表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

第11話「AI導入で激突!?〜黒田とミナミ、未来と過去のはざまで〜」


「黒田さん! AI導入、ついに正式決定ですっ!」

朝の営業部にミナミの弾んだ声が響いた。

まだコーヒーも飲み終わっていない黒田は、ゆっくり顔を上げる。

「……AI? また妙な略語を。」

「略語じゃないです! 人工知能ですよ、じ・ん・こ・う・ち・の・う!」

「知っている。……だが、なぜ我が部署に?」

「生産性向上のモデル部門に選ばれたらしいです。“営業の未来はデータで決まる”とかなんとか!」

黒田は眉をひそめた。

「営業とは、本来、人の心に踏み込むもの。数字や計算で魂の揺らぎを掴めるものか。」

「うわぁ……出た、黒田さんの“魂論”。」

「何か文句があるか。」

「ないですけど! でも、“AIができること”は使えばいいじゃないですか。資料づくりとか、提案書の文案とか!」

「文案は心の写し鏡だ。」

「だから心ばっかり見すぎなんですって!」

ミナミはタブレットを開き、勢いよく画面を黒田の前に突き出した。

そこにはAIが自動生成した“営業提案書のサンプル”が映っていた。

「見てください、これ! AIが5分で作ったんですよ!」

黒田は目を細めた。

そこには――完璧すぎるレイアウト、均整のとれた文体、そして、どこにも“人間味”がない。

「ふむ。整いすぎている。」

「整ってるのがいいんですよ!」

「戦場で剣を研ぎ澄ましすぎた者は、最初に折れる。」

「いや、今は営業戦場じゃなくてデータ社会ですから!」

「理屈はわかった。だが、私はAIに営業を任せる気はない。」

「……うわぁ、出た。“アナログ魔王”だ。」

「誰が魔王だ。」

ミナミはため息をついた。

そして、いたずらっぽく笑う。

「じゃあ、勝負しましょう。AIと黒田さん、どっちの提案が通るか!」

「勝負……だと?」

「AI提案書 vs 黒田提案書。明日の営業会議でプレゼン対決です!」

「……ふむ。よかろう。」

黒田は立ち上がった。

目に宿るのは、かつて世界を滅ぼしかけた覇王の光。

ミナミは「やば、ちょっと本気出してる」と小声でつぶやいた。

翌日。

会議室には営業部の面々が集まっていた。

ホワイトボードの前には、AIが生成した提案書と、黒田が一晩かけて作った提案書。

どちらも“新製品の販売戦略”という同じテーマだ。

「では、まずAI案から。」

ミナミが堂々と説明を始める。

「ターゲット層の購買履歴からニーズを抽出、SNS解析で効果的な時間帯を割り出し――」

パワーポイントの画面が滑らかに切り替わる。

美しいグラフ、完璧な数字、説得力のある論理展開。

会議室が「おぉ……」とどよめいた。

「AI、すごいな……」

「文章が自然すぎる……」

ミナミは得意げに振り返った。

「ね? これが“未来”ですよ、黒田さん。」

黒田は腕を組んで黙っていた。

そしてゆっくりと立ち上がり、スクリーンに自分の資料を映す。

一見すると、地味だ。

グラフも少ない。手書きメモが多く、ところどころ文字が歪んでいる。

「……これが、黒田さんの“魂の提案書”です。」

ミナミが半ば呆れたように紹介する。

黒田はスライドの前に立ち、静かに語り始めた。

「数字は嘘をつかぬ。だが、数字を読む人間はしばしば嘘をつく。

この資料に記したのは、顧客が実際に語った言葉だ。」

「顧客の言葉、ですか?」と誰かがつぶやく。

黒田はうなずき、手書きのページをめくった。

そこには、商談で出会った顧客の“悩み”や“迷い”がびっしりと書かれている。

『在庫を抱える不安が眠れない夜をつくる。』

『小さな店舗でも、大きな声で叫びたい。』

黒田は静かに言葉を続けた。

「AIが生み出すのは“最適解”だ。

だが、我々が探すのは“最善”ではなく、“最愛”の解だ。」

ミナミはハッとした。

黒田の資料は不格好だ。けれど――人の温度があった。

会議室が静まり返る。

誰かがぽつりとつぶやいた。

「……これ、泣けるな。」

ミナミは焦りを隠せなかった。

“未来の象徴”だったAI案が、いま少し霞んで見える。

だが負けずに反論する。

「でも、AIは進化します! 黒田さんの“人の手”がいらない世界も、もうすぐ来るかもしれません!」

黒田は、少し微笑んだ。

「ならば私は、進化したAIにこう言おう。

『お前が生まれたのは、人が“誰かを思う力”を手放さなかったからだ』とな。」

ミナミは言葉を失った。

会議室の誰もが黙り込む。

司会が、そっと結論をまとめた。

「……えー、本日の勝負。プレゼン採用は――黒田案です。」

ミナミがガクッと肩を落とす。

「やっぱり……魂の勝利……。」

黒田は軽く笑った。

「未来を否定しているわけではない。

だが、未来を導くのは“理”ではなく“志”だ。」

「……それ、どっちも漢字が難しいです。」

「言い直す。“理屈”より、“気持ち”だ。」

「なるほど!」

ミナミが笑うと、場の空気が一気に和らいだ。

会議後、廊下を歩きながら。

「黒田さん、すみません。ちょっと言いすぎました。」

「いや、良い刺激だった。」

「でも、AIって、ちょっと怖くないですか? 間違えないし、サボらないし、文句も言わないし。」

「それは恐怖ではない。退屈だ。」

「退屈……?」

「間違えるからこそ、人は笑える。

迷うからこそ、誰かの言葉が沁みる。」

ミナミは立ち止まり、黒田を見上げた。

「黒田さん、たまに詩人みたいですね。」

「やめろ、またSNSで炎上する。」

「“汝、迷え”ってタグ付けしときますね。」

「やめろ。」

ふたりの笑い声が、廊下に響いた。

夜。

黒田は自席に戻り、ひとりパソコンを開いていた。

新しい通知がひとつ。

投稿者:ミナミ

内容:

『AIも、黒田さんも、どっちも必要。

だって、未来も過去も、どちらも“今”を作ってる。』

黒田は小さく笑った。

そして返信欄に、短く打ち込む。

『汝、よく学べ。』

その瞬間、社内SNSが再びざわついた。

「出た、“汝シリーズ”再来!」

「黒田さん、AI時代にも生き残る古代言語!」

黒田は画面を閉じ、コーヒーを啜った。

「……理を正すどころか、理に弄ばれておるな。」

デスクの隣で、ミナミがこっそり笑っていた。

「黒田さん、タグ付け完了しました。“#汝AIを語る”です。」

「やめろ、お願いだからやめてくれ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ