第03話 「冒険者ギルドにて 其の二」
第03話 「冒険者ギルドにて 其の二」
「あっ、すみません」
フィルが頬を見事なまでに赤く染めながら、抱き付くのをやめた。フィルが抱き付くのをやめたと同時に、肩の重みが消え、軽くなったような気がする。
さっきまでは抱き付かれていたお陰(?)でそちらの方に意識が行き、あまり気にならなかったのである。
俺はハッとして顔を上げた。そして後ろを見る。すると部屋の角には、ニッコリしたアリスの姿が。気の所為だと思い、(そう思いたかった!!)もう一度正面に向き直し、目を擦ってからもう一度後ろを振り返る。顔は笑っているが目が笑っていない。目はこちらを捕らえており、「後でわかっていますよね?」と言っている様にも見える。ひどい!!俺がいったい何をしたと!?
これは漫画とかで現したら絶対に『ゴゴゴゴゴゴ』と付くタイプのやつだ!!威圧のオーラが半端ないっ!!こいつ無意識に戦闘スキル≪威圧≫とか≪覇気≫とかを発動させていやがる。もうそりゃあボスモンスター並みの威圧感が出てるよ!!『ジークフリード』にも勝るとも劣らない威圧感だよ!!
いや、それにしてもおかしい。≪威圧≫系のスキルはレベルが低いやつにしか効かない筈なのに……。俺のレベルってアリスの十倍ぐらいあるよっ!
ちなみにフィルはこのやり取りを見て笑っている。
何がそんなに可笑しいのだろうか………。全然面白くもない。だってこれはただのやり取りじゃない。俺の命、言い改めるなら今日の晩飯が懸かっているんだ。晩飯を逃したくはない!!
「あ、そうだ。サイさん以外の人はどこに居るんですか?サイさんが居るって事は、皆さんも無事だとは思うんですが」
フィルは俺の顔を見て、話の内容を元に戻した。
何で俺の顔を見て話の内容を戻したのかよくわからない。もしかして顔に出ていたのだろうか。昔から、顔に良く出る、とよく言われていた記憶がある。そんなに顔に出ているのだろうか。今度鏡でも見て確認しよう。
「ユウ以外のみんなは旅に出てる。『サイのレベルなんか越してやるっ!!』ってみんな口を揃えて出て行ったよ。まったく……。俺は仕事があって出られないのに!」
思い出すと怒りが込み上がって来る。俺は自業自得とは言え、こうやって国に縛り付けられているのに………。ちなみにユウはこの世界で知り合った女性と結婚し、宿屋を経営している。子供もいる。幸せ者め。畜生、俺も早く幸せになってやる。
「はあ、そうなんですか」
フィルは若干引き気味だ。これくらいならわかるよ。引かれてるってことが……。
これでも人の気持ちには敏感だよ!!そして当然、自分に向けられている好意の視線は一切見逃さない。まあ、向けられた記憶があまり無い。というか無い。
「でもよかったです。皆さん無事なんですね」
フィルは微妙におかしくなった空気を正すかの様にそう言う。だが、本当に嬉しそうだ。
「そういえばフィル。フィルの他のやつらは?」
俺達はフィルの他にもNPCを雇っていた。
あいつらもハーフエルフだったからまだピンピンしてるはず………。だけどフィルしか居ないからちょっとだけ心配になった。
「この冒険者ギルドって各地に支部ができているんですよ。勿論他の国にも……。なので他の皆には、各地の支部長として頑張って貰っています」
「そうか………。皆頑張ってるんだな。あいつらとは連絡ってとれる?久しぶりに会いたくなった」
皆は『エレンスーンオンライン』時代ではNPCだったけど、会話も少しぐらいならできていた。
この世界に来て2年も経つのだから、少しあっちが恋しくなる事だってある。
ギルメンは殆ど皆、武者修行に出ているから、会うこともない。極稀にある、フレンドリストによる会話ぐらいだ。見知った人物に会うこともない。なので会えるととっても嬉しい。
「はい、とれますよ。じゃあサイさんをフレンドリストに登録しますね。皆の都合がとれ次第、連絡しますね。サイさんは他の人たちと、連絡をとっておいてくださいね。久しぶりに皆で集合してみたいですし………」
「ありがとう。俺も連絡とっとくよ。あいつらも喜ぶだろうから」
もともとNPCを雇おうと言ったのはギルドの他の面々だ。
本当はNPCを雇わなくてもギルドはやっていけるのだが、『こっちの方がいいでしょ!!帰って来たら、お帰りなさいませ、って言ってくれるのよ!その方が癒されるでしょ!?』などといろいろ言われたのだ。あまりにも鬼気とした表情で言われたので雇ってみた。
それがフィルたち。あいつらはNPCの時でも特別扱いしてたからな………。多分久しぶりの再開でめっちゃ喜ぶだろう。
正直俺はめっちゃ楽しみ。最近国務ばっかりだったから……。前みたいに仲間と馬鹿騒ぎして楽しみたい。
「なあ、フィル」
「なんですか?」
フィルは可愛らしく首をかしげる。これで60歳過ぎとか詐欺。
何?俺って騙されてんの?フィルにもしかして≪変装≫とか使われてんの!?
「ゴホン………」
アリスがわざとらしく咳払いをする。いかんいかん。いつの間にか思考がトリップしてた。
もしかして見惚れてのバレてたりする?顔がニヤけてた?
このままでは城に戻ってからがヤバイと思い、話を慌てて戻す。
「俺らのギルドハウスって残ってる?」
「残っていますよ。私も偶に掃除をしに行ってますから」
俺らのギルドハウスはこの街の外れにある。
一見普通の大きいだけの建物だが、機能はすごい。外側からの攻撃は一切受けない。それに鍵とパスワードがないと入ることができない。無理矢理こじ開けて入ろうとしたら、トラップが発動するので、無理矢理入ることもできない。
その所為で昔、俺がパスワードを変えて、それを皆に伝える前に忘れてしまい、危うくギルドハウスを無くしかけた時があった。完璧すぎるシステムがあった故の事件だった。思い出すのに物凄い時間がかかったのを覚えている。あんな事件、思い出したくも無い。そしてもう二度とあんな事はごめんだ。
「ん?でもあそこ周辺ってモンスターでるよな?大丈夫なのか?」
あそこは結構モンスターがでる。俺からしたら雑魚しか居ないが、世間では強いと言われていたレベルだったと思う。だから前までNPCだったフィルでは厳しいと思う。心配だな……。
「大丈夫ですよ。わたしも結構レベル上がったんですよ。荒くれ者の冒険者を静めるには力もいるんですから………」
「そうか、頑張ってたんだな」
「エッヘン」
忘れていた。もう50年も冒険者を纏めているんだ。レベルが少ないと舐められきってそんなことはとても無理だろう。
苦労してたんだな。同情する。だがしかし何でそんなに威張る。ギルドマスターの威厳丸潰れだよ。
「そういえば……。無理矢理開けようとしてトラップにかかって死んだやつとかいないか?」
あのトラップはとても危険だ。ギルドの腹黒い≪罠士≫が作ったトラップだから……。吊るし上げられて、致死性のある毒矢射されてそのまま放置とか、固定されてギロチンとか、急に爆発するとか。とにかく俺らならともかくそれ以下のやつらなら必ず即死のトラップが起こったはずだ。
それで死者が出るとか。こっちでは蘇生魔法を使わない限り死んだらアウトだから………。
ゲームとは違うのだ。皆命がある。大切な命を俺らの作ったトラップで落としたとしたら気が重くなる。
「大丈夫です。私が立ち入らないように皆さんに忠告しておきました。それに裏があると思った人たちは、宝か何かがあると考え、ギルドハウスまで行こうとしましたが、皆手前のモンスターに勝てなくて渋々諦めたそうです」
「ほっ、よかった」
誰も死んでないとわかり、安堵の息を漏らす。
本当によかった、誰も死んでなくて。周りのモンスターのお陰だ。ありがとう、モンスター。
俺は初めてモンスターに感謝した。
「とりあえず、ギルドハウスは綺麗にしておきましたから、いつでも行って大丈夫ですよ」
「そうか、ありがとう。お世話になりっぱなしだな。今度暇があったら城に来てくれ。お礼に最高のもてなしをさせて貰うよ」
「期待してますよ」
フィルはフフッっと笑う。
そんなやり取りをしていると後ろのアリスがムッっとする――様な感じがした。
今日は予感的中率が高いので、自分の感覚を信じる事にする。
俺はもう振り返らん!
振り返ると余計なことしか起こらないとわかるからだ。絶対にそうだ。
だけど何で不機嫌になっているのだろう。何か余計な事をしたのだろうか。いやもしかして逆にしなければならない事をしてないのではないか。
そうだ!俺はここに呼ばれたのだ。昔の知人としてではなく、一国の王様として呼ばれたのだ。なら俺に用があるはずだ。
今まで雑談しかしてない。だからかアリスが怒ってるのは………。いやあ謎が解けてスッキリしたよ。なら雑談も終了して本題へと移るか。よしっドンと来い。
俺は後ろを振り返る。不機嫌そうな顔をしているアリスに若干怯えながら、親指を立て、「もう雑談は終わったから、本題に入る。悪かった。だからあんま怒らないでくれ」と、目で伝える。すると、アリスは、怪訝そうな顔をする。
どうやら意味が伝わってないっぽい。だけど話を本題へと移せば意味もわかるだろう。
「アリス、で、俺がここに呼ばれた理由はなんだ?」
俺はそこまで言い、アリスの方へと振り返る。アリスは額に手を当て呆れていた……。
あれっ!?なんか間違えた?