第二十二話 青蓮地獄
殺した。確実に殺したと思った。
事実雪女の頭部は胸部から離れ、今正に地面へと髪を垂らそうとしている。腰まで在った長い黒髪が、刃に当たった箇所から押し切れ、不揃いに放たれる。重力に付き従った髪から順に、それでいて急速に鮮度とも言うべきナニカが失われていく様はまるで、勝者必衰の理が表れているかの様だった。
だが次の瞬間、それは間違いだったことに気付く。
斬られた雪女の死体から大量の冷気が噴出されたのだ。その冷気は勢いを落とすこと無く【神秘の番人】に絡みつき、一つの氷像を完成させる。徴収特権を通じてギリギリ生きていると確認出来たが、そこから取り出す様な真似は彼女がさせてくれないだろう。
「今のは危なかったのじゃ。まさか死水の封印の要をも手駒にしておるとはの。弱っておらねば死んでいたのじゃ」
あの攻防の中、いつの間に隠れたのか氷柱の背後からヒョッコリと姿を見せ、此方への歩みを再開する。加えて、
「……知っておるか?この英霊は『弱体化のために記録が抹消された名もなき怪物』を封印するため、自ら人柱になった偉大な漢じゃ。ウヌのようなクズが指一本触れていい存在ではない」
と、雪女はこれ以上無い位の怒気を孕ませながら言い放った。
彼女と私までの距離は残り約五メートル。
彼女はその歩みを一切緩めること無く近付いて来る。対して私は身体に残ったダメージが回復せず、地に伏せたまま動けないでいる。
残り四メートル。
霊力はほぼ尽きた。黒口腔を出しても恐らく無駄。増殖鬼はこれ以上分身を作れないし、アベンジャーズも霧が消えてしまっては何も出来ない。人間の健二は論外。残る手札は液晶門霊と電脳空間の【ゾンビ哲学的ゾンビ】だけだ。
残り三メートル。
液晶門霊に直接的な戦闘力は無い。残りのゾンビを戦わせるわけにはいかない。後は探偵達に連絡を取れば何とかなるかもしれない。探偵助手のヒトはかなり強かった。逃げ出す程度の時間なら稼げるだろう。
残り二メートル。
いやそれは駄目だ。そもそもコイツと会わせられなかったから一人で来たのだ。もし呼んでしまっては家族が死に掛けている───最早死んでいるとすら言っていい程の状況だとバレてしまう。
私自身が死に掛けてることで目標を見失っていた。
残り一メートル。
その距離になるや否や、私は老紳士の魔の手を右・上・左の方向からそれぞれ一本ずつ雪女に向けて叩き付ける。が、当然氷漬けにされ防がれる。それどころか氷漬けにした魔手を全て、ただ一度手を振るう動作だけで粉々に砕いてしまう。
「ウヌはジャコの記憶力なのじゃ?学習能力がないのじゃ?この程度の攻撃が効くわけないのじゃ。ここまでバカにされると怒りを通り越して憐れみすら覚えるの~」
パキリ。
それは彼女の台詞に怒った余り、脳の血管が破裂してしまった音───などではなかった。これは決して私に不幸を運ぶ音ではなく、寧ろ雪女に不幸を運ぶ音なのである。
音に釣られた雪女が振り返る。
そこには丁度、始めに雪女が腰かけていた氷柱が魔手の握力に負け、盛大な音と共に砕かれ中身を露出している場面であった。幸いにも派手なのは音と破片だけであり、中身の魂に関しては損傷無く回収することが出来る。
但し女将は生身のまま入っていたこともあり、諸に破壊の影響を受けてしまった。幾ら私が人に優しく、不殺で、どんな悪人であっても厚生する方向に持っていく心算であっても、こんな状況で死体にかまけている余裕はない。精々私が生き残れたら無数の肉片を拾って埋める位はしてやろう。
『疑似召喚・ブラウン管テレビ』
未だ雪女は呆けている。もしかしたらただ見逃してくれているだけかもしれないが、後ろを向いていて顔が見えない為、判断が付かない。だが折角のこの隙を見逃すわけにはいかない。予定通り氷柱を砕いた魔の手から、旅館の茶色く薄汚れた分厚いテレビを取り出す。
本来、コンセントに繋がれていない電化製品が稼働するハズがないのだが、ここは怪異溢れる狂気の世界。特に今回は雪女が大量の怪異を呼び寄せる為に霊力をバラ撒いたのだ。電源のない電化製品が稼働する程度の怪奇現象、起こらないハズがない。
そして、稼働しているのならこのテレビは電波を受信する。
『来い!!液晶門霊!!散らばる魂を掻き集めて電脳空間に入れろ!!』
どのチャンネルにも合わずに虚しく砂嵐を映し続けたテレビが、突如として髪の長い女性を映す。白いワンピースを着た彼女は、テレビから淀みなく出て来て周りの魂を回収し出した。
「ウヌは……まだ善人のフリにこだわっておったのじゃ?」
後ろを向いていた雪女が、振り返って言った一言目はそれだった。確かに私は口が裂けても善人と呼べない性格をしているが、それでもこの思いは本物だ。例え振りであろうと……振りだからこそ、私は最期までこの振りを突き通したい。
「ワシはウヌのことを見くびっておったやもしれぬ。いや、見栄を張るのはよす。ワシはウヌのことを見くびっておった。まさか頭をもがれたムシが足を動かすように善人のフリを続けるとは。ここにはワシらしかおらぬし、ウヌの仲間などおらぬのだぞ」
雪女は呆れながらもそう言って、此方に向かうことを再開した。距離は変わらず一メートル。短い彼女の足でも数歩で届く距離だ。
案の定、彼女は三歩で到着した。地に伏した私からは雪女の足しか見えない。それでも可愛らしく、両足をチョコンと揃えて屈んで来た。だが次に行った行動はその可愛らしさの欠片も無い、人の心無い怪異であったと思い出すに足る行為だった。
人外たる雪女は私の髪を掴んで強引に顔を突き合わせ、
「ウヌのようなクズは、あの氷の中の愚か者共と同じく残酷な処刑をしてやるのじゃ」
と言って私の足元から氷を張り巡らせ始めた。身体が勝手に震え出す。低体温症の初期症状がシンバリング───身体を激しく揺さぶる行為だ。なら私は今、凍えているのか。
「この処刑方法の残酷なとこは、死ぬまでにじっくりと時間をかけることじゃ。足元からの氷で逃げられなくなり、凍った部位から体組織が壊死していく。最終的に循環器系が麻痺し心停止するか、肺が凍って窒息するかのどちらかじゃな。……どちらにせよウヌには少し時間があるのじゃ。その間、迷惑かけた人間全てに謝って死ぬとよい。もっとも、意識混濁までいけばなにも考えられまい」
彼女が何か言っているが、その声が妙に遠い。いつのまにか震えが収まっている。よく見れば氷が腰にまできていた。たしか、つぎの症状が意識混濁。反応が鈍くなったり、ねむけが出るはずだ。事実ねむい。
まちがいなく私はいま、死にかけている。シャキッとしなければ。でないと死んでしまう。まず徴収特権で自身の体温を確認する。……かくじつに低体温症だ。ならばと健二からいくらか体温を分けてもらうも焼け石に水。この場合は雪にお湯か。凍らせてくる本人がその場を離れずに観察しているのもマズイ。
「のじゃ?どうしたのじゃ?なにもしなければ死んでしまうのじゃぞ。それともやっと懺悔する気になったのじゃ?」
薄くなる意識の中、ナントカ根性で雪女をにらみつける。そしてなにか一言でもいいかえしてやろうと思ったが、こおった唇がさけるだけだった。視界がぼやけてくろくなる。もうなにもうつらない。なにも聞こえない。そんななかでも走馬灯だけはしっかりとみれた。
たくさんの死線をのりこえた。多くのなかまができた。いまはゾンビだけど家族だっている。
私は…いいヒトというものになってみたくていきてきた。こんなとこで死んでいるばあいじゃない。けど、おもいついた打開策は……ゾンビと町のひとをぎせいにしてのゾンビせんぽう。だけど……これはすこし、いいヒトとはいえない気がする。
だから私は……………………ゆめのために死ぬ。
ねむけにまかせていしきをなくす。もうめざめることはない。
と思っていた時期が私にもありました。
何故、と疑問を感じるより先に、私の身体が真由ちゃんによって抱き締められる。寒い空気を意識するより先に、真由ちゃんの体温が染み渡る。先程まで氷漬けだった私にとって、それは火傷するように熱く感じられた。
「どこ行ってたの!?ずっとそばにいるって言ってたよね!?」
耳元で叫ばれた所為か耳が痛い。気まずい話題から逃れようと、何が起きたか訊いてみる。
「そんなことよりさ───」
「そんなこと!?」
マズイ。完全に言葉選びを間違えた。
「まぁまぁまゆちゃん落ち着いて。愛しのあすかちゃんが目覚めて嬉しいのはわかるけど、まずは安静にしてあげるべきじゃなーい?」
「いとっ!?……いえ、そうですね。失礼しました」
以外なことに、この窮地を救ってくれたのは探偵だった。ずっと後ろで見守っていてくれたらしい。さらにその後ろで助手の人も控えている。
「さて、今どんな状況かわからず困っているあすかちゃんのために~、このスーパー名探偵阿藤旭様が教えてしんぜよう」
「自分でスーパー名探偵とか言うなよ。その助手やってるコッチが恥ずかしくなんだろ」
「あすかちゃんはねー、ここの駐車場でカッチンコッチンの氷漬けにされていたんだよ。まぁわたしたちが見たのは丁度頭が氷漬けになる瞬間だったんだけどね。…で、その場にいた悪の女ロリを神影っちの神パワーで追い払ってやったんだよ」
「神影っちの神パワーなんて気軽に言ってくれるなよな。今回はアッチが引いてくれたからよかったものの、もし弱ってなかったらそのまま襲いかかってきたはずだぜ。あと女ロリはただのロリだろ」
「まぁ女ロリが弱っていたのは十中八九、この旅館に怪異をもたらそうとムダに霊力まき散らしたせいだろうけどね。そう思うと健気だよね~あの女ロリ。だって自分の持ってた霊力の九割を失ってまで女将に尽くそうとしたんだもん」
九割。それは全霊力を失うと消える怪異にとって、どれ程の献身だったのだろう。
「健気ねー。俺からするといくら霊力失ってもなんとかなるっつう驕りだと思うんだけど」
同じ怪異の類である探偵助手は、それを驕りであると断言した。だが、もしそれが断じて驕りなどでは無く女将に対する信頼だったとしたら。そしてそれに裏切られ逃げようとする女将を見たとしたら。彼女は一体、どんな心境で女将を氷漬けにしたと言うのか。
尤も、これらは全て私達の空想であり現実は違っているかもしれない。実際には日々の鬱憤を晴らすように喜んで凍らせたのかもしれない。
だとしても、雪女が持つ本当の本心を確かめることはもう出来ないだろう。ならばせめて、もう関わることの無い彼女に対して、喪中旅行の行く末に幸があることを願うだけはして置きたかった。
「さて、話を戻すよ。そもそも何でわたしたちがあすかちゃんを見つけられたのかっていうとー、ズバリ霧が晴れたからなんだよね~。いや~お姉さんは頼もしいよ。君がたった一人で霧の怪異を倒しちゃうんだから。ボス戦とかあるかなって思って、温存するよう神影ちゃんに言ってたわたしがバカみたいだー。まぁ、まさかマサカのマッカーサーで大ボスが現れるとは。この旭の目をもってしても見抜けなかった」
「ったく、この節穴が……」
話してもいないのに霧の怪異を倒したと見抜かれている。相変わらずの観察眼だ。しかし単独行動の理由を訊かないのは、ソッチの方の事情についても見抜いていると考えていいのか。
「と・も・か・く!この霧が晴れたおかげでデカイ霊力の場所がわかるようになって、道もまっすぐ歩けるようにもなって万々歳……とはかないんだよね、コレが。だからこそ神影ちゃんに頼んで外との分断を維持してもらっているんだけど。…コッチが迷わなくなるということは、外の警官たちも迷いなく突入してくるってこと。でもわたしたちって警官に見つかったらマズイことになるじゃん」
当たり前かのように探偵は言う。
それに気になった真由ちゃんが手を挙げて訊いた。
「あの、マズイことって何ですか?」
「おや、まゆたんわかない?まゆたんわからないの?マズイことってのはね、事情聴取アーンド施設封鎖で温泉に入れなくなることだよ!」
そう言われて気付く。まだ私達温泉入って無いな、と。
しかしそれは今やるべきことなのだろうか。真由ちゃんだって何とも言えない表情をしている。
「待って、先に犠牲者のお別れだけさせて」
「……わかった。その間に風呂掃除とお湯沸かしやっとくから。まゆちゃんは氷融かしだけやってから来て」
と、珍しく真面目に探偵は言った。最後にボロボロの身体について心配された後、誤魔化す間も無く掃除に行った。若しや未だに私が不死身だと勘違いしているのだろうか。
真由ちゃんが三つの氷柱を融かす(と言うよりも氷柱を燃やすと言う方が正しかった)行為を終えて風呂場に行くことを見届けた後、ソウ先輩から話し掛けられた。
「いやー、怖かったです。ホントに。だって殺し合いした知らない人と戦場を駆け巡るンですよ。怖いに決まっているじゃないですか」
探偵達が話している間、ずっと無言だったソウ先輩の一言目がそれだった。この様子では別行動している間もずっと連絡係に徹していたのだろう。
「コレにはナニカ……スゴク大きいお返しをしてもらわないとですね。例えば学校に必ずイケル権利だトカー……チラッチラッ」
自分でチラチラ言うのか。その行動に若干引いてしまったが、そもそもの契約として学校に行けるようにするとあったので心配しなくてもよい、と伝えると目に見えて喜んでくれた。
さて、と独り言ちりながら揃えた死体達を眺める。
事の顛末を見届けたであろう彼にも、謝らないといけない。
「アベンジャーズ、そこに居る?」
反応が無い。
「…………アッセンブル」
「呼ンダカ、仇?」
例の心臓骸骨が姿を見せた。その表情は初めて見た時と変わり無く見える。
「君の仇なんだけどさ、この御婆さんだったんだって」
「……」
私は凍傷により薬指が欠けた手で、丁寧に横たえられた女将の死体を指差しながら言った。
「私は君を止めておきながら、女将を司法の手で裁かせると言っておきながら、既に女将は死んでいたんだ」
「…………」
その表情に変わりが無い。無表情を恐いと思う人の気持ちが分かった。相手が何を考えているか分からないからだ。私は今、彼に怒られているのか。それとも責められているのか。将又何も感じていないのか。いや、何も感じていないことは無いだろう。あれだけ執着していたのだから。
「結果、私は出来もしない約束を取り付けさせた。これを知った時、嘸かし滑稽に思えただろう。いや、君の場合は滑稽だとか茶番だとかより、心底下らないモノだと思い恨んだことだろう」
「……………………」
矢張り無反応を貫いた。表情を見せたからと言ってそれが本心からかは分からないが、それでもあった方が安心すると言うことを今知った。
「ごめんなさい。いや、ごめんじゃ済まされ無い。本当に申し訳無いことをした」
真由ちゃんに謝った時と同じように、土下座をして謝ろうとする。しかし、幾ら身体を動かせるようになったとは言え、体力まで回復したとは言い難い。屈んだ段階でバランスを崩し頭から地面に衝突する。痛みに耐えて再度姿勢を保とうとした時、遂にアベジャーズが語り出した。
「仇、オマエノ行動ハヨク分カラナイ。確カニ女将ハ最優先復讐対象デハアッタガ、末路ヲ考エレバコイツニ幸セナド無カッタハズダ。ソレナラワレワレハ十分ダ。コノ手デ殺シタカッタガ、復讐対象ハ多イ。贅沢バカリ言ッテラレナイ」
復讐対象。それは逃した雪女のことか?だがそれなら多いとは表現しないだろう。だとしたらその復讐対象とは一体何を指すのだろうか。そう考えた時にアベンジャーズが旅館に泊まっていた人々全員を殺そうとしていたことを思い出す。
まさかコイツは全員を殺すまで止まらないのか?
「ワレワレノ復讐対象ハ全人類ダ。見て見ぬフリヲシタ奴ラニ正義ノ鉄槌ヲ下スノダ!」
それは想像の斜め上を行く回答だった。人類全員となると無関係な人が大半を占めるだろう。それなのに殺そうと言うのか、コイツは。
「ソモソモナゼ人ハ復讐ヲスルノカ考エタコトハアルカ?死ンデ欲シイカラカ?否、人間生キテイレバ必ズ死ヌ。ナラバ自ラノ手デ決着ヲ付ケタイカラカ?否、直接手ヲ下サナクテモ不幸ナ噂ヲ聞クダケデ満足デキル」
ここで区切ってアベンジャーズは一つの結論を述べた。
「ソレハ常ニ誰カヲ攻撃スル理由ヲ探シテイルカラダ。一度攻撃サレタラ次モ攻撃サレナイヨウ反撃スベキ、トイウ意見ハ尤モラシイダロ。反撃サレズニ他者ヲ害ソウト滾ル悪意ノ塊。ソレコソガワレワレノ本質。ソレコソガワレワレノ使命。人類ガ存続スル限リ、ワレワレハ”アラ害”続ケル」
ここまで人類への敵意を主張する彼は、ここで倒される可能性など考えていないのだろうか。確かに彼は明白な人類の敵だ。逃していい相手じゃない。
それでも、彼は私の支配下の眷属。私が最後まで責任を持つべき相手でもある。既に約束を一つ違えている私だ。正気を取り戻させることなく殺すなんて真似は出来ない。
「フハハハ。イイゾ。ソノ困ッタ表情。ソノ顔ヲサセルノモマタ復讐ト言エル。……ダカラコソ許ソウ。許シテヤロウ。ソノ交換条件トシテ、モットワレワレニ復讐ヲサセロ。仇、オマエノ下ニイレバワレワレノ助力ヲ乞ウトキガ来ル。祓イ屋ニ目ヲ付ケラレルコトナク復讐デキル最高ノ環境ダ」
コイツは正気を失っている。それでいて常軌を逸している。だがそれは知能が低いこととイコールでは無い。キチンと私が不義理を働いてはいけないと知っていて、さらに力を欲していると理解し最適な行動を選択出来る。正しく怪物だ。
それでも私は許しを乞い、力を欲した。それに応えてくれるなら、悪魔であっても構わない。
「分かった。その条件を飲むよ。だけどその場合、私の下に付くわけだから一つだけ言わせて」
「イイゾ。何デモ言ッテミロ」
自らが優位であると信じて疑っていないアベンジャーズに一言、今後の上下関係をシッカリさせる為に言っておく。
「君に私を許させてやる」
彼は骸骨でも表情が笑顔に変わる、と言う不思議を披露しながら私の中に戻って行く。下手な命令では隙を突かれて死にかねないが、上手く御すれば改心させられるかもしれない。
そんな淡い期待を持って健二に買い出しを要求する。壊死して黒ずんだ両足が治せなくて困っていますと素直に打ち明けていれば、ここで待たなくても良かったと後悔する。だが始めからそのことに気付いていたとしても、きっと私は言わなかっただろう。アベンジャーズと言い、探偵と言い、私の周りには潜在的な敵が多すぎる。




