#2 天使
▼天使
自宅に戻った朔夜は、早速時期外れの万年コタツに座り込むと、とるものもとらずネットに集中した。
慣れた手付きで不当アケセスし、進入したあらゆる企業の情報から、この下北沢に住む二十四歳女性のイニシャルKNにあたるものを全て余す事なくピックアップする。
そして、その情報をプリントアウトしてファイリングして行った。
しかし、それでも五十件近くのリストが有り、どれが雅樹の云うターゲットになるのか、全く予測がつかなかった。
「これでは、どうしようも有りませんね……」
五十件全てに対してなど、たった一つの身に対して接する機会など無い。ましてや、働いている女性だって数知れない。
「何か良い方法は無いですかね……」
暫く考えていた朔夜ではあったが、ふと想いたったかのように検索を始めた。
『天使』
と言う単語で、ホームページが引っ掛かってこないかと想いたったからである。
すると、五十件近く引っ掛かって来た。
『天使の誓い』
『天使の楽園』
『天使のわだかまり』
他多数。
それらのサイトを見て回ったが、しかし、『ピン』と来る内容の物は無かった。
それにしても、こうたくさんの天使に関するホームページが有るとなると、まんざら人は天使を軽視していない。そして惹かれると云う事は明らかなのだと実感した気がする。
まず、天使とは『神の御使い』であり、天上では神に仕え地上に向っては神からのメッセージとして人間に伝える役割を担っていると云うのが原則で有ると云う事だった。
特別、キリスト教を学んでいる訳でも無く、こう云った類いの事を身近に感じる事のなかった朔夜にとっては全く未知数の多い分野だと云って過一言では無く、こうやってホームページに載せられている、より詳しい項目を読んで行くうちに次第に飲み込んだ気がした。
だけど、実際聖書やそれに付随した書物に載せられている天使像と云うものは、確かに人々の心に、魅力有るものとして映るのかも知れない。
この時代、神も仏も無いもんだと云われるが、人は、何かに縋って生きなければ、生きていけないのかも知れないとそう感じた。
確かに、天使が現れる夢は存在する。夢を見た人の良心や真心を代弁し、苦境からの脱出方法を導いてくれるといった類いがそうだ。
このような状況下、天使が夢のなかに現れて神からの言葉を残して行くと云う所が気に掛かった。もし、自らを『天使』だとそう云い放った雅樹が、人々の夢の中で、人道に反する事を囁いたとしたらどうであろう?人はそれを一つの啓示だと信じてしまったとしたならば……
そう考えると今迄の事存についても納得が行く。夢占いに関しても、源流は神の御言葉を聞く為の物としてとらえられている。
面白半分にそうしたのか?それとも何かの考えがあってそうしたのか?
しかし理由が何にしろ、黙って見過ごす事などは出来ない。そう考えて、朔夜は焦った。
次のターゲットは誰なのか?
そんな事を考えている中、一通のメールが飛び込んで来たのである。
全く身に覚えの無いメールアドレス。
しかし不吉なのは、そのアドレスのアカウントは横文字で、
『堕落した天使ルシファー』
朔夜はこれを見た瞬問、ルシファーがどういうものであるのかも分からずに、即座にそのメールを開いたのである。
それには件名は載っていなかった。そして内容を読みはじめる。
そして、出だしは紛れも無く探していた『天使は全て知っている』であった。
『仕事ははかどっているかい?天使は悪にも、善にもなり得る。そして人はそのどちらを選択しようとその者自身の心で捕らえる事ができる。ならば、悪に身を滅ぼそうとそれはその人の勝手だとは想わないかい?すでに、下北沢に式神が飛び交っているようだが、それは無意味と云うもの。オレの心は、もう決まっている。それでも止めようと思っているのならば、ここにアクセスしてみると良い……』
それだけ書かれたメールをアドレスそのままに送り返そうと試みたが、既にアドレスを変えたらしく戻って来た。雅樹には全てお見通しなのであろうか?
このメールが、賭けの張本人。雅樹から送られて来た事は明白ではあったが、朔夜は仕方なく書かれてある通りに、そのアクセス先のホームベージを覗いてみる事にした。
長たらしいそのアクセス先のアドレスは裏ホームページであるらしく、無気味にも真っ黒な壁紙に赤い文字で作られたホームページだった。
中心には、真っ黒な羽根に『DEATH』と書かれてある。
そして、タイトルは、紛れもなく探していた『天使は全て知っている』であった。