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第3話 魔王、社内飲み会に挑む

 週末の夜。

 会社近くの居酒屋「炎舞えんぶ」の前で、ミナミがスマホを見ながらつぶやく。


「はぁ……今日、歓迎会かぁ。黒田さん、大丈夫かな。お酒、飲めるのかな」


 その背後から、低い声が落ちた。


「ミナミ殿、これが“宴”の場か」


「うわっ!? びっくりした!」


 黒田はいつも通りスーツ姿。

 だがその表情は、戦地に赴く将のように険しい。


「黒田さん、そんな顔で入ったら、店員さん逃げますよ」

「む、そうか。では……これでどうだ」


 真顔のまま、口角だけをわずかに上げた。


「……それ、笑ってるつもりです?」

「うむ、最高の“微笑”だが?」

「ホラー映画のラスボスみたいです」



 店内はすでに賑やかだった。

 上司が手を振る。


「黒田くーん! こっちこっち!」

「む、敵将の誘い……受けて立つ」

「敵じゃないです! 味方です!!」


 黒田は席に着くと、メニューを凝視した。


「“枝豆”“唐揚げ”“ポテトフライ”……呪文のようだ」

「普通の居酒屋メニューです!」



 店員が注文を取りに来る。

 ミナミが助け舟を出した。


「黒田さん、とりあえずビールでいいですか?」

「“とりあえず”とは何だ? 飲み物を選ぶ儀式に即興など……」

「もう! 深く考えすぎです!」


 乾杯の音頭が響く。


「では、黒田さんの入社を祝って――かんぱーい!」


 ジョッキがぶつかる。

 黒田は黄金の液体を凝視し、静かに口をつけた。


「……ぬうっ!? 苦い……だが、体の奥が熱い」

「だから、我慢しないでって言いましたよ!」


 黒田はグラスを置き、真剣な表情で言った。


「ミナミ殿、これは……闇属性の薬か?」

「違います!!」



 ミナミは苦笑しながら、焼き鳥を差し出した。


「ほら、これ。タレ味、美味しいですよ」

「タレ……魔界で言えば“竜の胆汁”に似ている」

「そんなの似てないです!」


 黒田が一口食べて目を細める。


「……うむ。人間界の肉も悪くない」

「“も”って言いましたよね!? どんなの食べてきたんですか!」

「……話すと長くなる」

「怖いから短くていいです!」


 ミナミが笑う。

 黒田は少しだけ目を逸らした。


「……笑顔、似合うな」

「えっ?」

「いや、何でもない」



 しばらくして、上司が話を振った。


「黒田くん、将来どんな目標持ってる?」


 黒田はグラスを置き、ゆっくりと答える。


「この会社を――支配します」


 沈黙。


 次の瞬間、爆笑が巻き起こった。


「はははっ、黒田くん最高~!」

「言うねぇ、支配者宣言!」


 ミナミは慌てて耳打ちする。


「“支配”とか言わないでください! 怖いですって!」

「だが、真実だ」

「もっと無難な言い方を! “成長したい”とか!」

「ふむ……“統治しながら成長する”ではどうだ」

「混ぜないでください!!」



 帰り道。

 二人並んで歩く夜の街。


「黒田さん、みんなにけっこうウケてましたね」

「うむ。笑いは敵意を鎮める……人間界、奥が深い」

「それ、学ぶ方向ちょっと違いますよ」


 信号待ちの間、ミナミがふと横顔を見上げる。


「でも黒田さん、なんだか楽しそうでしたね」

「……久方ぶりだ。誰かと、こうして笑うのは」


 その言葉に、ミナミは少しだけ黙ってから笑った。


「……それ、今のセリフ、ずるいですよ」

「なぜだ?」

「なんか、ちょっとカッコいいじゃないですか」


 黒田は照れたように目を逸らした。


「む、照明が眩しいだけだ」

「はいはい、そういうことにしておきます」



 翌朝。

 ミナミの机に一枚のメモが置かれていた。


『第二日報:戦後報告。

味方:多数獲得。

敵意:皆無。

ミナミ殿の笑顔、戦意高揚効果あり。』


 「……何それ、レポート?」

 思わず吹き出すミナミ。


「……ほんと、変な人」


 けれどその笑みは、どこか嬉しそうだった。

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