、病み上がりに働かせるってどんだけブラックなのよ。」

多少立ち直ったのか、皮肉気に笑いながらリリィが言う。


「それがクソケンだ。」


胸を張ってシチは答えるのだった。



「空想浪漫魔法研究部部長シチ・サンパウロ。」

「同じく副部長アリサ・スカーレットです。」

「同じく2年リリィ・オックスフォードです。」


いま三人は学長室に来ていた。部活動停止命令の話をするために呼ばれていたからだ。本来リリィは呼ばれてはいなかったのだが、彼女はどうしても行くと言って聞かなかったのだ。


「一人多いようだが?」

学園長が尋ねると、


「今回の問題は私が倒れたことが原因だと伺っています。当事者としてお話を伺いたいと思いまして。」

当然学園長は彼女が名乗った時点で当事者だとわかっていた。

しかしこの場に同席する理由位は確認しておかなければならない。


「そうか。体調は大丈夫なのか?」

「お気遣いありがとうございます。大丈夫です。」

「そうか、良いだろう。」

学園長は納得し、白く長い髭を触りながら許可を出した。


「さて、早速だが本題に移ろう。この後学園に多額の出資をしていただいている方との面談が入ってしまっていてね。あまり時間に余裕がないんだ。」

学園長はすぐに本題に入った。場の緊張感が増す。


「部の活動停止命令についてだが、理由は書面で伝えた通り、生徒が部活動を理由に倒れたことが原因だ。空想浪漫魔法研究部は部員を酷使しすぎる。倫理的にも、生徒の健康的にも、教育者として許可することは出来ない。よって、その体質が改善されると判断できるまで活動の停止を命じる。期間は三か月だ。当然学園祭への参加も認められない。」


それは事実上、廃部勧告に等しかった。学園祭の発表が最も部の成果を強調出来る場なのだ。その機会を奪われては廃部に抗うことはできない。


「そんな!たまたま私の体調が良くなかっただけです。部が部員を酷使しているという事実はありません!」


リリィは必死に抵抗するが、


「部員の体調管理もできないようではな…。」

そう言い、皮肉気にシチの方を見やる。

学園長は今まで何度も空想浪漫魔法研究部から迷惑を被っており、何とかクソケンを廃部にしようとする教員の一人であった。というより、筆頭である。

しかも、シチが部長に就任してからは今まで以上に問題の規模も頻度も広く、多くなっている為シチに対して隔意がある。


もちろんクソケンを廃部にしたい理由は私情ばかりではない。

確かにクソケン部員は優秀な者が多いが、その分問題を起こすときは大掛かりでクソケン部員以外の生徒たちにまで被害が及ぶこともあるのだ。今までは傷害事故を起こしていない為、取り立てて大きな問題にはなっていないが、やすやすと見過ごせるものではない。


「そんな…。」

リリィは青ざめた顔で呟く。

それには学園長も心を痛めたようだが、決定を翻す気はない。


「悪いがこれは決定事項だ。翻すつもりはない。」


厳しい表情で学園長がそういうと、リリィはシチの方を見た。

あんなに自信満々で「部活動停止命令などはねのけられる!」と言っていたのだ。何か策があるに違いない。

しかし、シチは拳を握り閉め、うつむいたまま細かく震えているのだ。


やはりあれはシチの強がりであったのだろうか。

リリィの心が不安でいっぱいになったころ、学長室の扉がノックされた。


「どうやら、時間が来たようだ。退出したまえ。」

震えるシチに追い打ちをかけるように学園長は最終勧告をするのだった。


シチ達が動かないでいると、


「学園長、失礼します。」

そういって40代程の男性が入ってきた。


「オックスフォード殿、申し訳ない。今、生徒達との話がおわったところでして…。」

「いや、彼らにはここにいてもらって結構です。」

そういうと男性はシチに目を向け。


「彼の要請でここに来ましたので。」


学園長とリリィは目を剥き驚いていた。


「パパ…。」

リリィの呟きが室内に響く。


学長室に入ってきたのはリリィの父親、アルベルト・オックスフォードであった。


「なにを驚いているんです学園長?娘の話に父親が出てくるのは当然なのでは?」

シチはニヤニヤしながら学園長に話しかける。

先ほどまで震えていたのは笑いをこらえる為であったらしい。

勝ちを確信した表情の学園長の様子が愉快だったのだ。


もちろん学園長はアルベルトがリリィの父親であると知っていた。しかし、学園長はリリィが倒れた事を抗議しに来たと考えていたのだ。


故にクソケンの廃部をもってけじめとしようと考えていたのだ。


しかし、アルベルトはシチの要請で来たと言う。


思考の前提が覆り、学園長は混乱し、驚いたのだ。


「ええ。その話の為に伺いました。聞くところによると娘のせいで部が廃部になりそうだとか。」


驚くリリィや学園長をそのままに、アルベルト・オックスフォードは用件を述べ始める。


「空想浪漫魔法研究部に入部してから娘は大分生き生きとし始めまして、この学園に入学させてもらえて本当に良かったと思っていたんですよ。いやあ、少額とはいえ寄付をしていてよかったです。」


「少額などとんでもない。オックスォード殿の寄付金には大変助かっております。」

驚愕から立ち直ろうと、冷や汗を流しながら学園長は相槌を打つ。


「それは良かった。しかし、残念です。娘も楽しそうだったので寄付額を増やそうと考えていたのですが、廃部になってしまうのですか…。」


「いえ、廃部というわけではなく部活動停止というだけでして…。」

「部の状況的にそれは廃部に等しいと伺っていますよ。」

学園長の言い訳にアルベルトはかぶせ気味に返す。


「私はね学園長。別に廃部を取り消せと言いたい訳ではないのです。ただ、成果を上げる機会を与えてあげて欲しいのです。機会があり、それを活かせずに廃部になるのは仕方がありません。しかし、こんな形で廃部になってしまうのはどうなのでしょう?」


慇懃無礼にアルベルトは学園長を追い詰める。

アルベルトはこの学園屈しの出資者だ。リリィの学園生活の為に惜しみなく私財をなげうっている。病というハンデのあるリリィが学園生活を大過なく過ごすにはお金が必要なこともある。


「そうですね。オックスフォード殿の言う通り、無暗に生徒の機会を奪うべきではないのかもしれません。」


多額の出資者であるアルベルトの不興を買うわけにもいかず、悔しさに歯噛みしながらも、学園長は部活動停止命令を撤回したのであった。



「どういう事よ!」

シチと自分の父親であるアルベルトに食って掛かるリリィ。


「混乱するリリィーもきゃわいいなぁ~。」

アルベルトには学長室での凛々しさはなく、これ以上ないほどに顔を緩ませていた。


「しかしシチ君、話が違うね?君の話では好感度急上昇でパパかっこいい♡と抱き着いてくるという話だったではないか。」


「娘さん、ツンデレだったみたいですね。大丈夫、好感度は上がってます。」

不満げなアルベルトにしれっと返答するシチ。


「説明しろ~!」

無視されたリリィはさらに声を張り上げた。


「説明しろと言われても、見たまんまだ。多額の出資者であるアルベルトさんに学園長は逆らえない。だから、アルベルトさんにあらかじめ連絡しておいたのだ。」

シチがめんどくさそうに説明する。アリサは知っていたようで、いつも通りの無表情でシチの後ろに控えている。


「だからって、なんでパパ…。しかもあんだけカッコつけておいて人の保護者連れ出すとか!クソケンの力を見せてくれるんじゃなかったの!どこが「クソケン」の力よ!」

とリリィが叫ぶと、シチはまたもやしれっとした顔で、


「クソケンの力だ!なぜならアルベルトさんはクソケンのOBだからだ!どうやら学園長は知らなかったようだがな!古参のように見えて学園長はまだ赴任三年目なのだよ。」


「えっ!」

驚きにまたもや目を剥くリリィ。初耳であった。


「いやあ照れるね!」

頭を掻きながらハニカムアルベルト。


「おかしいと思わなかったのか?俺が貴様の両親と親密すぎることに。よほどの信頼関係がなければ娘の脅迫ネタを快く渡すわけがないだろう。貴様の論文で貴様の苗字を見た時、真っ先に連絡を取った。案の定、アルベルトさんの娘だった。アルベルトさんとはOBOG会で何度かお話をさせていただいていたからな。それでスムーズに話が進んだということだ。いやあ、うまくいって良かった。」


部長は在学生の中で唯一OBOG会に参加することが出来るのだ。というか強制参加であるのだが、そこでクソケンの活動報告を行い、場合によっては出資者を募ることもあり、活動は活発だ。卒業生は皆学生の頃必ず当時の卒業生からの援助を受けていたので自身もまた積極的に援助してくれるのだ。


とはいえ、簡単には援助してくれない。


今回の廃部騒動のように、研究の成果で挽回が可能である場合、細々とした援助はあっても廃部撤回を直接求めるような行動はしてくれない。なぜなら代々必ず一度は廃部の危機に陥るのがクソケンの伝統であり、それを乗り越えることもまた伝統となっているのである。


とんでもない伝統であるが、それはもはや卒業生たちの誇りだ。廃部の危機も乗り越えられない部を自身の在籍していた部と認めたくない気持ちがOBOG達にはある。


しかし、今回はリリィが倒れたことによりチャンスを与えられることもなく廃部に追い込まれてしまうところであった。このような場合、話は別だ。挽回の機会を与えることにOBOG会は援助をいとわないのだ。


「僕もクソケンのおかげで楽しい学園生活を送れたからね、つまらなそうにしていたリリィにも青春してほしくてシチ君に協力したんだよ。案の定クソケンに入部してからリリィは楽しそうだったからね。今回も協力してあげたのさ。」


アルベルトも楽しそうにネタ晴らしをする。

新たな情報が多すぎて混乱するリリィであったが、どうやら自身の部活動停止の件の不安は取り越し苦労であったことだけはわかり、がっくりと肩を落とすのであった。



「完成した~。」


リリィは椅子の背もたれに寄りかかり、腕を伸ばしながら叫んだ。


「完成したのか!?」

「ついにか!」

「ファイナルアンサー?」


という部員達にリリィは自信満々に笑顔で


「ファイナルアンサーよ!」

と答えた。


その後、擬人クルスの頭部にリリィの完成させた人工知能を埋め込む作業を行い、擬人クルスはついに完成を見た。


「では起動させるぞ。」

部長であるシチが部員達に確認をとる。

部員達が了承したのを確認し、擬人クルス、個体名「イヴ」の起動ボタンを押した。


ごくり


誰かの唾を飲み込む音がした。


数秒後、特に前兆もなく「イヴ」は目を開け立ち上がり発言した。

「擬人クルス、個体名イヴ、正常に作動いたしました。」


「イヴたんキターっ!」

「イヴたん!僕がアダムだよ。」

「種族を超えた禁断の愛か。燃える。」

「やめとけ楽園を追放されるぞ。」

「大丈夫。俺が神だ。」


イヴの目覚めに沸き立つ部員達であったが、


「これどうやって自我の確認をするんだ?」


ある部員がそんな事を呟いた。なるほど、確かに傍目にはイヴの自我の確認は難しい。


「簡単よ。創造主への反抗と、イヴ個人に好き嫌いがあるかで判断できるわ。」

とリリィが答えた。


「なるほど。では、イヴよ!何か好きなものはあるか?」

シチが部員を代表して答えると、イヴは少し首を傾げた後、


「現状、経験が不足している為、確定させることはできません…が、父と母には好意を感じます。」

とイヴは発言した。思わぬ言葉にシチは思わず問い返す。


「待て、父と母とは誰の事だ?」

すると、またしてもイヴは首を傾げ答えた。


「あなたが父なのではないのですか?母はリリィ・オックスフォードだとプログラムされています。」


「「なにーーーー!」」

思わぬ言葉にシチだけでなく一人を除いて全ての部員が驚愕する。


「部長ゴラァ!いつの間にリリィたんを毒牙にかけたぁ!」

「副部長だけでなくリリィたんまで…!」

「もうやだよ。なんでこんな眼鏡ばかり…。」

「いや、待て部長がイヴたんの父親ということは将来義父になる可能性も…。」

男部員は全員ハッとした顔をしたのち、

「お義父さん、娘さんを僕にください!」

最敬礼をし、叫んだ。

「おい。ばか!やめろ!」

突然の出来事に否定の言葉を口にすることしかできないシチ。

アリサは無言でシチの腕をつねっている。

そんな混乱を予想していた唯一人は楽し気に、

「お父さんは大変そうね。ねぇイヴ。」

イヴにだけ聞こえる声でリリィは呟くのであった。


「リリィさん後でお話があります。」

ギクっ!


その後、冷たい目線で青ざめたリリィを無言で睨みつけるアリサの姿が時折目撃されるようになった。


実はアリサが「三角関係というのも興奮しますね。」などと妄想していただけとは、もちろんリリィには知る由もなかった。


その後、様々な検証を行い、イヴに自我があることが確認された。

クソケンは学園祭でイヴを美女コンテストやのど自慢大会などあらゆる大会に出場させ、擬人クルスの性能をこれでもかとアピールした。何せ全ての大会でベスト3入りを果たしたのだ。アピールには申し分ない。


展示会においても、自我持つ人工知能や有機物の肉体は学者や医療機関から多くの注目を集め、盛況を博した。


もはやこの功績に学園は廃部要請を撤回せざるを得ず、またもや学園側はクソケンを廃部にする機会を逃したのだった。


「「かんぱーい」」

クソケン部室では学園祭の打ち上げ及び部存続祝いの打ち上げを行っていた。


「いやーやっぱり俺達のイヴたんは最高だったね。」

「然り然り。」

「美女コンテストのイヴたんの水着は鼻血ものだったお。」

「俺のイヴたんをなんて目で見てやがる。」

「お褒めいただき光栄です。」

「そこは怒るところよイヴ。」


部員達は各々学園祭を振り返りながら、会話を楽しむ。


「しかし、まさかリリィたんが部長のこと好きだったとは…。」

「違うっつってんでしょ!いつもからかわれてばかりだったから仕返しがしたかったの!」

「それにしても、夫婦設定に普通するか?」

「肉を切らせて骨を断つって諺を知らないの!?」

「母の脈拍が乱れるのを感知しました。」

「イヴは黙ってなさい!」

イヴも談笑に交じる。未だ空気を読めないところもあるが、クソケンになじんできていた。


「クソっ!なんで部長ばっかり。」

「あいつがいるから俺達に春が来ないんだ。」

「お義父さんを殺して僕も死ぬ!」

「お前ら止せ!とばっちりが過ぎるだろう!」


シチは慌てて弁明するが嫉妬に燃える部員達は聞く耳を持たなかった。

シチを亡き者にしようと部員達が立ち上がった時、所用で外出していたアリサが帰ってきた。

「アリサ!いいところに!」


話を逸らそうとシチが声をかけたが、アリサの表情は晴れなかった。

それに気づき、シチを抹殺せんとしていた部員達も静かになりアリサに注目した。


部室内が静かになったところでアリサは口を開いた。


「この部、空想浪漫魔法研究部がまたしても廃部の危機に陥りました。」


そして一瞬の静寂の後、


「「ジ・ハードじゃあああああああああああああああ!!!!!」」


クソケン部員全員の叫びは部室を超え、校内に響いたのだった。


おしまい


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  「空想浪漫魔法研究部」という壮大な部活名を、いきなり「クソケン」と略してしまうタイトルが面白く、興味を惹かれました。  また、登場人物たちが個性的で、読んでいて飽きることがありませんでし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ