10年越しの想い。
中学校の時、喧嘩ばかりしていた男子。
口では、うざい、だの、ばか、だの、あほ、だの言ってたけど――――、楽しい毎日だった。
でも、高校は分かれて、それ以来逢っていなくて――――。
そんな彼に再会したのは、27歳の秋。
同窓会の席で、友人と談笑する彼を見つけた。
変わったけど……変わってない。寧ろ――――、
「……ねえ、リカ。柏木って……あんなにかっこよかったっけ?」
「はぁ?」
中学校時代からの友人……秋山リカに、そう尋ねる。
柏木悠斗。少し茶色がかった黒髪で、表情がくるくる変わる。笑った時の顔を見たときは、どきっと胸が高鳴って……、思わず、顔を背けた。
「柏木ねぇ……変わって無くない? やっぱ、あの幼いカンジは抜けてないわ」
「そう? 変わってないかな……」
リカと話していると、後で柏木の慌てた声がした。
内容までは聞き取れなかったけど、思わず彼の方を向いてしまう。
その瞬間、ばっちりと合う目。
背けちゃ、駄目。睨んでも、駄目。無視なんて、論外。
だから、もう、中学生じゃないんだから、今回こそは――――、
柏木の前で、笑顔になる。
勇気を出して、満面の笑みを浮かべる。
でも……、それが、限界だった。
恥ずかしくて、すぐに顔を背ける。
「うわ……駄目だ、あたし」
柏木に、恋してる。
*
同窓会の後、リカからメールが来た。
柏木に、あたしのメアドを聞かれたって。
嬉しかった。メアド聞かれるなんて、もしかして、脈アリじゃない?
だから、柏木のメールをずっと待ってた。
でも、柏木のメールが来たのは一か月後だった。
遅いよへたれ、なんて呟きつつ、どきどきしてメールを開く。
『メアドは、秋山から聞いた。12月23日、ランチしませんか』
単調な、必要最低限のメール。それに、クリスマスイブ前日と言う微妙な日にち。きっと柏木のことだから、クリスマスイブ当日は、恥ずかしくて駄目だったんだと思う。
それがどこか、彼らしくて――――、嬉しくて。
答えは、決まってる。でも、どう返信しよう。
柏木の好きなタイプって、どんなの? 絵文字たっぷりの、女の子らしいメール? それとも、必要最低限のことしか書かない、さっぱりとしたメール?
そして、内容は? “行く”だけでいいの? それだけじゃ、冷たいって思われるかな。他にも何か、書いた方がいい?
そんなことを悩んでるうちに、時間はどんどん経って。
「ええい、もう気にするか!」
そう叫んで、
『行く。』
それだけを書いたメールを、送信した。
柏木からの返信が、すぐに来たのが嬉しくて。
あたし達は、ランチの約束をした。
そしてとうとうやってきた、クリスマスイブの前日。
白い雪の中に彼を見つけて、あたしの顔は自然に緩んだ。
伝えなきゃ。10年越しの、この思いを。
一分一秒でも早く。
雪に足を取られながらも、柏木の元へ走る。
ひょこひょこ走るあたしを見て、彼が笑ってる。
危ないからゆっくり来いよ。時間はたっぷりあるんだから。
そう言って、笑う柏木。
だめよ。あたしは早く、貴方に想いを伝えたい。
時間はどんどん流れるんだから、出来るだけ早く、貴方に想いを伝えて、出来るだけ長く、幸せな時間を過ごしたい。
そう、願ったのに。
次に目に飛び込んできたのは、柏木の驚いたような顔で。
それを最後に、あたしの目の前は真っ暗になった。
なんで。どうして。ねえ神様、答えてよ。
あたしまだ、想いも伝えてないんだよ。
何度そう叫んでも、声は出なくて。手を伸ばしても、実体は無くて。
ああ、死んだんだ。
それに気付いた所で、どうにもならなくて。
ならば、と、開き直った。
きっと、想いを伝えるから――――、
だから、貴方は安心して、幸せに長生きして。
あたしはいつまでも、天国で待ってるから。
東城さん目線です。
このカップル、私的にはけっこう好きです。
天国で再会できますように。