06 - 割り箸
俺は思った。
割り箸を唇と鼻の間に保持したまま一日過ごせたらすごいんじゃないかと。
思い立ったが吉日。
早速チャレンジしてみるがまず唇の上にうまく乗らない。
乗せようとしてもすぐにぽろりと落ちてしまう。
何度か試行錯誤しているうちに唇を突き出せば足場ができ、
そこに割り箸を乗せられることに気づいた。
この発明は俺という人類史において大いなる一歩となった。
しかしこれで未来も安泰かと思われた矢先、
俺は思わぬ障壁にその野望を阻まれてしまう。
アゴが痛い。
アゴというかアゴを覆う筋肉が痛い。
普段こんな所を使わないからか、1分もすれば限界を感じてくる。
ああ、今日生まれたばかりの俺のささやかな夢は、
たったこれだけで終わってしまうような、儚い夢でしかなかったのか。
…いや、こんなことで諦めてはいけない。
俺には既に、俺を応援してくれている何千もの人々が見えていた。
音が徐々に開けていくような、ワァッと湧き上がる歓声が聞こえてくる。
皆がこちらを見て手を振ってくれている。
あちこちから張り裂けんばかりの声援も聞こえてくる。
故郷のあいつらも固唾をのんで見守ってくれている。
皆が…皆が俺を励ましてくれていた。
そうだ。俺はこんな所でくじけてはいけないんだ。
俺は闘志を燃やし、再び唇と鼻で割り箸をはさんだ。
ああ、じわじわとアゴが痛くなってくる…アゴが…アゴが…
――苦しみのさなか、天使と悪魔のささやきが聞こえてきた。
「ほら、慣れてきたんじゃない? なんとかできそうだよ。がんばれ!」
「テープか何かでくっつけちゃいなよ」
「ダメだって、それじゃ本人の実力じゃなくなっちゃうよ!」
「ていうかさ、一つ言っていい?」
「いいけど何? 今せっかく調子良くなってきた所なんだから」
「…そもそもこれ何やってんの?」
「…え。あ、ちょっ…そんなこと言ったら……」
…
……
………あれ…俺、何してるんだろう…
スッと現実に体が戻ってきた。
頭の中があれだけ熱気と歓声でうるさかったせいか、
俺の部屋が静か過ぎて、空気が急にひんやりとし始めたようにすら感じる。
俺の目の前には熱湯を注いでからしばらく経ったカップ麺が一つ置いてあった。
そうだ、コンビニでつけてもらった割り箸を見ていたらいつの間にか…
俺はカップ麺の蓋をペリペリと開けると、割り箸を手に持って綺麗にパキンと割り、
のびていっぱいになってしまった麺をずるずると食べた。
あー、ずいぶん柔らかくなっちまった。まぁ増えたと思えばいいか。
ふー。いや、危なかったぜ。
もうちょいで変なやつになるところだったわ。
まったく…仕方がない。今回は大目に見てやるか。
百歩譲って引き分け…いや俺の勝ちってところかな。




