第15話 黒田、社内BBQで魔力を隠しきれない!
社内BBQ大会――営業部の毎年恒例行事だ。
郊外の河川敷で自然を感じながら親睦を深める……という名目だが、実際はカオスと化すことが多い。大量の肉、炭火、飲み放題。騒がしい社員たち。
そして今年、黒田には一つの懸念があった。
(火……煙……熱気……。魔力が刺激される条件が揃いすぎている……)
元魔王として、火に対して反応しやすい体質(?)がある。
できれば野菜だけ食べて静かに帰りたいところだ。
そんな淡い願望は、集合場所に着いた瞬間、吹き飛んだ。
「黒田さーん!! こっちですよー!」
ミナミが満面の笑顔で手を振っている。
イベントとなれば、彼女はとにかくテンションが高い。
「おはようございます、ミナミ」
「今日は黒田さん、大活躍してもらいますからね!」
「……活躍?」
「はい! 火起こし担当でーす!!」
黒田は固まった。
(なぜよりによって一番危険な役を……!)
しかし周囲の期待の眼差しが逃げ道を塞ぐ。
(断れん……!)
こうして黒田は火起こし場に立たされた。
■ 火起こし、黒田の危機
炭は湿っており、どの班も苦戦している。
ミナミは期待の光を瞳に宿しながら言った。
「黒田さん、お願いします!」
(落ち着け……普通に火をつけるだけだ……)
黒田は新聞紙に火をつけ、炭に近づける。
炎が黒田の指先に触れた瞬間、魔力が揺らぐ。
(やめろ……従うな……!)
黒田がうちわをそっと動かす。
その瞬間――
――ボウッ!!!
大きな炎が一気に立ち上がった。
「わっ!?」「すげえ!!」
「黒田さんプロじゃん!」
黒田は心の中で叫んだ。
(プロじゃない! 魔力だ!)
しかし外面はあくまで冷静。
「風の流れを読んだだけだ」
「黒田さん、火の達人なんですか!?」
「違う」
即答した。
■ 肉焼き担当へ
火を起こした途端、次の役が回ってきた。
「黒田さん、はい! 焼き担当でーす!」
ミナミがトングを渡してくる。
「私は火起こしを――」
「黒田さんなら焼いたほうが美味しいです!」
(論理が破綻している……)
とはいえ、断れず鉄板前へ。
ジュウジュウと油が弾け、煙が立ちのぼる。
魔力が再び刺激され、黒田は内心で警戒した。
(落ち着け……これは肉だ……炎ではない……)
肉をひっくり返した瞬間――
焼き加減が完璧すぎて、若手社員の歓声が上がった。
「黒田さん……料理人?」
「天才かよ……!」
ミナミまで目を輝かせている。
「黒田さん! 最高の焼き加減です!」
「……トングに慣れているだけだ」
「どんな仕事してたんですか!?」
(魔界で武器の査定をしていたとは言えん……)
■ 肉が宙を舞う事件
混雑してくると、事故は起きる。
「黒田さーん! 焼きそばお願いしまーす!」
走ってきた後輩が黒田にぶつかり、
鉄板上のステーキが――
宙に飛んだ。
「うわっ!」
「黒田さん!!」
周囲の視線が集まる。
(落ちたら終わりだ……!)
魔力が反射的に走る。
だが、ここで使えばバレる。
ミナミに怪しまれる。
(人間の“限界ギリギリ”の速度で……!)
黒田は絶妙なスピードで手を伸ばし――
キャッチ。
「「おおおおお!!!」」
「黒田さん! 今日どうしたんですか!?」
「……日頃の鍛錬だ」
「どんな鍛錬なんですか!!」
(言えるわけないだろう……)
■ 焼きそば粉末、空を舞う
ミナミが焼きそばの袋を持ってきたとき――
バサッ。
風で粉末ソースが舞い上がった。
「あっ!」
ミナミの叫び。
(鉄板に落ちれば焦げつき地獄……!)
黒田は再び反射で動き、
袋ごとキャッチ。
「まただぁーー!!」
「黒田さん、今日反射神経どうなってるんですか!」
「風の流れだ」
「仙人かなにかですか!?」
(魔王だ……)
言えるわけがない。
■ 炎上事件
終盤。
油がたまりすぎた鉄板が突然――
――ゴォッ!!
と炎を上げた。
「わっ!」
「危ない!!」
ミナミが飛び退く。
黒田は迷う。
魔力なら一瞬で消せる。
だがミナミが見ている。
(人間の動きで、魔力を使わずに……!)
黒田は鉄板のフタをつかみ、炎へ踏み込む。
「黒田さん危ない!!」
ミナミの声を背に、
黒田は炎を覆うようにフタを押し込んだ。
――ボッ……シュウゥ……
炎が収束。
「すげぇ……」
「黒田さん……かっこよ……」
ミナミは目を丸くしている。
「黒田さん、なんでそんな落ち着いてるんですか……?」
「火は、焦るほうが危険だ」
「安心感すごいです……!」
黒田は少しだけ照れた。
■ 帰り道にて
BBQが終わり、帰り道。
夕暮れの河川敷を、黒田とミナミが並んで歩く。
「黒田さん、今日ほんとすごかったです」
「そうか?」
「はい! 火起こし、肉の焼き加減、炎の収束……全部“黒田さんらしい”って感じでした!」
(私は“らしい”生物ではない……)
「でも……」
ミナミは歩調をゆるめた。
「黒田さん、時々……人間味がないくらい冷静ですよね」
「……」
「そこが、めっちゃ頼りになるんですけどね!」
ミナミはニッと笑った。
黒田は胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。
(バレなくて……本当によかった)
夕暮れの風が涼しく吹き抜けた。




