第01話 「ヒノクニの王様」
第01話 「ヒノクニの王様」
「〝王様〟がいらっしゃらない!!また逃げられた!!探し出して連れ戻せ!!まったくあの方は途中で仕事を投げ出して……全く」
「またか……アイツは長年の行動パターンからすると……そうだな…上だな」
「空でしょうか?」
「ああ、多分アイツなら今頃≪飛翔≫を使って空を飛んでいるだろう……」
「確かにいつもはそうですが……流石にいつも同じ逃げ方はしないんじゃないでしょうか……」
流石に毎回同じパターンで行動する馬鹿な奴はいない……。しかも追われている状況で……。
この≪王様≫の側近の女もどうやらそう思った様だった。
「まあそうだな、常人なら確かにそうだろう……。だがどうだ!奴は馬鹿だ!!」
なんとも雑な理由である。
「ああ!!そうですね!!すっかり忘れてました!あの方は馬鹿ですもんね。」
だがこの女を納得させるのには十分な理由だった。男は冗談で言ったつもりだったのに……。
本人もまさか自分も知らない所で家臣と友人にこんなことを言われているとは思っていないだろう。友人はともかく自分の家臣までに言われているなんて……。本人が聞いたらびっくりするだろう。一応王様なのに……。
「いやいや冗談冗談。あいつが空を飛んで街の外に出ようとするのは、自分の国を良く見るためだ。ほんと、馬鹿に見えるのにな。ちゃんと国のことを考えてやがる」
「そうでいらっしゃったんですね」
「でもアイツには言うなよ?すぐに調子に乗るから」
そう言うと女は迷いもなく首を縦に振る。思い当たる節があったようだ。
「じゃあ、王様は空を飛んでらっしゃると仮定して、いつも通りでお願いします……」
「よしそうと決まれば≪捕獲作戦C≫でやるぞ」
「わかりました。じゃあ部下に伝えときますね。」
「頼むわ」
「はい」
彼女はそう言って生活スキル≪アナウンス≫を発動させる。
『各部隊に通達します。王様の確保は≪捕獲作戦C≫で行います。A~Dの部隊は王様の足止め。E~Iまでの部隊は街の探索。繰り返します。
王様の捕獲は≪捕獲作戦C≫で行います。A~Dの部隊は………』
一方その頃、家臣や友人に馬鹿にされている王様と言えば……………………………。
家臣たちの予想通り、空を飛んでいた……。
「は、ハクショーン!!」
彼はスキル≪隠密≫を発動させ気配を消し、≪飛翔≫を使って空を飛んでいた。
≪隠密≫は名の通り自分の気配を消すスキルだ。スキル≪飛翔≫は翼が生え、空を飛べるようになる。ちなみに≪飛翔≫を使えるのはただ一人しかいない。所謂レアスキルである。
「もしかして……城から出たのがばれたか?なら周りに気を付けて飛ばないとな………。」
彼はそう言い高度を少しだけ上げる。
「とでも言うと思ったかぁ!!もうあと少しで王国の外だ!!気付くのがあと一歩遅かったな!!」
そこでスピードを上げ一気に王国の塀を越えようとした……。のだが……。
「ごふっ!」
彼は塀を越えて王国の外側へ出ようとしたところで何かにぶつかった。
「まさかっ!!」
そして下から声が聞こえてくる。
「あ、いたっ!王様っ!もう逃がしませんよ!!まだ仕事が残ってるんですからね!」
「おいサイ、あんまり迷惑掛けんじゃねえよ。いっつもこの子困ってんだろ。」
そこには追いついてきた部下と友人の姿があった。ずいぶん早い。
「畜生!ユウまで連れて来るとは卑怯だぞ、アリス!!スキル使って変装までしたのに………。ユウもユウだぞ!なんでこんなとこで≪障壁≫なんて使うんだよ!!」
友人のユウは笑って流している。
「はいはい、文句は後で聞きますから。戻って仕事を片付けてください。国民の目に留まりますよ。」
「くぅー、散歩ぐらいさせてくれたっていいじゃないか……。散歩ぐらい……」
「仕事が終わってからしましょうね」
「うぅぅぅ」
見つかってしまったのなら仕方が無い。戻って仕事を片付けるか……。はあ。だけど散歩ぐらいなぁ……。
そう思いながらしぶしぶ城へと戻る。なんでこんな状況に……と〝この世界〟に来た時の事を振り返っていた。
◇◆◇◆◇◆
そうあの日、俺はVRMMORPG『エレンスーンオンライン』をしていて、自分のギルドのメンバーを連れてボスモンスターを狩っていた。ボスモンスターの名前は『ジークフリード』。このゲームの首都の西部に広がる魔物領を統一していて、見た目はアニメや漫画などで出てくる西洋のドラゴンそのものだ。『ジークフリード』はトップギルド群の精鋭を集めた大部隊でも勝てなかった相手だ。その当時の現時点では一番討伐が困難であろうというモンスターである。
そのモンスターに俺達は少人数、しかも、生産職が本業のやつらを2名連れて、挑んでいた。
「おいユウ、右から炎ブレス来てる!≪障壁≫でガード頼む!!」
「おうよ!任しとけ!!」
「あとエリー、回復頼んだ!!」
「わかった。『回復魔法』!!」
「ありがとう。俺が突っ込むから、あとのやつは援護してくれ!」
「「「「「了解!!!」」」」」
俺は両手に握った二本の剣を前に突き出して構え突進していく。
「うぉおおおおおおおお!!!!」
と、同時に仲間から援護の魔法が来る。
相手のボスモンスターは援護魔法により少しの間怯む。俺はその間に相手の懐に潜り込み、とどめの一撃をぶち込む。
「うりゃあ!!」
果たして相手は大音量の悲鳴を上げ、ポリゴンの粒となり霧散した。
残ったのは俺達のアイテムボックスに入っているドロップアイテムと目の前にある、オレンジ色の光が灯る≪領地保有書≫だけだ。
「「「「「「よっしゃあああああああ!!!!!!(やったあああああああ!!!!!!)」」」」」」
それが合図となり俺達は一斉に歓喜の声を上げお互いの肩を寄せ合い喜んだ。
しばらくし、システムアナウンスが響く。おそらく全てのプレイヤーが驚きを隠せなかっただろう。
俺達のギルドはこれまで表立った動きは見せてなかったからな。名も知れないギルドが≪最強にして最凶≫と謳われたモンスター『ジークフリード』を倒せるとは思ってなかっただろう……。
『グランドクエストNo.01がクリアされました。≪果てしないの大地≫はギルド≪鮮やかな翼≫の領地となります…………。繰り返します。グランドクエストNo.01がクリアされました。
≪果てしない大地≫はギルド≪鮮やかな翼≫の領地となります…………。』
「よし、じゃあみんな街に帰るかって祝勝会でもあげるか」
地面に転がる≪領地保有書≫を拾い上げる。それをアイテムボックスに仕舞い終えてから、俺が仲間にそう告げる。だがその時、事件は起きた。
「へ?」
自分達がいた地面がいきなりぽっかりとした穴になった。
底は見えない。俺達はそのまま落下した。
「「「「「「うわあああああああああ!!!(きゃあああああああああ!!!)」」」」」」
俺達は地面に叩き付けられ、痛みがあることに気が付いた。
いろいろ試してみたが、ステータスウィンドウは開けるし、アイテムボックスも出せる。アイテムボックスに入っているアイテムは、さっきまでやっていた〝エレンスーン〟の物が入っていたし、ステータスもさっきと変わらない。
だが、みんなで街に戻ってそこら辺に居る人に話しかけても、ゲームのNPCっぽく無かったのである。会話が固定されてなかったり、いろんな所へ移動しまくっていた。NPCはプレイヤーが使えなかった、種族もいっぱいいてそりゃあもう驚いたよ。
この事から俺達が今居る世界は、VRMMORPG『エレンスーンオンライン』に酷似した世界、異世界〝エレンスーン〟だと推測した。しかも街の人達との会話から俺達がゲームとしてやっていた時より50年ほど経っていた。通りで無かった店がポツポツある訳だ……。
俺達のギルドメンバーは現実よりもこちらの世界が好きなゲーマー連中だったので、この状況を理解し納得した。
ちなみに俺は納得できていなかった。あいつらの方が異常なのだ。常人なら戸惑い落ち込むに違いない。もちろんログアウトボタンなんてものは存在しないのだから………。まったく……我がギルメンながらなんというゲーマーっぷりだ……。中には「これで24時間ずっと潜っていられるね!」なんて喜んでいるやつもいたしな…。ここまで来たらもうゲーマーって言うのも一種の勲章だよな。いやゲーマーって言うよりVR中毒か……。よく今まで潜り過ぎで餓死しなかったものだ……。まあ、その分現実が忙しかった……という事なんだろう。よし俺もみんなを見習って状況を受け入れるしかないか。
◇◆◇◆◇◆
そんな事もありながら、この世界に来てから、約2年が経った。
俺は元の世界に戻る為の情報を集めようと、こっそりと街を出たんだが、(異世界から来たという事は一切話してないので、表向きの理由は散歩)見つかってしまい城に連れ戻された。本当に何でだろう……。俺は2年前までただの大学生だったというのに、何故こんなとこで王様なんてやってんだろう………。俺、ユウ以外のギルメンはみんな街の外の世界を回っているというのに……。畜生、俺も冒険とかしてみたい……。まじで何で王様なんか……。
「はあ………」
「ほら王様、溜息なんてしてないで、ちゃっちゃと仕事して下さい。」
こいつの名前はアリス。ここの世界の元からの住人で俺の秘書兼傍付きをしている。見たとこ年は俺と同じぐらい。しっかり者でちょっと厳しい所がある。怒ると怖いので逆らうのは吉ではない。そんなもんしたら後でどうなるかが怖い。これはこの2年で学んだことだ。一回酷い目にあったからな………。
「今日はどんな仕事?」
「……はあ。それぐらい把握しといて下さいよ」
「はは…、ごめんごめん」
笑って誤魔化す。
「しょうがないですね……。今日は書類にハンコを押していくだけでいいです。さっき全部目を通しておきましたので」
「ああ、ありがとう。んじゃあ始めますか。」
黙々と書類の山を片付けていく。
「なあ、アリス」
「なんでしょうか」
「なんでさ、俺は国なんか立ち上げたんだっけ?」
「もうこの質問何回目ですか?毎日のように聞いてますよ。もう、まったく王様は……。」
そう、俺は毎日の様にこの質問を繰り返している。なぜなら話に出てくる場面をまったく思い出せないのである。ギルメン曰く俺はその時この世界に来た直後で「二日酔いに怯える必要はねえ!!」と、言って酒を浴びるように飲み酔った時に起こったらしい。なら記憶に無いのは当たり前だ。だからこうやって何度も質問している。
しょうがないですね……、と言わんばかりの顔でアリスが話し始める。
「それはですね……」
あの時俺はギルメンとともに朝まで飲み続けていたそうだ。この世界に来た時のショックで、そりゃあもうこれでもか、言わんばかりに飲んだ。そして俺はおもむろにアイテムボックスから例のオレンジ色に光る≪領地保有書≫を「ちゃらちゃちゃっちゃちゃ~♪」と口ずさみながら取り出し、こう言ったそうな。
『この世界には日本のような和風な国は存在しない!!和風こそ正義!!』
『『『『『そうだそうだ!!』』』』』
『だから俺は和風な国を作る!!というわけで俺達の領地を使って国にする!!』
『『『『『え?』』』』』
それで≪領地保有書≫を使ってこの≪ヒノクニ≫を作ったらしい。話の仕方が他人事なんだが仕方ない。覚えてないから……。
そんなこんなで今に至るそうだ。
いやー、あの時はびびった。気が付いたら自分が職人スキル≪大工≫の≪築城≫を使って作った城の中に居て、窓を開けたら街ができていたんだから。あとで聞いてびっくりした。城だけじゃなく街自体を『うっしゃあ!街つくるぞ!!』って言ってギルメンだけで作ったらしいから。
うん、酒は恐ろしい……。自分がおかしくなる。
初めてこの話を聞いたときには、金輪際意識が無くなるほど酒は飲まないと誓ったよ………。
そんな話を聞いている間も、手を絶え間なく動かし続けていたので、手元の書類は全てハンコを押し終えていた。
「アリス、終わったけど次は?」
「次は?って……。まったく。まあ、さっきのがわかってなかった時点で聞かれるとは思っていましたが……。他人のスケジュールを把握しろとは言いません。自分のスケジュールぐらい把握しといて下さい。はあ………。それだから王様は王様としての自覚が足りないと言われるんです。もっと…………………。」
いかん、アリスが説教モードに入ってしまった。ヤバイ……。汗が出てくる……。
「ちょっと王様。聞いているんですか?」
「ひゃ、ひゃい。き、聞いてます!」
危ない危ない。もう少しで聞いてないところを気付かれるところだった。
「わかりましたか!」
あ、どうやら説教も終わったようだ。
「わかりました。以後気を付けます」
そう俺が返答すると、少し納得したようだ。
「王様、次は冒険者ギルドから、ぜひ王様をお越しいただいて欲しいとのことで」
え、普通こっちが王様だったら向こうから来るよね。
なんてのは冗談。これも一つの政策で、俺、王様が直接出向いて相談を受けて、問題解決?みたいな。出向いて支持とか上げとかないとな……。
だって反乱とか起こったら面倒くさいし。そん所そこ等のやつには劣らないけど。
それにしても冒険者ギルドって物凄いファンタジーっぽい。でも聞いたこと無いな。
「冒険者ギルド?そんなもんあったっけ?」
「ありますよ。丁度40年前ですかね?それぐらいからできたんですよ。あれ、王様、冒険者ギルドの出身じゃなかったんですか?私はそうだと思っていたのですが……。」
ああ、40年前って言ったら、俺達が居ない空白の50年間の中じゃないか。通りで知らないわけだ。
「いや、俺は冒険者ギルドには属してなかったな。俺は冒険者ギルドじゃないけどギルド立ち上げて色んなとこ冒険したなあ。あ、その仲間ってのがユウとかだよ。」
「え!?ちょっと待ってください!!ギルドが創設できる制度は冒険者ギルドができてから1年後に撤廃されましたよ!?王様は何歳なんですか!?それにこの領地が手に入れられるくらいのレベルを王様達は持ってらっしゃるんですから、そんな人達が集うギルドなら今頃少し変化して何かのギルドとなって残ってるんじゃないんですか!?」
「え、いや」
「それに前々から気になってたのですが、ここは元は≪果てしない大地≫ですよね!?ってことはあの≪最強にして最凶≫と謳われた『ジークフリード』を倒したってことですよね!?あれは童話に出てくるぐらい有名なモンスターですよ!!」
まずい………。どうやらおかしいことだったらしい。
まだ≪最強にして最凶≫って呼ばれてたんだな、『ジークフリード』……。可哀想に。
それにしてもだ……。どうにか誤魔化すしかない。
「あ、いやえっと……。冒険者ギルドから帰って来たら…ね?」
「む……。仕方ないですね……。帰って来たら話してもらいますよ」
「う、うん」
どうやら今は助かったようだ。少し伸びただけだけど。まあ後々話そうと思ってたし、いい機会かな。
「出掛ける支度をしてください」
「あ、ああ」
そう答えながら俺は魔法スキル≪変装≫を使い、出掛ける支度をした。
こうするのには理由がある。
一つは一人で出かけるのが多いため。二つ目は個人的な理由。遊びで出てんのに王様ってことがばれたらみんな堅苦しくなるじゃん。それがいやなんだよ……。それらの理由から俺は仕事で出かける時や、公衆の面前に顔を出すときは、(演説や政策発表の時など)必ず≪変装≫を使っている。
「支度は終わりましたか?」
「ああ」
どうやらアリスも出掛ける支度ができたようだ。
「じゃあ、行きますよ。王様」
「よし、行くか」
こうして少し俺達は、冒険者ギルドへと向かった。
まだ少しアリスが不機嫌そうだけど……!!ひぃ!!怖い!!