淫乱王の追憶 ~魔女が遺した命~
追憶編、終了です。
「でね、アスモデウス。シェリーとイチャイチャするのはいいんだけどね?」
ベルゼは顔をひくつかせて、そっと、体をくっつかせている俺とシェリーに言う。
「ボクの前でイチャイチャするのは止めてほしいんだけどな」
「それは、お前の単なる妬みだろ」
俺とシェリーが付き合い始めてからもう、一週間が経った。時は早いもので、この一週間の間に何度肌を重ね合ったか・・・。
「・・・・すみません、マスター。・・・・不謹慎でした」
「あ、いや・・・不謹慎と言うか・・・」
「・・・・マスター、実は相談があるのです」
「相談?」
シェリーはいつにも増して真剣な顔でベルゼを見る。それに応えるようにベルゼも真剣な表情になる。シェリーが口に出した言葉は衝撃的なことだった。
「・・・・子供ができました」
「「えぇ!?」」
シェリーは俺たちの反応を見て、顔を赤くする。
「・・・・昨日、少し魔法医の所へ行ったのですが女の子ができたと」
「ア、アスモ・・」
「お、俺の子供・・・」
胸の奥がツンとなって、涙が込み上げてくる。俺と、俺の大好きな女との間にできた一つの命。あぁ、きっと俺は親バカになるんだなー、と思った。
「絶対、シェリーを幸せにするんだぞ!」
「分かってるよ」
俺はベルゼと誓い合った。
あれから、十ヶ月後。シェリーのおなかも大きくなった。シェリーの子が生まれるまでの間、ベルゼとシェリーは俺の城に住むことになっていた。シェリーのおなかに耳を寄せると時折、子供がおなかを蹴る音が聞こえた。
しかし、出産日を控えたある日、彼女が倒れたのだ。
「シェリー!?」
「あ、む、胸が苦し・・・」
「アスモ、ボクに診せてくれないかい?」
「頼む」
ベルゼは昔、ハデス様に治療術を習っていたはずだ。今は、アイツに頼むしかない。
「アスモ、デウス・・・怖い、です」
「シェリー大丈夫だ。俺が傍にいるから」
「アスモ・・・これは、多分呪いだよ」
「呪い!?」
「あぁ、しかも、シェリーが生まれて間もない頃に掛けられている。恐らく、いや、確実にシェリーの母親だろうね」
「くそっ!」
シェリーの母親、シェルゥ・アムバンドミーのことは彼女から聞いていた。
アムバンドミー家は、数十年前まで魔術師の名家だったがシェルゥの代で落ちぶれてしまった。理由はシェルゥに魔術師の素質がなかったため。その後、結婚しシェリーを産んだシェルゥは狂ったようにシェリーに魔術を教え続けた。そして、今に至る。
「シェルゥはシェリーが”心”を知ってしまった時のために呪いを掛けていたようだよ」
「マス、ター・・・苦しいです・・・・痛い」
「大丈夫だよ。ボクが助ける、必ずね」
「・・・信じて、マス」
シェリーは気を失ったようだ。
「話を続けるよ。そして、子供が生まれる日と呪いが発動する時期が重なってしまった」
「今日、生まれるのか?」
「あぁ、もう、そろそろ痛みが激しくなると思う。アスモ、シェリーの手を握ってやってくれ」
「わ、分かった」
俺がシェリーの白い手を握るとシェリーが薄っすらと瞳を開く。その表情は苦しそうだ。こんなときにどうして俺は何もできないんだよ! どうして、シェリーだけがこんな目に遭うんだよ!
「アスモデウス・・・私の、傍にいて」
「ここにいる。絶対、死なせない」
「アスモ、産湯と毛布を用意して」
「分かった!」
俺は急いで頼まれたものを用意する。
「シェリー、今、頭が出てきているよ。君とアスモの子供だ。その子のためにも頑張ろうね」
「うぐ!」
「シェリー!」
「アスモ、落ち着きなよ。大丈夫だよ、きっと、助かるよ」
「・・・・いいえ、助かりません」
「そんなこと言うなよ!」
「そうだよ」
「・・・・母の呪いは絶対です」
シェリーは弱弱しく微笑む。
「・・・・マスター、今までありがとうございました」
「シェ、シェリー・・・ボク、やだよ!」
子供の手が出てきた。
「・・・・アスモデウス、私に恋を教えてくれてありがとう」
「まだ、教えることはいっぱいあんだよ!」
子供の体が出てきた。
「・・・・それとね」
子供の足が見える。
「・・・・ずっと、愛してる」
子供が出てきた。その産声とともに彼女の体は氷のように冷たく冷たく、動かぬ人形のようになっていた。
「シェリーーーーーーーーーー!!」
叫びが彼女に届くことはなかった。
少し、悲しいお話になってしまいました。次のお話ではアスモとシェアラのことを書こうと思います。
次回の更新は水曜日です。