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第4話 魔王、社内プレゼンで召喚される

月曜の朝。

 黒田のデスクに、ひときわ不穏なオーラを放つ紙が置かれていた。

 > 『営業部 第2チーム 週次プレゼン資料作成』

「……プレゼン?」

 黒田はその言葉を呟く。

 魔界での経験を総動員しても、その語は出てこなかった。

「黒田さん、プレゼンってわかります?」と、ミナミ。

「“プレ”は前兆、“ゼン”は禅。つまり悟りの儀式か?」

「ちがいます! 営業報告の会議です!」

「会議……つまり、戦の号令か」

「まぁ……そう言えなくもないですね」

 黒田の目がわずかに光った。

「なるほど。つまり、言葉で人々を動かす戦場……“言霊の戦”か」

「かっこよく言いましたけど、たぶん違います!」

 ミナミはPCを開き、スライドを見せた。

「これが“パワポ”です。資料を作るソフトですよ」

「パワポ……パワーと……ポーションの略か?」

「そんな中二ネーミングじゃないです!」

「ふむ……幻影魔法のようだな」

「ちがいますって!」

 ミナミが笑いながら操作してみせる。

「こうやって、見やすくまとめるんです。デザインも大事ですよ」

「む、つまり“見せ方”が戦術の要ということか」

「そうそう、そういうことです!」

 黒田は深く頷いた。

 (……“見せ方”。魔界にはなかった概念だ)

 翌日。

 営業部の定例会議。

 スーツの群れが並ぶ中、黒田は静かに立ち上がった。

「では……黒田くん、発表をどうぞ」

 上司の声にうなずき、黒田が前へ。

 背後のプロジェクターが光を放つ。

 そこに映し出されたスライド――

 タイトルは、なぜか**「戦略報告書・第二章 人間界の市場を征服する」**。

 ミナミ(やばい、止めなきゃ……!)

「まず……“敵情視察”より報告する」

 そう言って、黒田は堂々と語り始めた。

 内容は驚くほどロジカルだった。

 競合分析、顧客心理、営業導線――

 専門書を引用しながら、分かりやすく整理されている。

 だが問題は、その言葉選びだった。

「この顧客層は潜在的な魔力を秘めている。攻略の余地あり」

「我々の新戦略、“共感の呪文”を活用すれば、支配率は上がる」

 会議室が静まり返る。

 空気を読んだミナミが、慌ててフォローに入る。

「えっと……つまり、“顧客の共感を大切にした営業方針”ってことですね!」

「そう、それだ」

「フォローしきれないです!」

 しかし――黒田の声は、どんどん熱を帯びていった。

「この戦、我らが勝利するために必要なのは“誇り”だ。

 数字だけを追うのではなく、我らが胸に掲げる理念を燃やすこと――それが、人間界の“信念経営”だ!」

 社員たちが思わず聞き入る。

 誰も笑っていなかった。

 むしろ、妙な説得力に満ちていた。

 ミナミは隣で小さく呟く。

 (……この人、ほんとに何者?)

 発表が終わると、上司が拍手した。

「黒田くん……すごいね。なんというか……熱い!」

「ふむ、炎は人の心を照らす」

「……なんか名言っぽいな!」

 その場は拍手に包まれた。

 黒田は一礼して席に戻る。

 ミナミがそっと囁いた。

「……かっこよかったですよ」

「む、戦の成果は十分か?」

「はい。でも、最後の“支配率”のくだりはアウトです」

「ふむ、言葉選び、要修正だな」

「そういう反省の仕方ある?」

 二人は小さく笑い合った。

 会議後。

 ミナミが黒田の資料を見ながら言った。

「でも、ほんとにすごかったです。

 数字も整理されてるし、話に引き込まれました」

「……昔、似たような戦があった。

 千の軍勢をまとめ、世界を導いた。

 だが今は――」

 黒田は少し遠くを見るように微笑んだ。

「今は、この小さな戦場で……隣に味方がいれば、それでいい」

 ミナミはその横顔に、黙ってしまった。


 その日の夕方。

 黒田の机には、いつもの戦況メモが。

 > 『第三日報:会議戦、勝利。

 > 観衆、熱狂。

 > ミナミ殿、士気高揚。

 > 今後も同盟関係を強化予定。』

 それを見たミナミは、思わず吹き出した。

「同盟関係て……」

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