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第14話「黒田、免許更新センターで魔王の威圧がバレかける」

「黒田、免許更新センターで魔王の威圧がバレかける」**

土曜日の朝。

黒田は、なぜかミナミと並んで駅前に立っていた。

「黒田さん、ほんとに一人で行けたんですか? 免許更新。」

「行けるに決まっているだろう。私は運転も得意だ。」

「この前、バック駐車で5回切り返してましたよね。」

「……あれは車が後ろに下がりたくないと言っていたのだ。」

「車と会話しないでくださいよ」

そんなやり取りを経て、二人は免許センターに到着した。

入口には、すでに長蛇の列。

黒田は眉間に皺を寄せた。

「む……この混雑、人間界の“試練の塔”か?」

「普通の更新です。ただの土曜だから混んでるだけですよ。」

受付を済ませ、視力検査コーナーへ向かうと——

白衣の看護スタッフが明るく声をかけてきた。

「次の方、どうぞ〜!」

ぱっと見で人あたりの良さがわかる笑顔だ。

が、なぜか黒田を見た瞬間、彼女は首を傾げた。

「……あれ? なんか、強そうですね?」

「強くない。」

「なんかね、オーラが……武将? いや、殿様?」

「もっと違う。」

ミナミが横で口を押さえて笑う。

「黒田さん、人の気を吸ってるみたいって言われてません?」

「失礼な。私はもう吸わん。普通に生きている。」

「“もう”って言いました? やっぱり昔、吸ってたんです?」

「言葉の綾だ。」

看護スタッフが不思議そうにしつつ、視力検査の器械を指さした。

「では、あの機械を覗いてください〜」

黒田が指示通り覗き込む。

「見えますかー?

上、下、右、左……」

「ふむ。すべて“蛇尾下がり”の方向だな。」

「……え?」

「魔界での方角の言い方だ。忘れてくれ。」

ミナミはすかさず小声で突っ込む。

「黒田さん、方角のクセがすごいです。」

視力は両目とも問題なし。

次の工程へ進む途中、ミナミがひそひそと訊ねる。

「そういえば黒田さんって、写真撮られるの苦手そうですよね。」

「なぜそう思う。」

「だって、いつも影が濃いじゃないですか。オーラが飛び出してるというか。」

「……確かに、稀にカメラが曇る。」

「曇らせないでください。」

写真撮影コーナーに到着。

黒田が席に座ると、カメラ係の女性がにこやかに言う。

「はい、リラックスしてくださいねー。自然な笑顔で!」

笑顔。

それは魔王時代、一度も必要のなかった技術。

黒田はぎこちない顔で口角を上げる。

ピッ。

係の女性「……すみません、もう一度撮りますね」

ミナミ(後ろから)「黒田さん、それ絶対“敵に微笑む魔王”の顔ですよ」

黒田「笑ったつもりだが」

「目が笑ってないどころか、威嚇してました。虎みたいでした。」

「虎ではない。」

二度目の撮影。

黒田は努力して柔らかく微笑んだ。

ピッ。

係の女性「……ごめんなさい! もう一度お願いできますか!」

黒田「今度は何だ」

「なんか……後ろに影が写ってて……。おかしいなぁ……?」

ミナミ「黒田さん、霊気出てます?」

「出してない。出すつもりもない。」

「じゃあもう一回、力抜いていきましょう!」

三度目のチャレンジ。

黒田は深く息を吸い、心の中でつぶやいた。

(……我が威光よ、静まれ)

ピッ。

係の女性「……今のは良いと思います!」

ミナミ「おお! やっと普通の人間だ!」

黒田「貴様……最初からそう言え」

その後、講習の教室に移動した二人。

黒田が席に座ると、周囲の受講者たちがなぜかソワソワし始めた。

「ねえなんか、あの人オーラあるよな……」

「圧がすごい……」

ミナミは前から振り返って小声で注意した。

「黒田さん、講習中は静かにしてくださいね。席に座ってるだけで圧ありますから。」

「私は何もしていない。」

「その“存在感の圧”が問題なんです。」

講習が始まる。

講師のおじさんが前で安全運転の映像を再生しながら説明している。

だが、黒田の隣の男性は講習どころではなかった。

「あの……すみません……」

「なんだ?」

「隣から……視線の重さが……」

「見ていない。」

「じゃあなんで背中が冷えるんだ……!」

ミナミが前席から振り返って注意した。

「黒田さん、怖がらせちゃダメですよ!」

「私はただ座っているだけだ。」

「それが十分なんです!」

講習が終了すると、

黒田のところだけ受講シールの貼られ方がやけに震えていた。

講師が緊張していたらしい。

出口に向かう途中、ミナミが笑いながら言った。

「黒田さん、今日だけで10人くらい“気圧に負けそう”って顔してましたよ。」

「私は悪くない。」

「悪気はなくても、存在で圧があるんですよねー。魔王……じゃなくて、黒田さんだから。」

「今、“魔王”と言いかけたな?」

「言ってません。たぶん。」

免許センターを後にすると、ミナミが首を傾げた。

「でも黒田さんって、なんであんなに写真でうまく映らないんです?」

「カメラに魂を吸われそうでな。」

「それ昭和の人の迷信ですから!」

「……違う意味だ。」

「違う意味!? えっ何それ、おもしろいからもっと聞かせて!」

「聞かせない。」

ミナミは少し不満そうにしつつも、どこか楽しげだった。

「まあ、無事に更新できてよかったですね。

次は……3年後?」

「その頃には、写真技術ももっと進んでいるだろうな。」

「黒田さんが機械に勝てるかどうかですね。」

「勝負をするつもりはない。」

「じゃあ、撮影練習しておきます?」

「……必要かもしれんな。」

ミナミは笑いながら言った。

「黒田さん、ほんとに普通の会社員なんですかね?」

黒田は、空を見上げて小さく呟いた。

(バレてはいない……はずだ)

そして今日もまた、

元魔王は日常の試練を乗り越えていくのだった。

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