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灰色の海

作者: 宵待 黒

地球の7割以上は海で構成されているらしい。

かつての宇宙飛行士ガガーリンはこういったとされる。

「地球は青かった」と。

それでいうならば今の地球は灰色なのだろう。

2xxx年、この年に起きた天変地異により、海は死んでしまった。すべての海が生物の活動できる場ではなくなったのだ。

海に属するすべての生命がその命を失った。

正確には一部を除いてではあるが。水族館などの陸にいた海の生物などはその命をつないでいた。

しかし、いくらかの年月が経った今では魚などの生き物は金持ちの道楽として飼われている。


そんな授業を受けた記憶がふと蘇った。

あてもなく彷徨って浜辺にいたからだろうか。

ふと灰の色に染まった海の方を眺めてみると、青いモノが見えた。

目を凝らしてみるとどうやら人の形をしているようだった。

溺れている、そう気が付いたときには体が動いていた。


何とか浜辺に引き上げて、溺れていた人を見る。

20代ほどの女性のようだった。青のワンピースに身を包んだ綺麗な人だった。

そこまで人命救助の知識があるわけではないが、自分の可能な範囲で治療をした。


少しすると、彼女が目を覚ました。

始めは見知らぬ人が近くにいたからか怯えていたが、助けたことがわかったのかお礼を述べられた。

少し話をして分かったのは、彼女には記憶がなく、どこから来て、何をしていたのかもわからなかった。


仕方がないので、彼女を連れて家に戻ることにした。

着ている服も濡れている、どうすることもできなかったのだから仕方ない、緊急事態だから、

いろいろと頭の中で正当化しようとしたがどうあっても身元不明の女性を連れ込むなんて誰に何を言われても言い返すことができない。


そこから彼女との不思議な暮らしが始まった。

僕は可能な限り、彼女に寂しい思いをさせない様に色々なところに連れて行った。

その過程で彼女には、そもそも生きていくための常識がないように思えた。

現代の知識もなく、そもそもお金の概念も知らなかった。

ただ、何も知らないわけではなかった。

古く寂れた映画館に昔の映画を見に行くという僕の趣味に半ば付き合わせた形だったが、その映画を彼女は知っていたらしい。

どこで見たのかは分からないらしいが、彼女はその映画を見て涙を流していた。

その横顔は、どこか寂しそうに見えた。


彼女との生活が日常になったある日、

「貴方はこの世界が好き?」と聞かれた。

随分と唐突な質問だったが、もともと死のうと考えていた僕は、今では彼女と過ごす時間をかけがえなく感じていた。

その時間を過ごせているのもこの世界だと考えれば好きなのだろう。

そう思い返答すると、彼女は少し寂しそうに笑った。

次の日の朝、彼女はいなくなった。

それと同時に世界中の海が昔のように生命に溢れ、地球は青に満たされた。


彼女が何者だったのか、今では推測することしかできない。

それでも、彼女と過ごした日々は街を歩くたびに淡くちらつく。

青く澄んだ色に満ちていた心は、灰色にくすんでいた。

それでも、地球は青く澄んでいた。

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