第16話 AI、黒田の思考に追いつけない
「黒田さん、ちょっといいですか?」
昼休みの終わり際、ミナミが黒田のデスクにやってきた。
黒田はノートPCから顔を上げる。
「どうした」
「実は……またAIの相談なんです」
ミナミは少し困った顔をしている。
最近、社内ではAI活用がブームになりつつあった。
きっかけは、黒田とAIが共作したプレゼンが社内コンペで優勝したことだ。
それ以来、営業部でも
・企画書作成
・顧客分析
・資料の下書き
などにAIを使う人が増えていた。
しかし――
「AIが……なんか、変なんです」
ミナミはそう言った。
■ AIの出した“謎の戦略”
黒田はミナミのモニターを覗き込んだ。
画面にはAIとのチャットログが表示されている。
ミナミが入力したプロンプトはこうだった。
「地方の老舗和菓子店の売上を伸ばすマーケティング戦略を考えてください」
AIの回答は、一見まともに見える。
・SNS活用
・ECサイト構築
・インフルエンサー施策
よくあるマーケティング提案だ。
だが、途中からおかしくなっていた。
「地域コミュニティを“王国”のように構築し、熱狂的ファンを育成する」
「顧客を“騎士団”として組織化しブランドを守る」
「他店との差別化のため、象徴的なストーリーを創造する」
「……なんだこれ」
ミナミが首を傾げる。
「なんか途中からRPGみたいになってて……」
「確かに」
黒田は画面を見つめる。
(……いや)
(これは)
(かなり正しい)
■ 黒田の違和感
「ミナミ」
「はい?」
「この戦略、悪くない」
「えっ」
ミナミは目を丸くした。
「でも、王国とか騎士団とか言ってますよ!?」
「言葉が極端なだけだ」
黒田は静かに言った。
「ブランドとは、信仰に近い」
「し、信仰……?」
「顧客が“守りたい存在”になると、強い」
ミナミは腕を組んだ。
「うーん……」
「つまり」
黒田は画面を指差す。
「これは“コミュニティ戦略”だ」
■ 黒田、魔王視点で解説する
黒田はキーボードを叩きながら説明した。
「人は物ではなく“物語”を買う」
「たとえば?」
「和菓子を売るのではない」
黒田は続ける。
「“この店を守る仲間になる”という体験を売る」
ミナミはゆっくり理解し始めた。
「ファンコミュニティってことですか?」
「そうだ」
黒田はうなずく。
「ブランドは軍隊に似ている」
「軍隊!?」
「熱狂する兵士が多いほど強い」
(魔王軍と同じ構造だ)
とは言わなかった。
■ AIが学習したもの
ミナミがぽつりと言う。
「でも……なんでAIこんなこと言い出したんでしょう」
黒田は少し考えた。
そして、ある可能性に気づく。
「……私のプロンプトの影響かもしれん」
「え?」
黒田は以前、AIに戦略相談をしていた。
そのとき入力したプロンプトは――
「敵対勢力に勝つための長期支配戦略」
「組織を統治する方法」
「忠誠心の高い組織の作り方」
「……黒田さん」
ミナミがじっと見ている。
「なんでそんな質問してるんですか?」
「営業戦略の研究だ」
黒田は即答した。
嘘ではない。
魔王時代の経験は営業にも応用できる。
■ AI、黒田の思考を模倣する
ミナミはAIに追加質問を入力した。
「もっと具体的な施策を教えてください」
AIの回答。
「まず“和菓子騎士団”のようなコミュニティを作る」
「常連客に称号を与える」
「イベントで物語を共有する」
ミナミは吹き出した。
「和菓子騎士団ってなんですか!」
黒田は腕を組む。
(だが……)
(やれなくはない)
「ミナミ」
「はい?」
「これ、やる価値はある」
「ええ!?」
「ネーミングは変えるがな」
■ 企画、完成
黒田はホワイトボードに書き始めた。
和菓子コミュニティ戦略
常連客限定イベント
新商品投票制度
店の物語発信
ミナミの目が輝く。
「これ……面白いかも!」
黒田はふと画面のAIを見た。
(人間の思考を模倣する……)
(この存在、なかなか侮れん)
すると、ミナミが笑った。
「でも黒田さん」
「なんだ」
「AIが黒田さんに似てきてますよ」
「……そうか?」
「はい」
ミナミは言う。
「なんか、戦略がちょっと怖いです」
黒田は少しだけ苦笑した。
(それはそうだ)
(元魔王の思考だからな)
もちろん、そのことは。
ミナミはまだ知らない。
多分




