彼のせい
例えば、今日の自分がどうしようも無く不幸だったとして、その原因が、たった一人の少年が原因だったとしたら、貴方はどうする?
私は、殺した。
その日、一人の少年が私に言ったのだ。今日、貴方が学校に遅刻したのは、僕のせいだと。今日、貴女が弁当を忘れたのは僕のせいだと。
もちろん、そんな事がある訳がない。
だが、彼の嘲笑するような眼は。まるで、愉快な映画を見ているような笑顔を見た私は、無性に腹がたって彼を殺した。
私が彼を目掛けて突き立てた鉛筆は、面白いように彼の目から、脳みそを突き破り、そのまま物を言わぬ塊に変えてしまったが、私の胸は全くすっきりせず、そのガラクタを蹴り飛ばして帰路についた。
次の日、私の家が燃えた。
私が置きっぱなしにしていたスプレーが、ストーブの熱で爆発したのが原因だった。
ごうごうと音を立てて燃える家を両親とぼうっと見ていると、その横でまた、彼が笑っていた。
今日この家が燃えたのは、僕のせいだと。
家が燃えたのは、私の不注意が原因だった。それは誰が見ても間違いない事だった。
だが、まるで捨てられた子犬を見るような眼と、それを見捨てる人間の目をしていた彼を見ていたら、ふつふつと怒りがわいてきたので、また殺した。
実際に掴んだはずなのに、彼の体はまるで紙の様にふうわりと飛んでいき、ぼうぼうと燃えた。
飛び交う彼だった灰は、熱風に吹かれて両親に降りかかっていた。
家がアパートになって、紅葉が無残に枯葉になった頃に両親が首を吊った。
電灯の横に太い釘を打ち込んで、そこからネクタイとゴムホースで二人はぶら下がっていた。
こんな太い釘を、賃貸の家に打ち込んでしまっていいのかを考えていると、彼は私のご飯を食べながらいつものようにこう言った。
君のお父さんとお母さんがテルテル坊主になったのは、僕のせいだと。
二人が死んだのは、お金がもう無くなったからだと察していた。
しかし、彼のたとえが無性に苛立ちを覚えるっものだったので、彼もテルテル坊主にしてあげた。
三個のテルテル坊主が、明日の天気を案じてゆらゆらしているのを見ながら、私はご飯をすませた。
それから一週間経った日、私は死んだ。
電車を待っていたら、誰かに突き飛ばされたのだ。
後ろは見えなかったし、誰が推したのかを確認なんてできなかったが、きっと彼なのだと思う。