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第13話「表彰式の夜に――ミナミ、黒田の“弱点”を見つける」

営業部がプレゼン大会で優勝してから数日後。

社内は浮き足立ち、ついに本日の夜――

「プレゼン大会・優勝表彰式」が開催されることになった。

「黒田さん、スーツのネクタイ曲がってますよ」

ミナミが、ひょいっと手を伸ばしてネクタイを直した。

黒田は少し身を固くした。

「……触るな。急に近づくな。」

「なんですか、そんな警戒モードで。動くと余計曲がりますよ?」

ミナミがさらに一歩近づく。

黒田は思わず一歩後ずさった。

「……その……近い。」

「え、黒田さんって、人との距離感苦手なんです?」

「……そういうわけでは……」

(部下が触れるなど、魔王時代にはあり得なかったのだ……!

 幹部ですら十歩手前から跪いたものを……)

そんな内心を悟られるわけにはいかない。

「ともかく、もういい。行くぞ。」

黒田はぎこちない動きで会場へ向かった。

■表彰式の会場で、黒田の“異変”が始まる

会場に入った瞬間、黒田はその場で固まった。

――人、人、人。

飲み物を片手に喋る者、笑い合う者。

密度の高い人混みが、壁のように広がっている。

黒田の眉間に、わずかに皺が寄った。

ミナミ「黒田さん? どうしました? 顔が“魔”って書いてますよ?」

黒田「……別に、何も問題はない。」

(な、なぜだ……!

 胸がざわつく……圧倒的な……居心地の悪さ!?

 これは……魔力が弱まっているのか!?

 いや、人間が多すぎるだけだ……!

 現代の宴とは……なんと狭い空間に詰め込むのだ……!)

ミナミ「黒田さん、人混みダメなんですか?」

黒田「断じて違う。」

「じゃあ、どうして入口で急に石像みたいになったんです?」

「…………。」

言い返せない。

そこへ、総務の社員が近づいてきた。

「黒田さん! おめでとうございます! ささ、こちらで飲み物を!」

黒田は差し出された皿を受け取り…

……受け取るはずが、その瞬間――

皿の上のサンドイッチが落ちた。

「おっと!」

黒田は反射的に手を伸ばし、

高速でサンドイッチをキャッチした。

ミナミ「動き速っ!? 猫ですか!? いや黒田さんって猫っぽいとこありますよね!」

「違う。」

総務「す、すごい反射神経ですね……!」

黒田「……今のは偶然だ。」

(しまった……

 完全に魔王時代の身体能力が出てしまった……!)

ミナミ「黒田さん、やっぱり猫ですか?」

「猫扱いするな。」

■料理の列で、黒田が崩壊する

ビュッフェ形式の長い列に並ぶ黒田とミナミ。

しかし黒田の表情はずっと硬い。

ミナミ「黒田さん、後ろの人と肩ぶつかっても大丈夫ですよ?

 なんかビビってるように見えるんですけど」

黒田「……別に、何も問題はない。」

(うう……触れ合う……周囲の……距離が近すぎる……

 魔王城の宴会は、もっと広大な大広間で……

 いや比べるな、今は一般社員だ……落ち着け……)

ミナミ「黒田さん、手汗かいてますね?」

黒田「かいていない。」

ミナミ「え、触って確かめていいですか?」

黒田「やめろ。」

ミナミが笑っている間にも、

列は少しずつ進み、黒田の顔色はさらに悪化していく。

ミナミ「黒田さんって、もしかして――」

「もしかしなくていい。」

「人見知りなんですか?」

黒田「違う。」

「コミュ力ゼロなんですか?」

「違う。」

「隠キャですか?」

「……違う。」

(否定できぬ……!

 だが魔王が“人見知り”などと言えるわけがないだろう……!)

■ついに魔王の威圧感が“漏れた”瞬間

いよいよ料理台が目前。

黒田は皿を持ちながら、微妙に震えていた。

(リラックスだ……ただのパーティー……

 敵は……いない……

 いや、敵ではないが……人が近い……)

ミナミが心配そうに覗き込む。

「黒田さん、大丈夫ですか? 顔色悪いですよ?

 あ、もしかして――お腹弱いんですか?」

「違う!!」

声がやや響き、周囲の会話が一瞬止まった。

黒田の全身から、

ほんの少しだけ“威圧感”が漏れたのだ。

総務A「……なんか空気が揺れませんでした?」

総務B「黒田さん、やっぱ貫禄あるわぁ……」

ミナミ「黒田さん、怒鳴っちゃダメですよ! 余計怪しまれますって!」

黒田「怒鳴っていない。ただ否定しただけだ。」

「まあまあ。黒田さんが“お腹弱い”って私が誤解しただけですから!」

「どこからその仮説が出てくる……!」

ミナミの天然はいつも斜め上だ。

■黒田、まさかの“スピーチ指名”で限界突破

パーティーの終盤。

司会者「では、優勝した営業部から代表者スピーチを!」

黒田の顔が冷えた。

(な……なぜ我なのだ……!

 あのときもミナミが喋っただろう!

 あれで良かったではないか……!)

ミナミは背中を押す。

「行ってください黒田さん! 黒田さんが作ったスライドなんですから!」

黒田「い、いや……私はその……」

「黒田さん、逃げます?」

「逃げぬ。」

逃げられない。

ステージに立つ黒田。

数十名の視線が集まる。

(うっ……

 これ……魔王城で演説するより息苦しい……!

 なぜだ……!)

黒田が言葉を詰まらせていると、

会場の空気がざわついた。

「黒田さん、緊張してる?」

「意外とかわいいとこあるな……」

ミナミが大声をあげた。

「黒田さんは、人前が苦手なんです!!!」

黒田「言うな!!!!!」

会場大爆笑。

黒田の顔が真っ赤になった。

■ミナミ、突然のフォロー演説

ミナミはステージに駆け上がってきた。

「黒田さんは、人前が苦手でも、

 いつも一番仕事してくれて、

 資料も全部きれいで、

 正しいことをブレずに言ってくれる、

 すごく頼れる上司なんです!」

ざわ……ざわ……

黒田(やめろ……恥ずかしい……!)

「怖そうに見えるけど違うんですよ!

 ただ人混みが苦手なだけです!」

黒田「余計なことを言うな!!!」

会場爆笑。

司会者「素敵な上司部下ですねぇ!」

ミナミは満面の笑みで黒田の方を向いた。

「黒田さん、ちゃんと伝わりましたよ?」

黒田はため息をつきながらも、

どこか穏やかな気持ちになっていた。

(……してやられたな。

 だが……悪くない。)

■帰り道:二人だけの小さな会話

表彰式を終え、夜のオフィス街を歩く二人。

ミナミは笑って言った。

「今日は楽しかったですね!

 黒田さんって、人混みダメなんですね~」

黒田「……あれは“ダメ”ではない。

 ただ……慣れていないだけだ。」

「じゃあ、今度練習しましょう!」

「練習……?」

「人混みの中で歩く練習です!

 黒田さんが倒れないように、私がサポートします!」

黒田「誰が倒れると言った……!」

ミナミは笑いながら歩く。

その横で、黒田はふと気づいた。

――人混みのざわめきは苦手だが。

――ミナミの隣なら、不思議と歩ける。

その事実に。

(……人間界も、悪くない。)

魔王の元部下たちが聞けば、

耳を疑うような感想だった。

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