この状態で一人で帰る気だった?
時間が止まったのかと思った。
「ただいま。春瑠。」
酔っぱらいから助けてくれたのは、もう何年もあっていなかった幼馴染、庵だった。
「い、庵!帰ってきたんだ…ね」
戸惑いを隠しきれない私にはこの言葉が精一杯だ。
「うん、今朝帰ってきたんだ。久しぶりだね」
「久しぶりだね、ほんと」
『連絡して欲しくなかったのはなんで?』何年も疑問に思い続けたことが喉まできてるのに、出てこない。
「俺——」
庵が何かを言いかけたその時、
「おお!!庵じゃん!!やっと来たなー!」
会場から偶然出できた庵の友人が庵の肩に腕をかけ再会を喜ぶ
(今、なにか言おうとしてたよな…)
友人にされるがままの庵にちらっと目をやると、
パクパク
困ったような苦笑いで口パクで何かを伝えてくる。
(?なんだろ、あ…と…で…?後で話そうってことね)
私は小さくうなずいた
「ほらほら!会場戻ろうぜ!みんな待ってるぞ」
庵の友人は上機嫌で私と庵を会場に向かわせた
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式、披露宴共に無事終了し、夜は菜月、亮の2人を主役に大学時代から行きつけのバーにて三次会に参加した。
「はぁ〜今日はみんな来てくれてありがとうね!」
満足気な菜月は今までで1番幸せそうな顔でグラスを手に取り、遠方から来てくれた友人とお喋りを楽しんでいる
いつでも会える私、庵、亮はカウンターでゆっくりとお酒を楽しんでいた
「ふふ、今日の式、本当に素敵だったね」
「いやー、まじで緊張したわ」
ウェルカムスピーチをずっと不安がってた亮は、無事終わって一安心だろう
「おまえらが結婚するなんてな、ほんと人生何があるか分からないな笑」
庵もグラスを口元から離して亮の方を見る
「そういや、帰国合わせてくれてありがとな。おまえには来てほしかったからさ」
「タイミングが良かったんだ。今後はもう日本に住むつもりだよ。」
そんなこんなで3人での会話は盛り上がり、しばらくすると…
「…よし、それじゃ俺はあっちの奴らと話してくるからあとでな」
なんだか不自然なタイミングで亮は席を外し、他のテーブルに行ってしまった
(急だなあ、どういうタイミングよ…)
カウンターに残されたのは私と庵のふたりきり
それぞれグラスに手をかけているが、口には運ばずじまいだ
「春瑠——」
「庵———」
同じタイミングで話し始めてなんだか気まずくなってしまう
「あ、ごめん、!先、どうぞ」
「いや、先に話していいぞ」
「え、と…さっき言いかけてたことって…何かなって」
「それを話そうと思ってた。あれなんだけどさ、俺…会社継ぐことになって」
「会社…ああ!庵のお父さんの?」
庵はこちらを見たまま無言で頷く
「それで今後はこっちに住むことになる、またよろしくな。」
「そっかぁ、ついにって感じだね!おめでとう。小さい頃からの夢だったもんね!」
「ああ、経営学をずっと勉強してきたけど、やっと役に立たせるときが来たなって思ってる……あと、最後にした連絡のことだけど、もう気にしなくていいから」
(えっと、それは例の『しばらく連絡してこないで』のやつですよね…?てことは連絡してもいい、ってこと!良かった、今まで通りだ。まあ、今更何をするのって感じでもあるけど。いやでも、いつも通りにするには連絡もたまには取ってた方が…?)
脳内会議をする私を見ながら、庵は一瞬ぽかんとしてその後はニコニコしながら頬ずえをついてこちらをみていた
「え、な、なに?」
「いや、久々だなーと思って笑 春瑠がそうやって1人百面相してるの見るの」
「一人百面相って…」
色々考えてたのにそんなことを言われ、気が抜けてがっくりきてしまう
「私、明日も仕事だからそろそろ…」
カウンターの座面が高い椅子から降りて帰る支度をしようとした
気が抜けてがっくり…ん?なんだか身体がふわふわしてる気がする
足を地面に着いて歩き出そうとした瞬間、
フラッ
(あ、え..なんか力抜けて…)
トサッ
「はい、飲みすぎ」
庵が私の身体を支えてくれていた
「やっぱりね、今日結構飲んでる割に珍しく酔ってないと思ってた」
(え、私…酔ってたの?なんか急に気が抜けちゃった)
「どこ行くの?もう帰る?」
「う、うん…菜月に声かけようかと、」
(何も言ってないのに、なんでわかるのさ)
「一緒行くよ、ほら一旦水飲んで」
いつ頼んでくれたのか、ストロー付きの水を差し出してくれて、私はそれを少しずつ飲む
「あ、ありがと」
(酔ってたの私も気づいてないのに気付かれてたの恥ずかしすぎ…!)
無事私は菜月に声掛け、次の日の仕事に向けて帰る準備をする
「じゃあ庵、またね。今日は会えてよかった」
携帯、財布があればいいやと思いバックの中を確認したので、庵の方を振り返ると…
「え、庵も帰るの?」
庵も帰る準備を整えていた
「…逆にさ、この状態で一人で帰る気だった?」
庵はなんだか呆れたような、不満そうな顔をしている
「え、はい…」
「この時間だし危ない、送る」
「いやいや、そこまでは酔ってないし!」
「もう車も呼んであるから、ほら行くよ」
(車って…ああ、今更だけどそういう家だったな)
庵の家が大きな会社を経営している家系であることをふと思い出す
私は言われるがまま結局お世話になり、ふたりで後部座席に乗り込んだ