第四章 デデラルルの繭(前編)
第1話 事 件
「遊園地で連続蒸発事件?世も末だなぁ。」
ユニコーンは新聞片手に眉を細めた。フリル付きのうさぎさんエプロンが似合っている。
「そんな事を聞いているんじゃないの。こんな事件を起こすよーなキ○ガイは誰かってゆー話よ。」
「オウム心理教!」
「今年造られたばかりのアナタが何故オウムの事を知っているかは今回敢えて取り扱わないけど、違う!私が求めている答えはオスギ帝国よ!オ・ス・ギ・テ・イ・コ・ク!」
「あぁ、成る程成る程。オスギ帝国なら目的の面でも経済力の面でも納得だ。」
「目的も分かるの?」
「うん、何せオスギ帝国だからな。大方怪人の大量生産でもするつもりなんだよ。」
そういってブラックコーヒーを飲むが、すぐに顔をしかめる。
「苦。」
「どうしようかしら、明日は学校あるし。」
「僕が探りを入れてみるよ。ところでン・七十五は?」
「ついさっき10人を従えてアフガンに向かったわ。当分帰ってこないって。」
「ありがとう。もう遅いよ。寝た方がいい。」
「そー。お休み、寝込みを襲ったら殺すわよ。」
「お休み。襲うもんか。」
翌日、ユニコーンは北斗が格好良いから、と買ってくれた服とアクセサリーをつけて遊園地に向かった。ユニコーンホーンは杖に変えてあるから怪しまれる格好ではない。
「それじゃー行ってくる。」
「あぁ、行ってらっしゃい。」
ユニコーンは疾風の如く遊園地に向かった。
遊園地は例の事件のせいもあって人影はまばらだった。いや、ここに遊びに来る人間の精神を疑うべきかもしれないが。
ユニコーンロッドのオスギセンサーで怪しい場所を探る。元々オスギ帝国の怪人なので敵味方の識別センサーということで設置された機能である。そしてある倉庫に辿り着いた。
「立入禁止。」
怪しい札まで掛っている。唯一ここでオスギセンサーが反応を示しているのだ。ここしかないだろう。ユニコーンはドアノブを回して部屋に入った。
杖を剣に切り替え抜け目の無いように構える。オスギセンサーの反応する方向へ行くと、無数の戦闘員と怪人が一人、立っていた。回りにはたくさんの虫の繭みたいなのがある。
確証はないが恐らくこれが蒸発した人々だろう。
怪人はこちらに気付いたようだ。
「だれだ!貴様は。」
「……名乗る義務はない。」
「姿を現せ!」
「ヤダ。」
「何故だ!」
「戦闘は理想じゃない。ロジックだよ。姿を現したら正体がばれる。」
「成る程、君の考えには恐れ入るよ。しかしその王道パターンに乗っからない思考回路から私は君を一角怪人ユニコーンと断定するがね。」
「………」
「裏切り者には死をもって償わせる。」
「やれやれ。」
ユニコーンソードを片手で構えるとユニコーンは壁から姿を現した。
「死ねぇ!」
怪人は口から糸を吐いてくる。ユニコーンは跳躍し糸の群を避けるとこう叫んだ。
「名を聞いておくよ。」
「幼虫怪人デデラルル!」
「ありがとうッ!」
ユニコーンは語尾を強調しつつソードで斬りかかる。
「やぁっ!」
「いい腕だな若造ッ!」
「なんだよー、僕より後に製造されたくせに。」
バッと二人が離れ、位置を取る。すると後ろから戦闘員達が攻撃を仕掛けてくる。
「イーッ!」
「がはっ!」
剣を杖に変えその新陳代謝光線で傷を癒す。しかし敵の数は多い。ユニコーンはまた杖を剣に変え振り回す。
「イーッ!」
「いーっ!」
「イイイ…!」
次々と聞こえる戦闘員達の断末魔。頬に緑色の血が付着する。
「ぬぅ、しぶとい奴だ。」
デデラルルのうめき声に答えるかのようにユニコーンは自嘲気味に笑った。
「とーうっ!」
ユニコーンは高く高く跳躍しデデラルルの背後に回ると、振向かせる暇も与えずソードで切りまくる!
「ぐぎぎぎぎぎ……よくも…」
デデラルルはいきなり糸をはいた。その糸の先端は鋭く尖り、ユニコーンの胸を貫いた。
「うっ……」
口から血が流れる。新陳代謝光線を我が身に当てる時間もなくさらにデデラルルの猛攻は続く。
「ぐうぅぅ……がっ!」
「体制逆転だな。」
デデラルルの冷ややかな視線を睨み返す。しかし相手は死刑を宣告するように言った。
「死ね。」
その声を合図に回りの繭が孵化し、中から蛾のような触角や羽の生えた人間が生まれる。
「殺れ。」
「ギェーッ!」
蛾人間たちは一斉にユニコーンに襲い掛かり超音波や殴る、蹴るなどの攻撃を加えた。
「さらばだ、裏切り者、もう会う事もあるまい。」
デデラルルはそれだけ伝えるとドアの奥に消えた。
「ま、待て、がぁぁっ!」
ユニコーンは体から光を放つと姿を白馬へと変えた。額にはねじりの入った一本ヅノ、全身真っ白の馬だ。
「ルルルルルルル……」
高い声で鳴くと、ユニコーンは窓を破って逃げ出した。
第2話 学 校
49点、今まで取った点数の中で最悪だった。
「そりゃあ最近授業にも出れなかったし、テスト勉強も出来なかったけど……」
49点は無かったんじゃないの奥さん、て気分にもなる。でも北斗はまだいいのだ。同じ境遇に置かれた天才的野球児、鉄 鋼三郎を見たまえ、いや、その点数を見たまえ。
21点。
それが全てだった。北斗なら数字をひっくり返せば高得点になるが、鉄はそれすら無いのだ。
みんなで哀れんであげよう。
それが化学の悪夢だった。
で、弁当の昼休み。
北斗は何も考えずにタコさんウィンナーを口に運んでいた。
だから窓際で外を眺める馬鹿女子の声も良くわからんかった。
「見て見て、あのヒトイケてない?」
「あ、ほんとぉーだ。」
お前ら脳味噌が膿んでいるんじゃないのか?と北斗は漠然と考えていたが。
「でも彼この学校の生徒じゃないよね。」
「手に杖持っているけど。」
「でも、何処の人種だろうね、髪の毛も白いし。」
ユニコーンか?遊園地での一件が済んだから伝えに来たのだろうか?
北斗はちょっと校門の方へ歩いて行こうとした。
北斗は血だらけになったユニコーンを見て絶句した。
「大丈夫?」
「何とか。」
回りにも野次馬が集まってあれと北斗はどーゆー関係だとかそーゆー話で盛り上がっていた。
ユニコーンは新陳代謝光線で傷を癒していたが、だいぶつらそうだ。
「そんなに酷な戦いだったの?」
「僕達より強い怪人を造ったのは当たり前だったんだけど、たかを括ってしまって。」
「そう。」
北斗は周囲の野次馬の中で最も屈強そうな生徒にユニコーンの運搬を頼むと野球部のブルペンに向かった。
「ユニコーンが負けた?」
鉄は驚いたように言った。ユニコーンの実力は以前の特訓でイヤというほど教えてもらった。そのユニコーンが負けるなど考えられない。
「よし!弔い合戦だ!」
「何故、そんなに話が飛ぶ?それにユニコーンは死んでないわよ。」
「………」
「彼の話をまとめるとね、敵は幼虫怪人デデラルルで、繭に閉じ込めた人間を蛾人間にする能力と口から吐く糸なんだって。」
「強敵には聞こえないけどなぁ。」
「のんきな事言わないでよ。事実、ユニコーンはやられているんだから。」
「ごめん。」
鉄が謝ると、北斗は考え込んだ。デデラルルはやみくもに戦って勝てる相手ではない、少なからず犠牲を出すだろう。戦闘員達はアフガンに行っていて今はいない。
思案していると……
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
「何?」
「校門の方だ。」
「行ってみる。」
「おい、待て北斗!」
「フフフハハハハハハ!見つけたぞ裏切り者。」
怪人デデラルルである。
「私は完全主義者だ。逃げた獲物は許さん。」
「そうか。困ったな。」
あくまで強がるユニコーンもユニコーンである。
ここが人目のつかない所だったらいいのだがここは学校だった。
「くっ!」
ユニコーンは一目散に逃げ出した。
裏山がいい、あそこなら人目に付かない。
北斗は遅れて来ると、裏山の方へ逃げるユニコーンを追うため、バイクをひっぱりだしてきた。山田高校はバイク通学可という珍しい高校なのだ。
ヴォォォォォォォォォォン
エンジンをかけて二体の怪人を追う。
第3話 戦 闘
「ぐはっ!」
ユニコーンは山の斜面を転がった。
デデラルルはこっちに近づいて来る。
デデラルルの振り下ろすサーベルをユニコーンソードで受け、腕に切り付ける。
「ぬぅぅっ。」
「でぇぇぃっ!」
キィン!キィン!
二つの剣が激しく交差し、今時にあるまじき原始的な戦い(といっちゃぁそれまでだけど)を繰り広げている。
しかしデデラルルはサーベルでユニコーンソードを受けている間に口から糸を吐いた。
無数の糸がまたユニコーンの体を貫き、ユニコーンは口から血の塊が流れ出す事を止める事が出来ない。
「死ねぇっっ!」
しかし三度目の正直ならず、北斗のバイクがデデラルルをはねた。ヘルメットを無造作に怪人にぶつける。制服のままバイクに乗ってきたのは許してもらいたい。
「この野郎っ!」
「野郎じゃない!女よっ!」
北斗は制服を脱いで動きやすいジャージ姿になるとデデラルルに一本背負いを決めた。
「ぐおぉっ!?」
続いて相手の背後に回り前転で相手の肩に足をかける。肩車の姿勢になると今度は倒立後転で後ろに倒れる!デデラルルは顔から地面に叩き付けられた。
「あべしっ!」
「北斗の拳」の断末魔みたいな声を上げてデデラルルはぶっ倒れた。しかし。
「調子に乗るなよ!」
デデラルルは糸を北斗の腕に絡み付け振り回した。
「わ、わ、わ。」
デデラルルが糸を切ると北斗は飛ばされる。
「くぅっ。」
北斗も山の斜面に投げ出される。
「もう、御遊びはおしまいだ。」
今まで遊んでいたのかって思うほど強力な幼虫怪人デデラルルは体を繭に包む。
「え?」
「何!?」
デデラルルの繭は数秒もしないうちにわれ、中から出てきたのは………
怪人紹介コーナー
幼虫怪人デデラルル身長:180cm 体重:91kg
オスギ帝国の作り出した怪人の中で最強の怪人。
人間を昆虫戦闘員にする蛾作戦を展開する。実力はユ
ニコーンに重傷を負わせるくらい強い。
武器はサーベル。必殺技はモス・ニードル。戦闘の途中でそれまでの弱点を補う自己進化変身ができる。
次回予告
幼虫怪人デデラルルは自己進化能力で最強怪人デデラルルへと進化した。
よりパワーアップした怪人を前に、北斗絶体絶命のピンチ!そこに現われる黒い影!
次回レッツゴー!アルシンド「デデラルルの繭(後編)」




