ただいま、春瑠
今日はついに、菜月と亮の結婚式だ。
お気に入りのお呼ばれドレスに、細めの黒リボンで大人っぽ可愛く仕上げたヘアアレンジは気に入った。
というのも....
もう何年も会っていない、連絡もとっていない幼馴染が今日の式にくるというので、少し気合を入れたなんてことはここだけの話だ。しかし、
「え、庵遅れてくるの??」
式に出席していた同級生から、庵は式には参加せず披露宴の最中頃に到着することを聞き、少し緊張していた自分にがっくりしてしまう。
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披露宴も中盤に差し掛かるが、新郎側の男性テーブルはお酒も入り盛り上がってきたところだ。
私は新婦の友人テーブルにて久々に会う同級生と思い出話に花を咲かせていた。
「私、御手洗行ってくるね、どこだっけ?」
友人が席を立ったので、普段このブライダルホテルで働いている私は仕事柄「案内するね」と一緒に会場を出て案内する
案内が終わり、先に会場に戻ろうとしたが、久々にゲストとして大人数の中に参加したからか、少しだけ気疲れしてしまった
(今は菜月もお色直し中だし、少しここで休んでいこう)
会場の外、BGMだけが響くロビーでふかふかのソファに腰をかける。
しばらくそうしていると、新郎友人テーブルにいた男性客が一服したいのか、タバコを手に会場から出てきた。お酒が回っているようでフラフラとこちらへ向かってくる。
(タバコかな、喫煙所あっち側なんだけどなあ、)
そんなことを考えながら見ていると....目が合ってしまった。
(う、そろそろ席に戻ろうかな)
目が合ってしまったのが気まずくて、席に戻ろうと立ち上がると....
「あれ、きみ新婦の友達?せっかく目合っちゃったし、少し話していこうよー」
嫌な予感が的中し、酔っ払いに捕まってしまった
「う、あの....私もう席に戻るので....」
「つれないなあ、少しだけじゃん」
ちょうどホテルのシャトルバスがロビー外に到着し何名かのお客様が入ってきたのに、こんなところ人に見られて恥ずかしいったらありゃしない。
「今がダメなら、連絡先教えてよ。後で会おう?」
だんだんしつこさがエスカレートしていく
ついには男性の手が私の肩に伸びてきた
「いえ、本当に、あの...!」
(もう、ほんとにいや…!)
男性の手がついに私の手に触れようとし、ギュッと目を閉じたとき....
パシッ
「喫煙所探してるなら、反対側みたいだけど?」
聞き慣れた声だった。
「な、なんだよ。チッ」
酔っぱらい男性は酔いが覚めたのか、つまらなそうに喫煙所へ向かった
その男性が去り、目を開けると見慣れた背中が目の前いっぱいに広がっていた。
顔はまだ見えてない。だけど分かる、彼だってこと
「…庵?」
その背中はゆっくりと振り返り、その瞳は私を捉えて優しく微笑んだ。以前と何も変わらない彼の笑顔で
「久しぶり。春瑠」