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あと一人

作者: えくぼ

 暑い夏の夜のことだ。

 高校時代の友達を、近況報告を兼ねて宅飲みに誘った。

 大学に進学してからは会うのは初めてになる。

 少し痩せた彼の笑顔は当時と変わらないままだった。

 つまみは僕の趣味でそろえて、お互いが飲みたい酒を持ち寄る。

 ちまちまとチーズをつまみながらビールを飲んで、だらだらと話しつづけていた。

 大学の授業、どんなサークルに入ったのか、彼女はできたのか。


 ふ、と雑誌の心霊スポット特集に彼の目が留まる。

 トンネル、墓地、自殺のあった公園……古い神社と隣接した廃病院。


「どうしたんだい? あ、そういやそこの廃病院、君の大学の近くだね」

「いや、さ……ついこの間、サークルの奴らと、ここに行ったんだよな」

「お、怪談か。定番だ」


 時間もおあつらえ向きだ。

 こんな雑誌を買うぐらいだから、僕もオカルトは嫌いじゃない。

 怪談を聞く姿勢になったのを見て、彼はぽつぽつと語りはじめた。



友人の話


 【いやな、俺動画制作部ってサークルにいるって言ってたじゃん。動画撮って投稿して、って感じなんだけど、月に一回ぐらい? 大半は宴会芸みたいなくだんねえ身内ノリで……。あ、それはどうでもいいな。たまに真面目に企画たててちゃんとしたの撮るんだよ。一番受けが良かったのが大学をぐるっと一周ドローンで上空から撮影するってやつだな。


 ここに行くっていうのもその企画の一つでさ、夏のホラー企画!って感じ?


 内容は廃病院を通って向こうにある神社にお参りしてくるってやつ。

 あんまり不謹慎なことすると炎上するからさ、ほんとにそれだけだったんだよな。

 俺も怖かったけどノリ悪いこといって白けさせるのも嫌で、結局参加したってわけ。


 最初の方は問題なかったんだよな。

 ちょっと臭かったけど、全然音とかしなくてさ。

 え? どんな匂いかって? なんか生臭い……? 鉄っぽかったかも。

 今思えば変だったな。森の近くなのに。病院の方はもう十年以上前に潰れてるし。

 メンバーは俺含めて五人。女の子二人に男三人。女の子は結構かわいいな。片方はサークル内に彼氏いるけど。もう一人は今フリーだから男どもはけん制しあってんの。そういや企画言い出したやつも狙ってたな。吊り橋効果でも狙ってたんかね。

 男一人は現地集合で他は車に。男は二人とも免許持ってるからさ。車内が狭いのなんの。


 で、車から降りると撮影スタート。


 女の子は基本画面内。喋んのうまいしかわいいから。

 ああ、俺はどうせ撮影係だよ。ごついのに地味で悪かったな。

 実際何か映ると思ってないからメンバー中心に撮影しつつ、不気味な場所や廃病院を外から全体映るように入れたり。


 病院内に入ると、すっげえ暗いの。

 窓もあるし、俺らも明かりもってるんだけどさ。

 照らしても照らしても奥が見えない感じ。

 行きは廃病院のあちこち覗きながら進むだけで、人形とか血の跡とか全然ヤバいものはなくってさ。

 何も起きなかったから飛ばすけど。


 やばかったのは神社からだな。


 そんなでかい神社じゃないからまっすぐ奥まで行っても五分もかからねえ。

 病院でぐだぐだして三十分近く使ってて、みんなも少し疲れてきてた。

 用意した五円賽銭箱に投げ入れて、「幽霊が出ますように」なんてふざけてたわけ。


 がたん


 大きな音ではなかったけど、やけによく響いた。

 それまでふざけてたメンバーが一瞬で黙った。

 周囲をそろそろと確認するけど、そんな音が出るものは周りにないんだよ。

 自然に見合わせた視線がそのまんま、お堂? の方に。

 中は暗くて全然見えないのにそこに何かいる。

 そりゃもうみんなビビって逃げ出したよ。だって妙にでけえんだもん。

 あれネズミとかじゃねえって。

 で、もちろん俺は逃げ遅れた。

 カメラもってるし、足も遅いし。

 荷物もってるやつはさっさと荷物放り出して逃げたさ。


 俺も廃病院の方に向いたとたん、後ろでお堂が開く音がしてさ。

 うっかり道間違えてなんかでかい箱のたくさんある部屋に入っちゃったわけ。

 

 そしたらもう一人逃げ遅れたやつが、一緒に飛び込んできて。


「お経でも唱えとけば?」


 って言うもんだ。

 なんかそいつの機嫌悪かった気がするな。

 俺もお堂から出てきたやつに見つかりたくないから、それがどこかに行くまで黙って隠れてようと思ってたんだ。

 でもそういうと、そいつを余計怒らせそうな気がして、雑だけど目閉じて「南無阿弥陀仏」って繰り返してたんだよな。唱えてる間は「やっぱ面白半分で心霊スポットなんてくるもんじゃねえな」とか「謝ったら許されねえかな」とか考えてた。

 そしたらぎゅーって首が締まってな。苦しくって、息が止まって目を開いたら、さっきの奴俺おいて先に帰ってんの。


 仕方ねえからさっきの場所に放り出されてた荷物回収して、来た道引き返して車のとこまで戻ったら全員揃っててさ。

 遅いとか、何してたんだとかいろいろ言われんの。ひでえやつらだよ。

 そのまんま車に乗り込んで帰ったってわけ。

 結局映像の方はたいしたもんは映ってなくて、女の子二人に浮かれて空回りする企画提案した男をいじるだけの映像になったんだけど。】


「と、こんな感じだ。ばっちり幽霊とかは見てないけど、怖かったな」


 語り終えると、少しすっきりとした顔をしていた。


「案外、タヌキとかかもよ」

 恐怖を紛らわすために少し茶化してみる。


「だよな。最後のもパーカーのフードがどっかにひっかかって首が締まっただけかもしれないし」


 その可能性の方が高いか、と笑って後ろの冷蔵庫に新しいハイボールを取りにいく。

 彼の話を脳内で整理していく中で、妙なことに気が付いた。

 それについて確認しようと、背後から近づいたところで僕はその言葉を思わず飲み込んだ。


「いやー、なんで病院のあんな近くに神社あるんだよって調べたらさ」


 彼が「病院建てるときに事故が」とか「昔はあの神社にヒトミゴクウ?があって」といった経緯を語るが、まるで頭に入ってこない。

 僕の目は彼の首、特に彼自身からは見えにくそうな場所にくぎ付けになっていたからだ。


 そこには、くっきりと手の形をした痣ができていた。

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