第10話「黒田、社内SNSで炎上する」
昼下がりのオフィス。
営業部の片隅で、黒田はコーヒーを片手にスマホを見つめていた。
「……なんだこれは。」
社内SNSのタイムラインには、
“謎の上司批判ポエム”がトレンド入りしていた。
『上司が会議でドヤ顔するたび、世界の理が歪む気がする。』
「……文体が俺に似てるな。」
まさかの展開。
誰かが黒田の口調を真似して投稿したせいで、
コメント欄には「これ黒田さんじゃね?」「営業部の魔王感あるもんね」と盛り上がっていた。
そこへ、ミナミがひょっこり顔を出す。
「黒田さん、炎上してますね。」
「おい。お前、なんでそんな軽いノリなんだ。」
「だって、みんな“文体が古代語っぽい”って笑ってますよ。“汝、報告書を出せ”とか言ってそうって。」
黒田は目を細めた。
「……まあ、似ているのは否定できん。」
「え、実際に“汝”とか言うんですか?」
「過去にはな。」
「過去に!? どんな時代を生きてたんですか!」
黒田は軽く咳払いして話題を変える。
「とにかく、これは俺じゃない。誰かの悪戯だ。」
「犯人、見つけましょうか? 特定班ミナミ、動きます。」
「やめろ、ややこしくなる。」
だがミナミはもうノリノリだった。
部署チャットで「黒田さん風ポエムを生成するAI」を立ち上げ、
同僚たちが次々と投稿を始める。
『会議とは、魂を削る儀式である。』
『資料の体裁を整えるより、己の心を整えよ。』
『営業報告、それは戦場の詩。』
オフィスが一気に詩人集団と化した。
黒田は頭を抱えながらも、思わず笑ってしまう。
「……人間ども、楽しそうだな。」
「黒田さん? 今、なんか“ども”って言いました?」
「気のせいだ。」
結局、炎上は「黒田語録祭」として社内イベント化。
最優秀ポエムには、“汝賞”なるトロフィーが贈られた。
表彰式で拍手の中に立たされる黒田。
「……なぜ私がここにいる。」
「だって黒田さん、元ネタですもん。」
ミナミが笑いながら言う。
黒田は深くため息をつき、心の中でつぶやいた。
(封印していた“威厳の言葉”をネタにされるとは……この世界、やはり侮れぬ)
拍手と笑い声の中、
黒田の背後でパソコンの画面がまた光った。
《トレンド:#汝、今日も頑張れ》
黒田の戦いは、まだ続く。




