閑話 とある使用人の日記
この閑話の時代設定は大正ぐらいです。
四月一日
今日から働く館の主からの命令で日記を付けることになった。気になったこととか自由に書いていいと言われたが正直言ってわからん。だが行き倒れていた俺を拾ってくれた恩がある。はっきり言って金持ちは気に食わないが精々利用させてもらおう。
追記:後で漢字を教えてもらって書き直した。それとこの頃の反抗的な俺を殴りたい。
四月二日
この館には俺と主以外にも主の孫娘とババアメイド、ジジイ執事がいる。何でも妻と息子と婿が先にくたばっちまったらしい。ちょいと気の毒だが、あいつらは老い先短い。ババアとかメイドというより冥途って感じだ。孫娘の方と仲良くなりゃ俺にも遺産が入ってくるかもしんねえ。そうすりゃ俺の人生バラ色だ。
四月三日
孫娘の名前がわかった。アリスだ。この名前だけは覚えておく必要があるから書いておく。あとアリスから折り紙を貰った。ハッキリ言ってゴミだ。食えるわけでもないのに人に渡す意味がわからん。とりあえず見つからないよう捨てておいた。案外このペースで付きまとわれたり貢がれたりしたら鬱陶しいかもしれない。貢なら金をくれ。金を。
四月七日
日記をつけるのを忘れてた。しかもババアに見られてぶん殴られた。あのババアまじふざけんな。でもアリスちゃんは天使だった。こんなこと書いてもまだ庇ってくれた。お陰で今だにこの屋敷に居られる。だが流石に一月くらいは真面目に働かないと追い出されるかも。しばらく頑張る。
五月十五日
いろいろと飛んだが大したことはなかった。それより今日アリスちゃんが仕事ぶりを評価して花冠をくれた。今この屋敷で慰めてくれるのはアリスちゃんだけだ。花冠は腐るまでくらいは飾っておいてもいいかもしれない。
六月十日
ジジイ執事が腰をやった。どうやら玄関で受け取った荷物を持ち上げるときに折ったらしい。正直仕事中にグチグチ指摘ばっかしてきて腹が立ってたから嬉しかった。アリスちゃんに嫌われたくなかったから顔に出さないようにするのが大変だった。それとジジイの仕事をババアと分担して引き継ぐようになった。どうせ老いぼれの仕事だ。そこまで変わらんだろう。
六月十一日
仕事辛かった。どうやら俺が思っていた以上にジジイが仕事していたらしい。しかも粗忽な俺では仕事にならんとババアの方に幾つかいった。俺の仕事がなくなって助かるが、ババアも腰やらねえよな。一人じゃ無理だぜ。
六月十五日
どうやら急遽代わりの人を雇ったようだ。先輩として仕事を教えろって言われたからいっぱい押し付けてやった。そしたらアリスちゃんに見つかって俺が怒られた。ちくしょう。
六月三十日
部屋で後輩と賭け麻雀してたらババアに見つかった。生意気にも後輩が勝ってたから有耶無耶に出来て助かった。ババア、ナイス。
七月七日
今日は年に一度の織姫と彦星が会える特別な日らしい。アリスちゃんと夕飯の買い出しに町で素麺を買ってきた。そこで素麺を食べると健康になれると教えてくれた。来年もまたみんなと食いたい。
七月八日
アリスちゃんが死んだ。
七月九日
昨日は何も書く気になれなかった。その分ここに書いておく。昨日の買い出しにババアとアリスちゃんが行ってその帰りに自動車に轢かれたらしい。アリスちゃんが死んでババアも立てなくなって病院にいる。だめだ。辛くてこれ以上は書けない。また明日にする。
七月十日
アリスちゃんが死んでからみんなの顔が暗い。ババアは自分が悪いと責めてるし、後輩は笑わなくなった。主人も今だに写真を見て泣いている。新しい物だからってみんなで撮った写真も、みんなで新しく撮れなくなった。
七月二十日
主人がアリスちゃんを蘇らすなんて言ってる。いくら怪異でもそんなのは無理だ。だがそんなことを言って主人の心を壊したくない。アリスちゃん俺どうしたらいい?
八月八日
ついにやっちまった。主人が人を殺した。それで俺も手伝って儀式した。でもアリスちゃんが戻ってきたから大丈夫だ。殺したのは言わなきゃいい。それにアリスちゃんが帰ってきたからみんなまた笑えるはず。
八月九日
帰ってきたアリスちゃんは少し性格が変わってた。前はよく話してくれたのに今じゃ近寄らないでとか言われる。でも蘇った奇跡が起きたから性格変わってもおかしくないんだ よな?
九月十日
アリスじゃない。誰だあいつ。
庭の花を踏んでいた。前は踏まないよう俺に言ってきたのに。しかも花冠作れるか聞いたらあんな汚いもの触れるわけないとか言った。あいつはアリスじゃない。
九月十一日
後輩に逃げるよう言った。主人の気が違ってしまった。いつの間にか増設した地下室で、今でもアリスちゃんのために人を殺してた。もう駄目かもしれないが、主人に自首するよう言ってみる。この屋敷は壊れたが、みんなには笑って欲しい。
追記:そう言えばアリスちゃん以外の名前聞き忘れたな。自首させた後に聞いてみる。