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五、「探したぜ?」

 大地を燦々と照らす太陽は西の空に追いやられ、空いっぱいに敷き詰められていたはずの水色は赤色へと変貌していた。そこにぽつりと浮かんだ綿菓子は、茜色に染まっては東の空へと流れていった。ただ、ブランコのきぃきぃという甲高い鳴き声だけが、愛知の耳を刺していた。どうやら、愛知が腰掛けたブランコは、随分と古びているらしい。遊具を囲う柵の中で唯独り、愛知だけが視界を揺らしていた。古い公園には愛知以外、人っ子一人いなかったのだ。

 あの後愛知は伯母の家に戻った。

 余談だが、「帰った」という表現は愛知にとっては誤りでしかない。住まわせてもらってはいるが、愛知はあの場所を自分の家だと思ったことなど一度もない。

 そう、伯母の家に戻ったのだ。リビングに入った瞬間、伯母は愛知を突き飛ばした。小柄ではないが、体の細い愛知は簡単に床に転がされる形となった。伯母は愛知の上に覆いかぶさり、狂った獣のように叫び続けた。

 教師からすべて話はきいた、私を殺人者の伯母にしてくれるな、この穀潰し、死んじまえ、今すぐ出ていけ…。

 こうして愛知は逃げるように伯母の家を後にし、この古びた公園に迷い込んだのだ。

 あの伯母に何を言われたところでもう何とも思わないが、死んじまえというのが引っ掛かった。

 死んじまえ。

 なんて無責任な言葉なんだろう。相手に死んでほしいなら、自分で殺してしまえばいいのに。

 もう愛知には行くあてが無くなった。住処がない、頼れる人がいない…。

 最悪の状況だ。こんなことなら今すぐにでも刑務所にぶち込んで欲しかった。

 愛知は頭を垂れて、溜息を吐く。すると嫌でも足元に置いたスクールバッグが目に入る。二年間使い込んだ、少し色あせたスクールバッグだ。中には確かに筆箱が入っている。そしてその中には…。

 愛知はスクールバッグをまさぐって、筆箱を取り出した。白地に橙色のストライプが入ったシンプルな筆箱だ。唸るような音を立ててジッパーを開けると、そこにはやはりそれがあった。

 

 カッターナイフ。


 かちかち、と音を立てて五センチほど刃を出す。鋭く尖った鈍い光が、愛知の目を突き刺した。

 左手首に刃を当ててみた。当てるだけ。当然血は出ない。刃を立てても無駄だとわかっているから、刃を立てるようなことはしない。そう。無駄。無駄なのだ。愛知の口からふふ、と息が漏れた。

「あーあ」

 小さく呟く。こんな場所で、世界の片隅で。聞いていない、誰も、誰一人として。

 愛知の声を聞く者は、いない。

「死ねたらいいのに」






「そうか?死んでもいいことなんかないと思うぜ?俺は」



 いつの間にそこにいたのか、愛知には全く見当もつかなかった。まるで紳士服店のマネキンのようにしっかりと着こなされたスーツ、少し緩めた赤いネクタイ、整った顔立ちにカジュアルな黒い眼鏡、少し長めの黒髪。


「やっと見つけた。探したぜ?安曇野」


 羽黒玄武がそこに立っていた。

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