第三章 白馬が来る
第1話 失 敗
くもおじさんの日記にはこう記されている。「そもそもの失敗は伝承に沿ったユニコーンを作れ、とDr.モンゲルに注文した事だった。ドラゴンにすりゃ良かったんだ。ちくしょうめ。」と。
伝説によるとユニコーンは素晴らしい治癒能力を持っているが反対に恐るべき攻撃能力も持ち合わせる。くもおじさんはここに目をつけたわけだ。多少の攻撃はすぐに治し、その一本づので敵を貫く。こんな怪人だったらあの3人組も抹殺が完了しオスギ帝国は世界征服という時代遅れな野望を達成できたに違いない。だが伝承にはあと一つ、ユニコーンの性格が鮮明に描かれていたのだ。
鉄はここ数日間の特訓で鉄も戦闘員達も格段に腕を上げていった。戦闘員達は必殺技、飛び蹴りアーミーキックを習得した。しかし11人がイーイー言いながら飛び交う姿は無気味の一言に尽きる。
さて、今日、北斗と鉄は期末テストの最終日だった。全然勉強していなかったようで二人ともゾンビのよーな顔して歩いていった。全然ダメそーなのが戦闘員達にも良くわかる。
「イー。(かわいそうに。)」
「イー。(勉強しなかったんだな。)」
「イー。(自業自得だな。)」
「イー!イイーイー!(こら!しっかりやれい!)」
『イー。(はーい。)』
三人の白戦闘員はン・七十五に叱咤され、玄関脇の掃除をしはじめた。
「イー。(もう冬なんだなぁ。)」
丸坊主になった街路樹を眺めて、白戦闘員N-7504はしみじみ呟いた。
山田高校、テストが終わると鉄はグラウンドに行った。あんまり練習に出ないとエースはおろか一軍の地位すら危うい。
北斗は……死んでいた。しかし「死して屍を拾うもの無し」の言葉通りだれも声をかけなかった。そこに同じクラスの東大寺さやかが声をかける。
「フブさん、あんまり死んでると蛆わいちゃうよ。」
この少女、顔の割に恐ろしい事を言う。
「うー、もう駄目だわ。期末テスト。もうちょっと勉強しとけば良かった。」
北斗はがばっと跳ね起きると、
「そもそもあんなオスギ帝国なんて訳のわからん組織のせいなのよ!勉強の時間もろくすっぽ取らせてくれなくて!このっこのっこのっ!」
いきなり元気になって机を蹴りはじめた。東大寺は慣れているのでにこやかな顔のままばんそうこうを出した。後で足を押さえて「痛いいいい!」って転げまわった時のためだ。
案の定、冷静を取り戻した北斗は爪先を押さえて転げまわった。
ユニコーンはその一部始終を双眼鏡で観察していた。
「あれが北斗だな……」
超高感度聴力センサーで聞いた所、それだけは間違いないようだ。
「おお、そうだ。写真を見るのを忘れていた。」
上着のポケットから三枚の写真を取り出した。盗撮の割には良く撮れている。
「えー……と、北斗はこれだな。」
ユニコーンは写真を見て絶句し。一本杉の上から双眼鏡を落としてしまった。
第2話 密 談
「イー!(うりゃ!)」
「イー!(やられたー。)」
午前中に家事をすべて終え、戦闘員達はタイツを脱いで束の間のヨロコビを噛み締めていた。家事を終え、二人がいない時間帯が最もゆったり出来るのだ。だからプレステで遊んでいたりする。
一人だけタイツを着けた黒戦闘員はその上にうさぎさんのフリル付きエプロンまで着けて(ショッカーの戦闘員がエプロン着けているのを考えてみよう)皿洗いをしている。別に真面目ってわけではない。ジャンケンで負けただけだ。
「ただいまー。」
ひどく疲れた声で北斗が帰宅した。
「イー。(やっぱりテストが駄目だったんだぜ。)」
「イーイイー。(かわいそうに。)」
その会話の内容を知ってか知らずか、北斗はキッと二人の白戦闘員を睨んだ。二人は慌ててテレビゲームに興じる。
「イー!」
「イーッ!」
「ごめん、疲れたから寝る。」
「イー…(おやすみ…)」
北斗はとぼとぼ二階に上がっていった。やっぱりゾンビっぽい。いや、ナメクジに近いか。通った後が本当にぬめぬめしてそうで誰も二階に上がろうとしなかった。
ギュイィィィィン
ドリルの様な音がし、戦闘員達は身構えた。
「イイイイ―――……(戦闘隊形を取れ―――)」
白戦闘員達は腰からトカレフを、ん・七十五はブルホークレーザーガンを抜き、構えた。
ギュイィィィィン
「イーッ!(誰だ!)」
廊下の向こうから人影が現われた。頭から白い角をはやした人間だった。
「私は一角怪人ユニコーン。」
ずきゅーんずきゅーんずきゅーん
トカレフ達が仲良く火を吹いた。
「な…何を…」
「イーッイイッイイイイイイイイーーー!(問答無用!オスギ帝国の者はここから一歩も通さん!)」
「どけー!僕は『あの人』に話があるんだーッ。」
「イーッ!(用件を言え、場合によっては貴様を銃殺刑にする。)」
ン・七十五(うさぎさんエプロン、洗いかけのフライパン装備)が厳かに言った。
「何て言ってるんだ?」
「イー。(こういうことだ。)」
そういうと白戦闘員がじゃきっ、とマシンガンを構える。
「くそっ!」
ユニコーンは頭から角を抜くとそれを一降り、一瞬で杖に変えた。
ズガガガガガガガッ ばしばしっ
マシンガンの弾を受けても回りの見えない何かが邪魔をする。
「イッ(馬鹿なッ。)」
「何よー、うるさいわねー。」
二階から青いパジャマを来た北斗が目を擦りながら降りてきた。ユニコーンは顔を輝かせる。しかし……
「あーッ!そのベルトはッ!」
ユニコーンのベルトを、北斗は指摘した。通称オスギバックル、オスギ帝国の怪人が着けるベルトである。
「オスギ怪人ね!覚悟ッ。」
相手に有無を言わさず、二階から跳躍してユニコーンを蹴り倒し、エビ反りがためをかけた。
「いたいいたいいたいいたい。」
「イーッ。(おいおい。)」
「期末テストの仇ィーッ!」
「話を聞いてくれー!」
「大方の話は理解したわ。」
北斗は厳かに言った。
ユニコーンの理想の女性と北斗がぴったり一致したという事、つまりひとめぼれだ。
「イーイーイッ。(東大寺さんタイプの方がいいと思うんだけどなぁ。)」
北斗と東大寺は外見で言うとほとんど差がない。二人とも和風美人でロングヘアー。多少の違いを言えばきりっとした目付きの北斗に対し、東大寺は穏やかな目付きをしている。目だけが「北」の涼しさと「東」の穏やかさを現しているようで面白い。まぁ、外見はともあれ性格では圧倒的に東大寺に軍配が上がる。
しかしいくら暴力的な北斗に惚れたからと言って鉄やユニコーンがマゾってわけではない。何にせよ命拾いしたのだから喜ぶべきだ。
「でも何で仲間を裏切るような事を?」
「僕は伝承のユニコーンをもとに造られたんです。ユニコーンは伝承によるとプライドが高く、かなりの治癒能力や攻撃力を持っており、女性に弱い存在とされます。だから。」
「だからタカビーで暴力的で女好きなのね、あなたは。」
「………」
「イー…(なんでそうひねくれた解釈するのかなぁ…)」
ン・七十五は思い出したように紙に言葉を書いた。
<ってことはユニコーンはこっち側サイドで戦ってくれると?>
「そういうことですね。」
「それは心強いわ。でも一つ心掛かりな人物がいるのよ。」
「イー。(あいつか。)」
「誰です?それは。」
第3話 議 論
「 もう一度説明してくれ。」
「だからぁ、ユニコーンが私に惚れていて、こっちサイドで戦ってくれるんだって。」
「駄目だ。」
「アンタにそんな事言う権利はないでしょ!」
「許さん!」
「何よ!ここでユニコーン敵に回したらアンタと心中する事になっちゃうじゃない!」
「うぬぅぅぅぅぅぅ。」
鉄は思案していった。
「オスギ帝国を倒したら北斗の彼氏になる決着をつけよう。」
「ちょっと待て!私は告白の返事はするって言ったけどOKとは言ってないわよ!おい、待て!くそ鉄ッ!」
ちなみにユニコーン脱走でオスギ帝国極東本部が大騒ぎした事は言うまでもない。
怪人紹介コーナー
一角怪人ユニコーン
身長235cm(角含む。)体重89kg(角含む)
鳴声:ルルルルル
オスギ帝国のエリート怪人。その実力は凱聖四
天王に優るとも劣らない。
白馬への変身が可能で武器は杖にも剣にもなる
ユニコーンホーン。
必殺技はエナジーブレイカー、回復魔法リザレクション、メディカルホーン等。
次回予告
次々に起こる遊園地での不可解な蒸発事件を追うユニコーンは奇妙な倉庫に辿り着く。
そう、それは自分のはく糸で人々を繭に閉じ込める幼虫怪人デデラルルの仕業だった!驚異の自己進化能力を搭載したデデラルルになす術もなく敗れ去るユニコーン。さらに、繭に閉じ込められた人々が孵ったとき、彼等は昆虫戦闘員となりユニコーンに追い討ちをかける。
北斗と鉄のもとに、辛くも逃げ帰ったユニコーンの前にまたもや現われる怪人デデラルル!
次回レッツゴー!アルシンド「デデラルルの繭(前編)」




