式に向けた準備はたーくさんあるんだから
職場では今日も結婚式を予定している新郎新婦さんとの打ち合わせが待っている。
私はブライダルプランナーとして、担当している新郎新婦さんにとって最高の日になるよう全面的にサポートするのが仕事だ。人生で一番幸せな瞬間に立ち会えるなんて、いい仕事を見つけたと思う。
午前中の打ち合わせ後、担当のお客様を見送り事務所に戻ろうとすると…
「あ、春瑠?!ひさしぶり〜!」
聞き慣れた明るい声の方を振り向くと、高校と大学のの同級生である菜月と亮がいた。
「菜月!亮!久しぶり。ふたりとも改めてご婚約おめでとう」
「ありがとう。今日は会場の見学に来てて、紹介ありがとうね」
「ふふ、待ってたよ。」
それからしばらく他愛もない話を3人でした後、もっと聞きなれた名前が出た。
「そういや、庵のやつ日本に帰ってきたらしいな」
「あ〜こないだ連絡来てたみたいだね!春瑠はもう会う約束とかしてるの?」
(庵....帰ってきたんだ。)
剣崎 庵は幼稚園から大学まで一緒に過ごした幼馴染(っていうか腐れ縁?)で、母が亡くなってからは家が隣という縁で実家によくお世話になっていた。庵は大学卒業後にアメリカの大学院に進学した。しばらくは普段通り連絡とってたけど、ある日急に心が凍てつくような一言の連絡が来た。
『しばらく連絡しないで』
幼稚園からいるのが当たり前な庵から急にそんなこと言われて正直傷ついた。でももう大人になったし、こんな幼なじみめんどくさくなっちゃったのかなとか思ってた。
「え、そうなんだ。…私は連絡なかったかな。」
菜月と亮は驚いたように目を見合わせる
「え、え?あいつが春瑠に連絡しないとか何事よ?」
「喧嘩でもしたのかー?」
ふたりは怪訝な顔で私の方を見る
「私たちはただの幼なじみだよ。そんなこまめに連絡も取ってないし笑」
庵からの最後の一言が頭の中をよぎり、目の前にいるふたりに違和感を悟られないよう願う。
「ええー?そうなの?」
菜月は「あいつ連絡しろよー」と1人でぷりぷりしている。
「ま、俺らの式で会えるだろ。他にも同級生呼ぶし」
亮は「まあまあ」と菜月をなだめ、私は、普段もこんな感じなのかなと勝手に想像しながら微笑ましく2人のやり取りを見守る。
「まあねー?あ、春瑠もゲストとして呼ぶからね♡とびっきりのおしゃれして来てね?」
バチンとウインクしながら菜月は笑う
「うん!楽しみにしてるね!式に向けた準備はたーくさんあるんだから、一緒に進めていこうね」
ふたりの式に参加できるわくわくと、庵とアメリカに行く数日前ぶりに会えるかもしれないという期待、普段通り話せるかという不安。複雑な気持ちになりながらも、その日はふたりを見送った。