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第十話 この世界で「終電逃しちゃったね」は死亡フラグ


 【幽霊屋敷】で真っ先に引きずり込まれて皆を危険に巻き込んだ。あの日怪異解放連合とか徴収特権(ドミネーター)とか話さなければ皆は何も知らずに幸せに暮らせたかもしれないのに。

 狙われていたのは私、怪放を潰したかったのも私。どう考えても私のせいだ。



 もしかしたら調子に乗ってしまったのかもしれない。まともな感性がないのに優しい人達の近くに居れば優しくなれると勘違いした。実際はそこまで変わってない。死んだら戦力が減るとしか考えていないただの屑だ。

 これなら優しくなりたいなんて夢、夢のままでよかった。


「やはり必要なのは仲間ではなくただの配下。その方が効率的」


 遂には取り繕っていた口調さえ元に戻った。それでいい。今は一人だ。


「【裏掲示板】によると終電を逃した後に来る電車に乗ると聞いたことのない駅に連れてかれるらしい」


 自殺者が多数いるためか駅のホームには転落防止用の柵があり、駅員がボタンを押さない限り開かないようになっている。丁度終電が出発し駅員がホームに残った私に声を掛けてくる。


「君?どうしたんだい?終電はもう行ってしまったよ。ここからは怖いとこに連れてかれる怪異の列車しかないよ。…もし行くとこがないならおじさんがいいホテルを紹介してあげようか。そこで止まって朝一で帰りなさい。お金がないならこの一万円札を上げるからそれで」

「いらないよ」


 あまりにもしつこかったので返事をする。家に連れ込もうとしている訳でもなく寧ろ金まで与えようとするあたりいい人なのだろう。だからこそ傷つけたくない。


「私はここの怪異列車に乗りに来たの。勘違いしないように言っておくけど仕留めるためよ」

「仕留めるって、君。もしかしてあれを!無理だよ、君みたいな小さい子じゃ。あれはたくさんの霊能力者たちが挑んでも解決できなかった怪異だ。そんじょそこらとは各が違う」

「わかってる。だからいいの。ここであれを倒せる位強くなきゃ私の価値はない」


 そうだ。夢を諦め一人になり、それで弱くなっていたら皆に会わせる顔がない。そう考えていると求めていた怪異の列車が来た音がする。そして他の場所に居たはずの駅員も階段からこちらへ向かってきた。


『こちら、特急怪異号。乗車の際は黄色い点字ブロックの内側にてお待ちください』

「無駄だよ。貴方達に私は止められない。だから、待ってて」


 そう言うと閉じたままの柵を乗り越え電車の扉に乗り込んでいった。


「馬鹿野郎!なにボーっとしてやがる!乗っちゃったじゃねぇか!」

「す、すみません!」


 外から響く罵声をBGMにしつつ、今の言動を振り返る。


(待ってて、何で私はそんなことを言ったのだろう。また会う必要は無いのに)


 閉まっていくドアの向こう側は雨だった。ポツポツと降り始めた雨らしくいずれザァーザァーと降るのだろう。閉まった扉のガラスを見た時、こちら側も雨だったことに気が付いた。決戦まで時間がない。理由も分からない天気雨が土砂降りでないことを祈る。






『ご乗車のお客様に連絡です。もうすぐ~三途之川~三途之川~』


 ノスタルジックに悲しんでいるとそんなアナウンスが聞こえてきた。せめて如月駅通過しろよ。

 車両の扉が開き無人の駅に降り立つ。急いで先頭車両に行き、運転席を強襲する。運転席に居たのは一人の駅員の姿をした鬼だった。


「な、何だ貴様!もしや帰して欲しいのか!残念だったな!俺を殺しても元の場所にはもどr」

「黙れ。私が言う通りにこの列車を動かせ」


 既に徴収特権(ドミネーター)によって支配しているためこの列車を手に入れたも同然だ。これで帰りの足は確保した。後はこの駅の探索だ。聞くところによると異界は通常より怪異が出やすいらしい。



 駅のホームを進み階段を降りるとそこは一つの町だった。歩いてみると無人のようで誰一人として出会わなかった。途中、掲示板の張り紙を覗いたがそこには全く知らない文字で書かれていた。その文字は遠目で見ると漢字のように見えたが、文章全体を通して見ると共通した文字がないことからこれは文字ですらないただの擬態の可能性がある。



 この町を歩いて結論付けたが、やはりここは日本の田舎町の擬態だ。普通家屋にはその地域の気候に合わせた特色がでる。例えば雪国では雪が積もらないよう急勾配だとか、沖縄では耐風性重視のフラットな形だとか。だがここでは一軒一軒バラバラだ。間違っても例に挙げたような特徴は隣接しない。



 その上町がキレイすぎる。道路に鳥の糞も無ければ、染みも無い。こじ開けた民家の中も見たが、冷蔵庫の中に食べ物がない。まさに形だけ取り繕ったものだ。

 では何故形を取り繕う必要があったか。それはこの手のものでありがちな迷いこんだ人間を食べるためだろう。力を蓄えた怪異が居そうで助かる。そう考えている時だった。



 背後から一張羅のパンツを穿いた鬼が現れた。その鬼は金棒を持ちこちらに突っ込んでくる。


「こいつの力を見るいい機会だ。出てこい。【幽霊屋敷】の悪霊改め、妄執の老紳士」


 妄執の老紳士は以前まで、死んだ孫娘が儀式で蘇ったと誤認していた。一度誤認は解いたが、心の拠り所を失い暴走したため仕方なく私をその孫娘だと誤認させている。とは言えこいつも最初は被害者だった。そのため戦いが終わったら成仏させたい。



 そんなことを考えている内に妄執の老紳士が鬼の頭を砕いた。妄執の老紳士は捕まえる際、ボロボロにしすぎたせいで殆どエネルギーが残っていなかった。そのため大量にあった魔の手が四本にまで減り力とスピードが半減した。それでも容易くコンクリート壁を砕く威力があるためかなり強い。


「やはりあの程度の鬼一匹ではなかったか。屋根の上、壁の裏、挙句他所の家の中からも這い出てきた。が、この数は流石にきついだろう。残りは私がやる」


 徴収特権(ドミネーター)を使い視界内の全ての鬼からエネルギーを貰い干からびさせていく。どうやら鬼達はかなりの力を蓄えていたようで私の寿命が三年も伸びた。


「質より数なら私の敵ではない!聞こえているか!鬼の親玉!」


 こちらを観察しているかもしれない親玉に向けて挑発をする。これであちらも学習したろう。大群を仕向けても意味がないことを。


「そうか、では相手になってやろう。小さき者よ」


 野太い声が響き、家一軒分の大きさを持つ赤い鬼が現れた。しかし姿は他の鬼と同じでパンツ一枚に金棒という奇特な恰好だった。鬼の巨体は一歩歩くごとに地震のような振動を放ち、右手に持っている金棒はその巨体と比べても遜色なかった。


「でかいな。よし、お前も戦え。七不思議最後に出会う守り人。【神秘の番人】」


 【神秘の番人】は妄執の老紳士と同じく弱体化するということはなく、封印の番人として封印対象からエネルギーを吸い上げ強さを維持している。最も一度戦うとエネルギーを補給するために学校に戻らなくてはいけないという弱点がある。



 最初に仕掛けたのは鬼の大将だった。奴が振り下ろした金棒を避け、【神秘の番人】が急接近する。その隙を逃さず妄執の老紳士が近づき、逃亡阻止の呪いを付ける。これで逃すことなく手駒にすることが出来る。


「何だ貴様ら、思っていたよりやるなぁ」


 奴は【神秘の番人】の剣撃を金棒で受け止め言い放った。流石の【神秘の番人】も金棒を切ることは出来ないようで攻めあぐねている。時折鬼がこちらに瓦礫が来るよう家を蹴飛ばしてくるので、それを避けることに精一杯だ。

 使うか秘密兵器。



 皆さんは駅で乗車してから今までの私の動きを見て、何か気になったことはないだろうか。そう病弱で運動出来ない私が柵を乗り越えダイナミック乗車していることだ。

 私はあの日【付喪神】も回収していた。あの【付喪神】はかなり邪悪で悪意をもって人を陥れる性格だったのだ。だからぞんざいに扱うことにした。はっきり言ってあの怪異は特に動くことの出来ない置物のようだったので私が受けたダメージを転写するタンクとして活用することにした。



 最初の実験として繋ぐ死体は人間でなくてもいいのか確かめた。買ってきた牛、豚、鶏の肉を繋げて放置した。すると見事に付喪神の一部となったので、全身をアルコール消毒した鶏肉で置換した。腐らないよう大量の食品添加物で調理し、防腐剤と共に業務用冷蔵庫に投入した。

 テセウスの船のように体を交換し続けた【付喪神】から作ったこれを、テセウスの死体と名付けた。






「どう真由ちゃん。テセウスの死体って名付けてみたんだけど」

「えっと、テセウスの死体だとただの死んだテセウスじゃないかな?」






 一瞬嫌な記憶が蘇ってしまった。あれはもう捨てたものだ。気にする必要はない。

 兎も角テセウスの死体を使い、ダメージを移すことで無茶な動きを連続で行える。例え筋繊維が断裂しても止まることはない。

 その状態で鬼の足元へ行き、右足のアキレス腱を切断する。これにより体勢を崩した鬼が【神秘の番人】からの剣戟を受ける。肩から首に掛けて致命的な一閃を受けたが、鬼は止まらなかった。金棒を振り下ろし、【神秘の番人】を吹き飛ばす。残念だが、もうこの戦いで【神秘の番人】は使えないだろう。


「どうした!小さき者よ!頼みの怪異は死んだぞ!」

「五月蝿い!まだ私がいるだろ!」


 そう言って残った鬼のアキレス腱を切断し完全に立てなくする。この鬼も強力な怪異であるためすぐにアキレス腱を治すだろう。だからこそその前に決着を付ける。


『妄執の老紳士、その位置で呪いを発動しろ』

「何だぁ、場所が変わって」


 その言葉を言い切るより先に最高速度で突進してきた列車が首に突き刺さる。幾ら頑丈な鬼と言えど首に大質量の物体が高速でぶつかれば衝撃で骨が折れる。放置すれば死ぬだろう。


「起動しろ、徴収特権(ドミネーター)。では鬼の大将よ。私の配下となれ」











***視点:とある減給中の駅員***


 僕は昨日、人を殺した。正確には直接手を下したわけじゃない。見殺しにしたんだ。あの少女をちゃんと引き留めていたら死ななかったかもしれない。


『こちら、特急怪異号。乗車の際は黄色い点字ブロックの内側にてお待ちください』


 今日の終電が終わったため残った人を乗せにこの怪異はやってくる。あの子はもう助けられないけど、それでも他の人を助けない理由にはならない。だからホームに残った人が乗らないよう注意しに行く。


「あれ?誰もいない」


 柱の陰にでも隠れているのかもしれない。怪異の列車が来ているのに人がいないはずがない。

 いつもと違い、列車の先頭車両が僕のいる地点で止まる。その扉が開く前に中にいる子を見て驚いた。


「ねぇおじさん。ちゃんと待っててくれた?」


 それは僕が見殺しにしたはずの子だった。扉が開き柵を乗り越え混乱する僕の前に姿を見せた。怪異を仕留めると言ったその子は昨日と比べ服が汚れている。本当に倒したのか?一人で?


「いったい、どうして?」

「仕留めた。ただそれだけ」


 何てことないように言ってみせたが、その偉業は今まで誰にも達成できなかったことだ。本当ならもっと賞賛されて然るべきで、英雄として祭り上げられるほどだ。

 いったい何がこの子をここまで駆り立てるのか気になってしまった。


「昨日あれを倒せなきゃ価値がない何て言ってたけど、君はどうして強さを求めるの?」

「怪異に勝つため。そうでなきゃ私が被害に遭う」


 酷く矛盾したことを平気で言う。被害に遭いたくないなら逃げればいい。怪異は世界中どこにでもいるけど守ってくれる人はいる。そこに行けばいい。


「そうか君は偉いね」

「は?何の話?急に」

「いやおじさん、頑張ってる子は褒めたくなるんだよ」

「変なの。でもありがとう。それじゃ、また来るね」


 少し呆れた顔で言われたものの、また来ると言うときには笑顔になっていた。それを言われたとき、僕も笑えていたらいいなと思った。どうかあの子に笑顔が届きますように。


「よぉし明日からも仕事頑張るぞ」


 大した霊能もなく、才能もない僕だがこの仕事だけは頑張っていきたい。寧ろこれしかできないからこそ頑張りたい。あの子の言葉通り、怪異の列車が二度と来ることはないという予感と共に出発するのを見届けた。こうして僕は未来に向かって出発していく。決められた路線しか走れなくても、走るしかないとあの子が教えてくれたから。



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