濡れてるよ、髪
「送ってくれてありがとう、庵」
「あの状態では送り出せないよ」
マンションのエントランスの前で呆れたように庵は笑う
「ちょ、思い出さないでよ、!もう…」
「ごめんごめん笑 じゃあ、またね」
「うん、また」
エントランスを開けようと鍵をバッグから取り出そうとする…が
ゴソゴソ
(あ、あれ…?)
ゴソゴソッ!ゴソッ!
(ま、まさか…)
「春瑠?どうしたの」
「えっと、鍵が、ない…です」
「…」
「…」
(お、おわったあ!!財布と携帯は確認したのにいいい)←前話参照
「はぁ、ほんとなにやってんだろ、てゆかどうしよ」
「…来るか、うち」
「うち…って、え?そんな!それはちょっと!」
「今回に関しては仕方ないから。部屋空いてるからそこ使って」
それとも…と庵は話を続ける
「俺と寝たかった?」ニヤッ
幼い頃を思い出させるようなイジワルな笑い方をされて、なんだか鼓動が早くなってしまう
「そんな訳ないでしょ!あ、空き部屋使わせてください!」
「ふっ、いいよ」
思い通りの反応をしてしまったのか、庵はなんだか楽しそうだ
「じゃあまた車乗って」
「は、はひ…」
—————————————————
車をおりると、この辺りでは間違いなく豪華なマンションに到着した
「お帰りなさいませ」
(げ、受付の人とかいる、!ほぼホテルじゃん)
エレベーターで最上階まで上がり、玄関のドアを開ける
(うん、予想通り、いやそれ以上豪華だわ)
「庵…相変わらず素敵な家に住んでるのね」
「母さんが前に住んでたらしいんだけど、もう使わないらしくてね」
広いリビングを通り過ぎ、階段を挙がってすぐの部屋の前で止まった
「はい、ここどうぞ。風呂とかキッチンにあるものは好きに使っていいから。着替えも俺が持ってる中ではこれが一番小さいかな」
「あ、ありがと」
「何か困ったことがあればリビングにいるから声掛けて、じゃあおやすみ」
「おやすみ」
お言葉に甘えてお風呂をいただき、彼が貸してくれた一番小さいらしい服に袖を通す
「…でかいな」
小さい頃は同じくらいだったのにいつの間にこんなに差が出てしまったのだろうかと考えながらも、彼も自分ももう大人なんだと自覚もする
(これからもずっと、兄弟みたいな幼馴染でいたいな)
そんなことを考えながらリビングに行くと、パソコンの目の前で真剣な表情をする庵がいた。
(あがったけど声、かけない方がいいのかな)
すると、ふと庵はこちらを向いた
(!!)
「春瑠、ゆっくり風呂入れた?」
「うん、ありがと…って何?」
庵がじーーっとこっちを見てくるものだから不思議になってつい聞いてしまった
「いや、服やっぱでかいなと思って」
「あー笑 まあこれだけ体格差あればね」
「…まあね」
そう言って庵はふと立ち上がり私の方へ歩み寄ってくる
「な、なに?」
「…」
無言のまま近づいてくる、そして彼の手が私の頬に…
緊張して目を閉じた時
「濡れてるよ、髪」
「へ、?」
思ってもなかった発言をされて、呆気にとられる
そして彼が触れていたのは頬ではなくまだドライヤーをしていない私の長い髪だった
「あ、ああ!髪ね!まだドライヤーしてなくて笑」
「ほんと、相変わらずの面倒くさがり屋だね。風邪ひくから早くこれ使って、あ、自分でできる?」
たまに出る庵の過保護モードが発動し、久々なのもあり急に恥ずかしくなる
「じ、自分でするから!これありがと、借りるね!お風呂どうぞ!」
慌ててドライヤーを受けとり、今日貸してもらってる空き部屋へと戻る
バタン
「はあ、もー相変わらずなのはどっちよ」
そんなことを言いながらふと目の前の全身鏡に私が映る…顔が赤くなってる私が
(!!!!…////なんで赤くなってるの私!お、お風呂につかりすぎたかな!)
ドライヤーを終わらせて、庵がお風呂に行っている間にドライヤーをリビングのテーブルに返却
「おやすみ」
聞こえるはずもないが小さく声をかけて私は部屋で眠りについた