#11 エピローグ
▼エピローグ
賭けは、雅樹が云った通り引き分けになり、その後、下北沢近辺での事件は起こらなくなった。そして、今迄存在していた、裏ホームページも消えてしまっている。捜査の手が回る前には、今回の一件は闇に葬られたのである。
あの後、神楽を抱え二宮和和恵の部屋に戻った朔夜は、直紀の指揮の下、二宮和恵の自我を取り戻す為の夢交換を終え無事意識を取り戻した。
しかし、肝心の神楽の熱は三日間続いた。術を操った雅樹の為の人柱のせいなのか、過労気味だった上に雨に打たれたからなのだろうか、その辺りは全く分からなかった。原因不明の昏睡状態である。
そして、熱の山を充分越えた今になっても神楽が目覚めることは決して無かった。
しかし、神楽の身は父の酷慮で、秋元総合病院に今は入院と云う形で生き長らえている。
その事で、朔夜は叶に頼んで、病室に呪阻返しを行う為に結界を張ってもらった。これで、もし雅樹が術を行っても人柱としての神楽の身に害は及ばないであろう。逆に、術者にその反動が返される事となり、無闇な術は行えないであろうと気休めながら安心している。それからと云うもの、朔夜は叶の再入院の手続きを終えてからというものの欠かさず叶の見舞いの合間に時々神楽の顔を見に行っていた。
その神楽の意識は、心の闇の奥底に在り、殻を被ったまま表に出て来ようとしない。朔夜のカによっての占夢も効果は全く無かった。そう、自我を取り戻す為の努力も虚しいものであった。
ただ、今回の件で分かった事は、神楽が眠った状態になると、雅樹のカが増し、人格さえ変わってしまうと云う事だった。この双児のカは想像するには難し過ぎて、朔夜も叶も、さじを投げるしか無かった。
昏睡状態の神楽が次いつ目覚めるのか……雑樹との賭けが終わった今でも気にかかる。今の現状だと、この地上の何処かで呪組返しを施しているのも知らずに雅樹が大きな事件を起していても不思議では無い。いや、もしかすると、神楽に掛けた呪組返しの事に勘付いているかも知れない。そして、敢えて何処かに潜伏して来るべき時を見計らっているかも知れない。全く油断はならないのである。
そしてあの日の事は、マスコミ関係には報じてはいない。警察官もあの現状を理論上あり得ないと判断していた為である。テレビの中の超常現象と目されての番組の一コマのようだとしか把握していない。その中で直紀と叶は、この事実を知る第三者であり、最近はよく朔夜や叶の前に姿を現すようになってはいるが深入りしないようにしている。知ったところでどうにかなるかと云われると、全く持っでどうにも動かす事は出来ない。蛇の道は蛇。そう考える事にしたらしい。
「叶?神楽さんはいつ目覚めるのでしょうか?」
それが、今では合い言葉になっている。
「さあなあ〜神のみぞ知るってやっとちゃうか?」
叶も、一ヶ月を過ぎる今では完全に骨が引っ付き、リハビリの最中である。そんな叶に、かえでがしょっちゅうやって来て、『映画〜』と唸っているらしい。誕生日プレゼントの映画の最終日が近くなっているのである。
「眠り姫を起すのは、昔から王子様って相場が決まっとる。試してみてはどうや?」
冗談交えに叶はそんな事を云ってみせる。それが朔夜へのいたわりだと分かるから朔夜は笑ってみせた。
「そう出来る資格は僕には有りませんよ……」
夢を見ないと云う問題を抱える叶の事。今回引き分けだと云う言葉と、叶に関係有るらしい意味ありげな言葉を置き土産に残して去って行った雅樹が、これから先に起すかも知れない厄介な事。山積みにされていくこれらの問題。それらを考えると今の自分をもっと揺るぎないモノにしなければならないとそう思う。
そしでいつの日か、神楽自身が起きあがれる事を願いながら朔廠は今を生きている……
ここまで読んでいただきありがとうございました。
まだ、これから参の巻をUPしていく事になりますが、お付き合い頂けると大変嬉しいです。
感謝の言葉で一杯。ありがとうございます。